第9話 『悪女』は計画を実行する③

 それからどれだけの時間が経ったんだろう。スマホで確認すると時刻は夜の九時を回っていた。

 あの男はまだ帰った様子はない。

 僕が作ったカレーを二人で楽しく食べたんだろうな。

 本来ならあの男が座ったであろう席には僕がいるはずだったのに。

 そんな事を考えていると、僕のお腹が鳴った。

 カレーの事を考えたからお腹が減ったことに気がついた。

 カレーを思えるようになったということは、ちょっとはさっき見た光景から意識をらせるようになったということ。

 あまり食欲はないけど、食べないと良くないから無理矢理にでも胃に入れてしまおうと思った僕は、リビングにおりようとベッドから起き上がった。

 その瞬間、隣の家の瑠美夏の部屋の電気が付いていることに気がついた。

 いつもはカーテンを閉めて、中の様子が分からないようにしていたのに……。そっか、その行動も僕とあまり関わろうとしないためだったんだ。

 静寂の中、そんな事を考えていると、瑠美夏の部屋からギシッという音が聞こえてきた。

「!」

 一度だけじゃない。リズム良くその音は聞こえてくる。

「これって……まさか……!?」

 考えうる最悪な状況を想像してしまい、僕は慌てて頭を振って考えをやめる。

「いや、そんな……いくら何でも、連れ込んだその日にをするなんて……!」

 認めたくない僕は、誰に対してでもなく必死に否定の言葉を口にする。

 だが次の瞬間、僕の希望は粉々に打ち砕かれた。

『ん……あっ』

「!!」

 これは……嬌声きょうせい!?

『あ……そこ、きもちいっ!』

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!

 る、瑠美夏が他の男と……。

「うっ……!!」

 瑠美夏が他の男と男女の営みをしていると想像してしまった僕は、強烈な吐き気に見舞われ、急いでトイレに駆け込んだ。

 トイレで戻してからは、さっきの声が頭でずっとリピートされていた。

 もう疑いようのない真実。

 瑠美夏は僕を好きではない。

 そして彼氏と紹介した男を自分の部屋に連れ込み、ことを為したということ……。

 その事実を突き付けられても、まだ僕は瑠美夏を信じてしまっている。

 もう何が真実で何が嘘なのか分からないくらい、僕の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「うぁ……うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 僕は近所迷惑等考えず、大声で叫びながらトイレで泣いた。

 部屋に戻り、瑠美夏の部屋を見てしまうとまた込み上げてきてしまい、泣き続けた。

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