第5話 『聖女』は昼休みを思い返す

 わたくし、柊清華は足早に教室から出て、そのまま廊下を走っていくクラスメイト、上原恭平さんの後ろ姿をその姿が見えなくなるまで見ていました。

 わかってはいましたが、やっぱりわたくしのことは……。


「……

 先程廊下を走っていったクラスメイトを下の名前を呼び、わたくしは今日の昼休み、恭平さんと小泉さんのやり取りを思い出していました。


 お二人は幼なじみで家も隣同士で恋人同士なのに、何故一緒に登下校したり教室で会話をしたり昼食をご一緒しないのでしょう?

 今日だってお昼休みに小泉さんが自分のノートを恭平さんの所に持って行って、短いやり取りをしただけで小泉さんは自分の席に戻って行きましたし。

 恭平さんは小泉さんから受け取ったノートを開いて気合いを入れたかと思えば、何かを書き始めて……、

 まさか、恭平さんは小泉さんの宿題を代わりにやっている?

 確か五限目は数学で、昨日宿題が出ていた。それを小泉さんがやってなくて恭平さんに押し付けて、恭平さんは嫌な顔一つせずに小泉さんの宿題をやっている光景に、異様な気持ち悪さを感じました。

(これが……こんなものが恋人?)

 恋人というのは、お互いを尊重し合い、助け支え合い愛し合うもの。

 なのに、あの二人のやり取りは、恭平さんの好意につけ込んで小泉さんが恭平さんを利用しているようにしか見えない。

 昼休みもあと少しというところで小泉さんが再び席を立ち、恭平さんの元へ向かうと、小泉さんは無言でノートを受け取ってそのままお礼も言わずに自分の席へ戻っていきました。

 それを見たわたくしは、とても強い怒りが込み上げました。

 彼女は一体何様なんでしょう?

 貴女は恭平さんの彼女なのでしょう?

 恭平さんの優しさにつけ込むだけつけ込んで、自分はそれが当然のことのように振る舞う。

 わたくしはそれが我慢ならず、怒りに任せて小泉さんの元へ行こうとして、ふと恭平さんの方を見ました。

 すると、恭平さんはとても笑顔で、まるで彼女の役に立てて凄く満足して誇らしげな表情をしていました。

「!」

 ……ダメ。ここでわたくしが小泉さんに怒っても、かえって恭平さんを困られる結果になってしまう。

 そう思ったわたくしは、怒りをグッと抑えることにしました。

 小泉さんの方を見ると、スマホで誰かとやり取りをしていて、その顔はワクワクが止まらない様な、そんな顔をしていて、時折笑顔を見せていました。

 何で、その笑顔を彼氏である恭平さんに向けてあげないんですか!?

 これでは、恭平さんがあまりにも報われない。

 そう思うと、わたくしの胸にズキっとした痛みが走りました。

 午後の授業が終わり放課後になると、小泉さんはすぐに教室を出て行きました。

 やはり今日も恭平さんと一緒に下校しないんですね。

 わたくしは、坂木さんと話を終えて帰ろうとした恭平さんを呼び止めました。

 今日初めて近くで見た恭平さんの顔は、目の下にいつもより濃いくまが出来ていて、どことなくやつれていました。

 少しだけ言葉を交わすと、恭平さんは時計を見て慌てて教室から出て行ってしまいました。

 これ以上彼に辛い思いをしてほしくない。そんなことを思いながらわたくしは恭平さんの背中を見ていました。

 小泉さん、貴女が恭平さんをどう扱おうと、恭平さんがそれを望んでいるなら、わたくしは口出しをすることはいたしません。

 ですが、もし貴女の行いで恭平さんが、わたくしのが悲しい思いをするような事があれば……、


 わたくしは貴女を決して許しません!


 そして貴女から恭平さんを奪い取ります。

 どんな手を使っても……!

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