第5話 懐古と破壊

目を覚ますと俺は病院のベッドにいた。ベッドの隣には母親が寝ていた。俺は隣のテーブルに自分のスマホが置かれていたので時刻を見たら、日付は俺が倒れた日の次の日になっていた。どうやらあれから1日中寝ていたらしい。


「うーーん、あ!蒼!目を覚ましたのね。良かった」母親が起きて俺に抱き着いてきた。


「なんで俺は病院にいるの?」

すると、母親は少しためらいながら、

「蒼、あなたアパートの外で倒れていたのよ。お医者さんが言うには過労で疲れてますって。やっぱり家事全般を蒼にさせすぎたかしらね」


「母さん。あかりちゃんとあかりちゃんの母親は家にいなかったの?」

その問いを言ったとき、母親の表情は一変して無表情に変わり俺に言った。


「・・・・・・・・・・・・・何を言ってるの蒼。誰もいなかったわよ」


そんなことあるはずが、俺はそう言おうとしたが、嫌な感じがした。この感じは前世でも体験した感じだった。不気味でおぞましく気持ちの悪いもの。これがほんとに俺の母親なのか?


「ねえ、蒼、とりあえずまだ疲れも取れてないし、夜だしもうひと眠りしなさい。私は蒼の元気な姿が見れたからまた仕事に戻るわね。ほんとにいきなり蒼が倒れているって隣の人が言うんだからびっくりしたんだから」



「うん、ごめん母さん」



「それじゃあね」



そう言って母親は病室から出ていった。



俺はベッドで寝ながら昨日のことを思い出していた。



あれがほんとに幻なのか?いや、水野あかりは確かにいた。そして水野あかりの母親もいた。そして俺の目の前で首を切って死んだはずだ。そう、アーツさんと同じような死に方だった。


「・・・・・・・・・・・・見ることです」


突然耳元で声がした。


「誰だ!」


声が聞こえた。確かに聞こえた。だが、声だけで姿は見えなかった。


聞いたことのある懐かしい声だった。


・・・・・・・・・・・・・それが誰の声が俺にはわからなかった。





翌朝、俺は退院をした。退院した日が日曜日だったので学校も休みで助かった。


俺は水野あかりと水野あかりの母親が気になり、水野あかりの家に行くことにした。


家といっても彼女らの家は俺のアパートのすぐ隣の一軒家である。彼女の父親が離婚する前に慰謝料代わりにもらったらしい。



俺は彼女の家に着き、チャイムを鳴らした。


だが、誰も出なかった。


人の気配もなく、まるで誰も住んでいないような感じだった。

俺はその日の夜、母親に聞いてみた


「あーー、水野さん所、引っ越したんですって」


「それっていつなの?」


「いつって昨日よ、昨日」



「いきなり?なんで?」



「知らないわよ。向こうの家族のことなんて」


「水野さんのお母さんと話ししたの?」


「しないわよ。私だって、他の人から聞いたから。それに蒼何回も言わせないで、水野さん家とは話をしないで」




「なんで水野さんと話したらいけないの?」

そういうと母親はまた昨日のような無表情の顔になった。

「いいから!!あんたはそのままあたしのいうことを聞きなさい!

!!」



それは俺が今まで聞いたことのない声だった。


「蒼。この話はここまで。母さん今日は疲れてるの。わかる。眠たいの」



そう言って、母親は布団に入って寝てしまった。


水野あかりはどこに行ったのか?



俺はあの出来事があったことをがまるですべて幻のように思えた。


今、この世界はほんとにどうなっているのか?


俺はそれから高校生になった。


名のある進学校であり、近所や母親からもすごいすごいと褒められた。


だが、俺はあの日の水野あかりの出来事から時間が止まったような感覚だった。


高校生活でも俺は最初は問題なく過ごすことができた。

だがある日、俺の生活は一変した。


母親が若年性認知症になった。


俺は若くしてヤングケアラーになった。


「母さん、ただいま」


俺は最初こそ高校に通っていたが、それも長くは持たず、高校を中退し、母親のケアをすることになった。


「おかえりなさい、蒼」母親は俺のことを覚えていることができたが、普通の生活が送れなかった。


「あれ、これどうやるんだっけ?」物忘れ、徘徊、記憶の混濁など、ありとあらゆる障害が発生した。


「ごめんなさいね、蒼」


「母さん、いいよ気にしなくて。家事は全部俺がするから。母さんはゆっくりしてて」

俺は必死に母親の介護を行った。だが、それも虚しく、母親は脳に癌が見つかり5年後死んだ。


俺は成人になった直後に天涯孤独になった。


天涯孤独になった俺は仕事をしようと思ったが、学歴は高校中退。


できることは限られていた。



まあ、これも運命なのかもしれない。前世でも俺は天涯孤独だったし。


今回は母親が最初にいてくれたからこそ幸せだった。



「若い兄ちゃんこっちも頼む」



「わかりました」


俺は近くの工場で何とか雇われ、しばらく働くことにした。


そして、最低限の生活をし、貯金を蓄えた。



そして2年がたち、俺は一度仕事を辞めた。


ポールコールマンと水野あかりを探す旅に出ようと決めたのである。


ポールがこの世界にいるかはわからない。


だが、探してみる価値はある。



そして、カギを握っているのが水野あかりだと俺は確信している。



水野あかりの右の耳たぶにポールと一緒のイヤリングがあったからだ。





















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