第3話 『聖女』登場
僕が教室に入ったのと同時に予鈴が鳴った。朝のホームルーム開始五分前だ。
瑠美夏の家と僕の家の炊事をしているとどうしても時間ギリギリになってしまう。
僕は両親とは一緒に暮らしてはいない。
父さんの転勤に、母さんがついて行ってしまって、僕の家には僕しか住んでいない。
瑠美夏のそばを離れたくなかったし、両親が家を出る前に、僕は母さんから家事を教わったから一人暮らしでも問題ない。
教室を見渡すと、クラスメイト達がいくつものグループに別れて談笑している。
瑠美夏の席を見ると、瑠美夏は席に着いて一人スマホをいじっている。
誰かとメッセージでやり取りをしているみたいだ。
その表情は笑顔だったので、きっと友達と話が盛り上がっているのだろう。
好きな人の笑顔を見るのは何よりも嬉しい。
僕も自分の席に着くと、五人以上が一つの机を囲って話している。確かあの席は……。
「よっ!恭平、おはよっ」
その集団の方に意識を集中していると、背後から声が聞こえた。
「おはよう。
彼は
身長百八十センチで僕より十五センチも高い。
バスケ部に所属していて細身で筋肉質、短髪のツンツンヘアーが特長だ。そしてイケメン。
「今日も遅かったな。……やっぱりあれか?」
竜太はそう言いながら瑠美夏の方を見た。
「うん。そうだよ」
僕と瑠美夏が付き合っているのを知っているのは竜太だけ。
あまり言いふらされるのが好きではない瑠美夏だけど、親友の竜太には僕達のことを話していた。
「はぁ……お前もよくやるな」
竜太が突然そんなことを言ってきた。
「どういうこと?」
「いや。……お前、今楽しいか?」
竜太の質問はいまいち要領を得ないけど、その質問に対する答えは決まっていた。
「もちろん!」
「…………」
「るみ……小泉さんの身の回りのお世話をして、小泉さんは僕の料理を食べてくれる。大好きな人が僕の作ったものを美味しそうに食べる表情を見るのは本当に幸せだよ」
僕は学校では瑠美夏を苗字で呼んでいる。
これも僕達の関係を隠すためだと瑠美夏は言っていたので僕はそれを二つ返事で快諾した。
「…………お前がそう言うなら俺はこれ以上は何も言わないよ」
竜太はため息混じりにそう言った。
「ただ……何かあったらすぐに言ってくれよ」
「?……う、うん。わかった」
「じゃあ、俺は席に戻るわ」
竜太は自分の席に戻っていった。
その竜太の奥に見える、一つの机を囲っている集団に再び視線を向けた。
正確には、机を囲っているわけではなく、みんなはその席に座っている美少女を取り囲んでいる。
「ほら、ホームルーム始めるから席につけー」
先生が入ってきて、その一言でクラスメイトが自分の席に戻っていくことで、囲まれていた女子生徒の姿を今日初めて視認した。
腰近くまで伸びているさらさらの黒髪、目は大きく瞳は綺麗な栗色で美しい顔立ち。
顔は小さくその肌はとても綺麗だ。
タイプは違うけど、瑠美夏と並び称される程の美人。
身長は僕より少しだけ高く、細身だけど出るところはしっかり出ているといった男ウケ抜群のスタイル。
そして家はこの辺りでは有数の豪邸……いや、お屋敷で、その家の教育方針なのか、とても礼儀正しく同級生にも敬語を使う。まさに大和撫子を体現したかのような性格。
この
確かに美少女だけど、僕には瑠美夏がいるからそれ以上の感想は特になかった。
ふと、柊さんと目があった。距離がある中お互いの視線がかち合う。
やばい、見ているのがバレた。
内心であたふたしていると、柊さんが僕に向かって目を細めて微笑んだ。
うわぁ、本当に美少女だなぁ。
そんな事を思いながら、僕は柊さんに会釈をして前を向いた。
午前の授業は滞りなく進み、今は昼休み。
僕は竜太との昼食を終えて、五限目の数学の準備をしていると、瑠美夏が僕の席までやってきた。
「……上原君」
「どうしたのるみ……小泉さん」
危ない。瑠美夏が僕の席に来るのが珍しくてテンションが上がってつい家にいる時と同じ様に接するところだった。
僕のところに来た瑠美夏は、何やらノートを持っている。
「私、数学の宿題やってないの。だから……」
そう言って瑠美夏は僕にノートを差し出してきた。
あぁ、なるほどね。
瑠美夏の意図を理解した僕は、瑠美夏の数学のノートを受け取った。
「わかった。彼氏に任せて」
「……よろしく」
僕に自分のノートを渡すと、瑠美夏は自席に戻っていき、スマホで誰かとやり取りをし始めた。
「よし、やるぞ!」
気合いを入れると、瑠美夏のノートを開き、問題を解き始めた。
瑠美夏のお願い、それはつまり、「数学の宿題を代わりにやっといて」だ。
僕が書くと、字で分かるのではないかと思うけど、瑠美夏とは恋人である以前に幼馴染だから、瑠美夏の筆跡を真似るなんて朝飯前なんだ。
昼食後に僕は黙々と瑠美夏の数学の宿題を解いていった。
それが終わると、僕は瑠美夏にその事をメッセージで送る。すると瑠美夏が僕の席にまたやって来て自分のノートを受け取り無言でまた戻っていった。
相変わらず照れ屋さんだなぁ。
まぁ、そこが可愛いんだけどね。
僕は瑠美夏のお役に立てたことでテンションが上がっていた。
「「…………」」
クラスの後方の席でじっと僕を見つめている二つの視線に、僕が気付くことは無かった。
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