第16話 坂木竜太は怒る

 キッチンでコーヒーを入れ、それを持っていくと、竜太はテーブルにコンビニで買ってきたであろうお弁当を出していた。

「サンキュ。お前朝から何も食べてないだろ?コンビニで買ってきたから食えよ」

 竜太が買ってきてくれたのは、小さい容器に入った二色ご飯。鶏のそぼろとスクランブルエッグがのっている。

 普段そんなに食べる方ではないし、僕の状態を鑑みてのチョイスだろう。親友の優しさが嬉しい。でも……。

「ありがとう竜太。でもごめん。今は食べられない」

「どうして?」

「今、それを食べても……もどしてしまいそうで……っ!」

 僕はまた昨日の事を思い出してしまい、目に涙が溜まる。

「……恭平。辛いと思うが、何があったか話してくれないか?」

「……わかった。実は───」

 これ以上一人で抱え込むのは辛いと思った僕は、少し考えた後、訥々とつとつと昨日の出来事を語り出した。

 途中何度も泣きそうになり、言葉が詰まっても、竜太は急かすことなく、ただ無言で僕の言葉に神経を集中してくれた。

 途中から竜太の表情がみるみる怒りに塗り潰されていったけど、僕は話す事をやめなかった。

「と、いう訳なんだ……」

「…………」

 僕が話終えると、竜太はただ無言だった。俯いて表情はわからなかったけど、多分怒ってくれているんだというのは伝わってきた。

「……あのクソ女っ!」

 そう言うと、竜太はテーブルをバンッ!と叩き、立ち上がった。

「何様のつもりなんだよ!? 昔から恭平に尽くしてもらっていて、一人じゃ家の事何も出来ないくせにそれを当たり前と思い込んで恭平に感謝の一つも言わない。恭平はてめぇのお世話ロボットでもなければ召使いでもない、ただの一人の幼なじみに恋するどこにでもいる普通の男子高校生だ。それをこんな最悪な形で恭平の心を弄び踏みにじった!こんな酷い話あるかよ!」

「竜太……」

 僕の話を聞いてこんなにも真剣に怒ってくれる親友を見て、僕の目頭はまた熱くなった。

「ありがとう。竜太」

「礼を言われるほどの事じゃない。親友が傷つけられたんだ。怒って当然だろ」

「…………っ!」

 それから僕はまた少し泣いた。

 泣いている間、竜太は何も言わずにただ僕の肩に手を置いてくれていた。

「恭平。お前、まだあの女の事が好きなのか」

 僕が落ち着いたのを見計らって、竜太が口を開いた。

「え?……う、うん」

 昨日瑠美夏にされた事を思うとやっぱり辛い。でも、ずっと思い続けていた初恋の女の子を簡単に嫌いになれるほど、僕は器用な人間ではない。

「……また昨日の様な事があるかもしれないんだぞ」

「……う、うん」

「いや、昨日お前がされた事が可愛く見えるくらいの事を今後あいつがしてくるかもしれない。お前はそれでもあの女の傍にいるつもりなのか!?」

「…………」

 僕は答えが出せなかった。

「……以前のお前なら、こんな状況でも即答できたかもしれないのに、今は迷ってるんだな?」

「!」

 竜太の言うとおり、僕は迷っていた。答えをすぐに出せなかったのが何よりの証拠だ。

「恭平。今、選べよ」

「な、何を……?」

「このままあいつの傍にいるのか否かを」

「え?」

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