第18話 行動開始
あれから時間が進み、今は夜だ。
僕は今、自宅ではなく竜太の家にお邪魔している。
あの後の竜太の行動は驚くほど早かった。
「……よく決断したな。恭平」
竜太が僕の肩に手を置き、優しく語りかけてきた。
それから泣いた僕を、竜太は泣き止むまでずっと待っていてくれた。
「よし。それじゃあ準備するぞ」
僕が泣き止んだのを確認すると、竜太は両手をパンッと叩き、立ち上がり言った。
「行くって、どこへ?」
僕は竜太がどこへ行こうとしているのかが分からず、首を傾げて聞き返した。
「どこへって……俺の家に決まってるだろ」
竜太は、さも当然と言ってのけた。いや、僕初耳なんですけど。というよりも───
「竜太の家、お邪魔していいの?」
竜太の中では決定事項になってるけど、僕がいきなり押しかけてしまったら、おじさんやおばさんが困惑するんじゃないかな? それに、迷惑になってしまうのでは……。僕はそれが一番怖い。
「当たり前だろ? 親父やお袋のことなら気にすんな。既に二人には言ってある。ついでにお袋には恭平の分の晩飯も頼んであるから」
「え? ……それ本当?」
竜太、既にそこまで手を回していたなんて。さすがに周到すぎないかな? もし僕が竜太の言葉でも瑠美夏への想いを貫く選択をしていたら、その用意されていた僕の分の夕食はどうなっていたんだろう?
「マジに決まってんだろ? とりあえず、あの女が帰ってくるまでにここを出たいから、お前は必要最低限の荷物だけ準備しとけ」
「わ、わかった」
竜太の言葉に頷いて、席を立ちリビングから出ようとし、そのタイミングで竜太を見たら、彼はスマホを操作し、どこかへと電話をかけていた。
「俺だ、坂木だ。……うん。うまくいったよ。だから───」
一体誰と電話をしているのかはわからないけど、これ以上勝手に聞くのはマナー違反だと思った僕は、自分の部屋に上がり、教科書やノートの学校で使う物と着替えや変えの下着等を適当にカバンに詰め込んでリビングに降りた。
リビングに向かうと、竜太は既に通話を終えていて、僕が降りてくるのを待ち構えていた。
「ごめん。待たせたかな?」
「待ってねぇ……というか、俺にそんな気を使うなよ。親友だろ?」
「……うん。ありがとう」
竜太の優しさにまた涙が浮かびそうになったけど、それを堪えて竜太と一緒に自宅を出た。
瑠美夏はまだ家に帰っていない様子だった。
竜太の家は僕の家から徒歩十数分の所にある一軒家だ。ここに来るのも随分久しぶりだなぁ。
数年前まで僕は竜太の家と僕の家を交互に行き来して遊んでいたっけ。小学校中学年までは瑠美夏も僕たちと一緒になって三人で遊んでいた。
でも、いつからか瑠美夏は僕たちとは一緒に遊ばなくなった。理由を聞いてもはぐらかされておしまい。「もう聞いてくるな」という感じを強く出していた。
だから僕も聞くことをやめ、昨日まで普通に過ごしていた。
竜太は瑠美夏のことをいつからか「あの女」と言うようになった。もう随分竜太の口から瑠美夏の名前を聞いていない。多分、僕と瑠美夏のやり取りを見ていて瑠美夏に嫌悪感を抱いていたからなんだろう。
僕たち三人が以前のように遊べる日はもう来ないのかな?瑠美夏と竜太も幼なじみなんだから、やっぱりいがみ合うより仲良くしている二人を見たい。
それから僕は、竜太のお母さんが作ってくれた夕食を食べた。日中より精神も安定していて普通に食べることが出来た。
メニューはオムライスで、僕はおばさんの作るオムライスが昔から好きだった。
昨日の夜から何も食べていなかったから、僕はおばさんの作ったオムライスをあっという間に平らげ、さらにおかわりもした。
その様子に、竜太も竜太の両親も驚いていた。
僕が一般的な男子高校生より少食だから、あまり食べ物にがっつくのも、ましてやおかわりをするのも珍しいからだ。
そんな僕を見て、おばさんは驚きの後に喜んでいた。
『そんなに私の作るオムライスがすきだったの?』と。
確かにそれも半分あるけど、もう半分はかなりの空腹だったから。
おばさんの作るオムライスが好きで、僕もオムライスを相当作った。だから僕の一番の得意料理はオムライスだ。おばさんのには敵わなくても、他の人に自信を持って提供出来るクオリティのオムライスは出来ると自負している。
だけど、瑠美夏はそんなオムライスを食べても感想を言ってくれなかった。ただの一度も。
そりゃそうだよね。昨日言われたような感情を瑠美夏は抱いていたんだから。いくら自信のある料理を出しても、瑠美夏には関係ないから。
そう思うと悲しくなり、また涙を流しそうになったけど、ここで泣くのはまずいと思い、頭を振り、ネガティブな思考を無理やり止めて、おばさんのオムライスを堪能した。
リビングを出る時、おばさんから、今度は僕の作ったオムライスをご馳走してほしいと言われた。
僕の作る料理では、おばさんを満足させることは出来ないと思いながらも、断る理由がなかったので了承し、リビングを後にした。
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