第8話 『悪女』は計画を実行する②

 何でここで僕以外の男の声が聞こえるんだ?

 テレビから聞こえてくる声ではない。

 電話をスピーカーモードにして話しているわけではない。

 瑠美夏のお父さん……は離婚して今は遠くで暮らしているはず。

 それに、足音も二人分聞こえてくる。

 嫌な考えが頭の中を支配していく。

 でもそんな……瑠美夏に限って浮気なんて。

 そんな一縷いちるの望みに縋るように固まっていると、リビングのドアが開かれた。

「……え?」

 その光景を見て僕は茫然自失となった。


 瑠美夏が知らない男に肩を抱かれ、瑠美夏はその男の腰に手を回した状態でリビングに入ってきた。


 その男は僕よりも長身で、茶髪のイケメン。他校の高校の制服を着ていて、シャツのボタンは二つ開いていて、ネクタイもちゃんと締めていない……如何にも遊んでそうな風貌をしていた。

「あぁ、いたんだ」

「誰だこいつ?」

「あ……ぼくは……」

 僕が必死に声を出そうとすると、瑠美夏が先に口を開いた。

「こいつはまぁ、不本意ながら私の幼馴染よ。家が隣同士で私の身の回りの世話をする事に喜びを感じてるような奴よ」

 瑠美夏の口から「彼氏」と言う言葉は出てこなかった。

「マジかよ。ヤベー奴じゃん。ウケる」

「でしょ?それに関しては多少は感謝してるけど……キモいよね?」

「……は?」

 瑠美夏と男が一体何を言ってるのか分からない。

 そもそもその男は誰なんだ?

「る、瑠美夏。その隣にいるのは?」

「私の彼氏」

「なっ!?」

 瑠美夏はさも当然のように言ってきた。

「な、何言ってるの?彼氏は僕でしょ?」

「あはは、あんたこそ何言ってんの?あんたなんかが私の彼氏なわけないじゃん」

 瑠美夏の口から信じられない、信じたくない言葉が出てきた。

 僕が、瑠美夏の彼氏じゃない?そんな馬鹿な……だってあの時……。

「ぼ、僕が告白した時、瑠美夏は『どうするの?』って聞いて、僕が『付き合おうよ』って言って付き合いだしたのに……あれは嘘だったの!?」

「嘘も何も、私はあんたと付き合ってるって思ったことなんてないし、そもそもあれはあんたに聞いただけで私はそれを了承した覚えはないわよ?それをあんたが早とちりしてただけじゃない」

「勘違いかよ。ダッセー!」

 隣の男がゲラゲラと笑っている。

「てか、あんたを好きだなんて一度も思った事ないし私から言った覚えもない。要はあんたがただ私と付き合ってると勘違いして浮かれていてただけ」

「う、嘘だよ。だって、だって……」

 そう言って僕は必死に瑠美夏と付き合ってからの事を思い出そうとする。だけど……。

「あ、れ……?」

 今まで瑠美夏に好きと言われた記憶がないし、今の男としているような密着もしたことが無い。

 それどころか、僕との会話も全部中身のない相槌がほとんどで、学校では恥ずかしいからってあえて苗字で呼びあって他人行儀になってたのも、もしかして全部……。

「思い返してみた?」

「!」

 瑠美夏の言葉でハッと我に返る。

「全部、そういう事よ」

 抽象的に言った瑠美夏だけど、僕にはその意味がはっきりと理解出来た。

「う、嘘、だよ……」

「まだ信じれない?じゃあ……」

 そう言って瑠美夏は男の正面に回り、僕は瑠美夏の背中を見る形になる。

 瑠美夏は男の首に手を回し、背伸びをして男の顔に自分の顔を近づけていった。

「っ!……あ、あぁ……!」

 瑠美夏が男とキスをした。僕の目の前で。

 それを見た瞬間、僕の中で何かがはじけて、僕は涙を流していた。

「これでわかった?」

「お前、えげつねーな」

 二人が笑う中、僕は足早に瑠美夏の家を出て、そのまま自室のベッドに飛び込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る