身請け
廓で、よく遊んでいた女が好きでもない男に孕まされたのだと泣いている。店の者からは体を傷つけることを許されず、様々な堕胎の方法をためしたが結局降ろすことができなかったのだそうだ。布団の上でさめざめと泣く女はこの上なく哀れで、たまらなく愛おしかった。俺は女を身請けすることにした。
女が「腹の子は貴方の子ではないでしょう」とばかり泣くので、「それでもかまわないから」と言うと、べそべそと鼻をすすりながら体をあずけてきた。帯を緩めて女の体を撫でる。見た目では分からなかったが、女の腹はやはり少しふくらんでいるようだった。
屋敷に連れて帰っても女はほとんど泣くか、じっと黙っているかのどちらかで、飯もろくに食べようとしなかった。それでも腹はふくらみ、眠る時にはその腹をよく撫でて女をあやした。そうすると「貴方の子ではないんですよ」と、また泣くので、そうした女を慰めるのも楽しかった。
臨月のこと。産気づいてからしばらくして、女がやけに晴れ晴れとした顔で「生んできました」と言った。女の腹は真っ平らになっており、帯がきつく結ばれている。
「子どもは」
尋ねると、女は手に抱えていた産湯用の木桶を覗き込んだ。そこには数匹の錦鯉が泳ぎ、湯ではなく水がはられていた。女は木桶を抱えたまま庭へ降りると、池の所まですたすたと歩き、そのまま中身を池にぶちまけてしまった。
鯉が一匹、高く跳ねる。
どうやら元気であるようだ。
女はそのままこちらを振り返ると、にっこりと大輪の花が咲くように美しく、可愛らしい笑みを浮かべた。
俺はそのまま走り寄ってくる女を抱き留めた。
「ああ、産んだ。産んでしまいました」
そう言う女を滅茶苦茶に抱きしめると、女は泣いたり笑ったりを繰り返した。
今も二人で庭を眺めていると、息子か娘かも知らない子どもが時々池で跳ねている。
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