Bad end:靴下のままでした

……んぅ……


……朝。

隣に……靴下。


……先輩。

やっぱり、戻ってないんですねぇ。

靴下のままなんですねぇ。

あたし好みの骨ばった手もなーんにもない、ただの靴下のまんまなんですねぇ。


……がっかりなんて、してませんよぉ。

どーせそんなことだろうと思ってましたから。

先輩はー、こんな聖夜の日にー、靴下になっちゃってー、年下のカノジョにー、いいようにされちゃう、とーんでもなくしょうもない人間だって、あたし、分かってるんですからねぇ。

だから泣いたりしてませんよぉ。


それにぃ、考えてみたら、いいことだっていっぱいありますしねぇ!

先輩が靴下のままだったらー、カバンに入れて持ち歩けるから四六時中連れ回せますしー、こうやって気兼ねなく添い寝できますしー、すりすりだってし放題ですしー、あたしがいくらいじっても逃げ出せないですもん!

くふふっ! そう考えたら楽しいですねぇ!


だから、泣くわけないじゃないですかぁ。

泣いてませんったらぁ。

……ぐすん。


あぁ……ダメですねぇ。

先輩が靴下になっちゃって、一番つらいの、あたしじゃなくって先輩自身ですもんねぇ。

あたしの方が、なぐさめてあげなきゃなのに。


……なぐさめますねぇ。

よしよし。よしよし。

……ウールと化学繊維の感触しかしないです。


ん〜〜……よし。

履きましょう。履きます。

今から先輩を、履いたげます。

うれしくないですかぁ? かわいいカノジョの生足ですよぉ?

今からー、先輩のー、中にー、かわいいかわいい年下のカノジョのー、な・ま・あ・し。入っちゃいますよー?


……だって、それくらいしかもう、あたしがしてあげられること、ないんですもん。


それじゃあ、履きますね……

先輩の、ゴムのとこ、指で広げて……

いきますね……これ、触ってるの、分かりますか……?

右足の、親指です。

それから、順番に、人差し指、中指……足の指が触ってるの、分かりますか……?


あの、これから、入れますけどぉ……

爪、ちゃんと切ってはいますけど、万一、引っかかったりして、先輩に穴を開けちゃったりとかしたら、イヤなので。

ちゃんと……痛かったりとか、苦しかったりとかしたら、言ってくださいね……?

言えるかどうか、分かんないですけど……


んしょ……ちょっとずつ、ちょっとずつ……

破れちゃわないように、気をつけて……

ふふっ、ダブルゴムの、布地が二重になって、ふくらはぎに跡が残りにくい、気遣いの塊みたいな先輩の足首……

その中に、あたしの足の指が、五本とも、入って……それから、ちょっとずつ、先輩を、たくし上げていって……


あははっ……こんなに慎重に靴下履くの、初めてだから、なんか笑っちゃいますね。

でも先輩なんですから……先輩のためなんですから、本当に、慎重に、繊細に、なっちゃいますよ。


どうですかぁ……? ちょっとずつ、あたしの指が、足が、奥へ、奥へと、入っていってますよぉ……

感触とか、ありますかぁ……?

肌の触れる感触……ぬくもり……押し広げられて、布地が伸びる感触……なるべく当てないようにしてますけど、爪が引っかかる感じとか……あの、恥ずかしいですけど、汗でちょっとだけ湿った感じとか、その、におい、とか……


あぅ……言ってて恥ずかしくなってきましたよぅ……

でもでも、恥ずかしいからってあせって履いたら、先輩を破いちゃうかもしれないですし……

ゆっくり、ゆっくり……んしょ、んしょ……


ああ……先輩の、布地の感触……

保温性と肌触りのいいウールと、しなやかで強度のある化学繊維が、適度に配合された絶妙なバランスを、感じますよ……

うふふっ。


ん……かかとの布地の、厚くなって、たぽっとした部分……

ここを、指が、通り過ぎて……

奥まで……爪先を、滑り込ませて……

足の甲に、ぴったりと、布地が沿って……

かかとのカーブに、布地のカーブが、ぴったりと、はまっていって……


あ、あの、先輩……爪先、奥まで、入れちゃって、いいですか……?

だって、あの、そりゃ一回履いただけで破れはしないでしょうけど、履いてたらどうしても、爪先の布地が薄くなって、傷んでくでしょうし……

あたし、先輩を、傷つけたくないですよ……破ったりしたく、ないです……


……うん。でも、そうですね。

履かれない靴下なんて、なんのための靴下か、分かりませんもんね。

じゃあ……いきます、ね……一番、奥まで、入れますよ……!


んんっ……!


ど、どうですか、先輩……?

痛く、ないですか……?

穴とかは……開いて、ないですね。よかったです。


あたしは……すごく、履き心地、いいですよ。

先輩が、ぴったり、密着して……ちゃんとフィットしてて、あったかくて、ほっとします。


でも……ふふっ。普段から履けは、しませんね。

だって、先輩。片足しか、ないですもん。


……あたしも、靴下になれたら、先輩とひと組になれるのになぁ。

二人で、セットで、靴下になって。

それで、誰に履かれるか……ううん、履かれなくていいですね。

二人重なって、足首のところ、くるんって丸めて。

それで、誰にも履かれないまま、たんすの引き出しの奥にしまわれて、暗ぁい中で、くっついたままで、ずぅっと二人きりでいるんです。


重いですか?

あたし、重たい女ですか?

でも、それくらいしか……靴下になった先輩に釣り合うカノジョになろうと思ったら、それくらいじゃなきゃって、思うんです……


ふふっ……ダメですね。

重たい女は、嫌われちゃいますね。


じゃあ、先輩……脱ぎますね。

ずっと履いてて、布地が薄くなったりしたら、イヤですもん。

んしょ……


あ……


……寒い、です。

先輩が、脱げちゃって、素足になって……

空気が、直接当たって、スースーします……


……ううっ、ぐすっ。

うえええぇぇん……!

先輩ぃ、あたしっ、さみしいです……!

先輩が靴下になっちゃって、もう手をつないだり、なでなでしてもらったり、できないなんて……!

うわああぁぁん……!


……ぐすっ。ダメですね。あたし。

こんな、泣いてちゃ、先輩も困っちゃいますね。

先輩も、なりたくて靴下になったわけじゃないのに。


あっ、そうだ、先輩。

せっかくのクリスマスプレゼントですし、腕時計、つけてあげますね。

足首にですけど……よいしょ。


……似合ってますよ、先輩。

えへへ。

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聖夜の直前、ふと気づくとあなたの体は靴下になって小悪魔系後輩カノジョの枕元にいた 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker

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