第十三話 VSバウザー
全ての予選は終了した。僕がやらかした事もBブロックとCブロックの予選通過者を増やす事でどうにかしたらしい。
そして翌日本戦。第一試合。ティナの予想通り、僕達は端と端に配置された。ティナの相手はいろいろ裏のありそうな相手。
高位貴族のお坊ちゃんらしいが、明らかに弱そう。あれがティナの政略結婚の相手なのだろう。
証拠に観客席やらさまざまな所から怪しい気配がした。見渡せばいろんな場所に暗器を隠し持った怪しい奴らがティナを見ている。持っているのは麻痺針を飛ばす様の武器。あれでティナを痺れさすつもりだろうか。
まるで意味がない。というか過小評価と言うしかない。ティナを侮りすぎる。
『さあお待たせしました。本選第一試合。最注目の試合です』
本選という事で観客もさらに多い。この観客の前でティナを負かすつもりだろう。いくら卑怯な手を使ったところで不可能だろいうのに。やるのは僕だ。
『試合、開始です』
ゴングが響く。全てが始まる。
互いに剣を抜き、それと同時に観客席から麻痺針が飛んだ。
それはティナめがけて飛んでいく。
「無駄だね」
ティナは剣を一振り。それで、四方から飛んでくる麻痺針を全て撃ち落とした。
そのまま眼前の敵へ駆け、剣を振るう。
わずか一振りで対戦相手は倒れた。
「……やっぱり。ティナは強いなあ」
試合時間わずか五秒。圧倒的な速さで試合が終わってしまった。
◇
今日の闘技大会は十六人が八人まで絞られる。僕の試合は一番最後で、夕方だった。
しかし熱は覚めない。ティナも一瞬で勝利した。ならば僕もだと気合をいれる。勝ちあがると剣を砥いだ。しかし――。
「え? 不戦勝?」
「ええ。何と言うか予選の試合のせいか。エルテル選手の対戦相手が逃げてしまって」
「……はぁ」
何か知らないけど戦わずして勝ってしまった。
良く聞けば、僕が予選で全員倒したせいで恐れられて逃げられたらしい。何と言う事。
本戦第一試合はちょっとずっこける様な結果だった。
そしてあっという間に次の日。ティナがまた二秒ぐらいで試合を片づけ、すぐに僕の番……のはずだった。
「……また不戦勝ですか」
「はい……」
次の試合も不戦勝だった。また対戦相手が逃げたらしい。ちょっとは戦ってみようと言う気にならないのかつまらない。
「で、ティナリア様の試合もすぐに終わり、エルテル選手の試合も不戦勝と言う事で、急遽準決勝も今日やる事に……」
これで今日も終わりかと思えば、あまりに早く終わりすぎたため、明日やるつもりだった準決勝を今日やる事になったらしい。
「なるほど。それは望むところです」
何も問題はない。やっと戦えるとワクワクすらする。
「とすると対戦相手は……」
「はい。バウザー様です」
「師匠か……」
しれっと闘技大会に参加していた師匠。ティナと戦う前に僕はあまりの強敵と戦う事になった。
◇
バウザー。英雄かつ大剣豪。引退した今でも帝国中に名をとどろかせる傑物。帝国最強とも謳われた最強の剣士だ。もちろんティナの方が強いけど。
そんな師匠と僕はあまり戦った事がない。叩きのめされた事はあっても、真剣勝負なんて記憶を探ってもあまりない。それだけ実力が離れていた。僕は一度も師匠に勝った事はない。
「やあ愛弟子。暴れまわってるじゃないか」
「師匠……まあ頑張ってますよ」
リングの上で相対する。すれば、師匠の威圧が分かった。ビリビリと突き刺す歴戦の覇気。
そして巨大なバスターソードを構えれば誰もが恐れる英雄が誕生する。
「そういえばお前には卒業試験を課してなかったなエルテル」
「そうですね。僕は中退したので」
「だからこれが卒業試験だ。俺を倒しな。そしたら免許皆伝だ」
「……もう止めてるのにですか?」
「そんなの関係ねえな。俺がそれを認めていない。だからまだ愛弟子のまま。俺を倒せなければずっとそうだ」
「そうですか」
その言葉に、綻びが抑えられない。師匠はまだ僕を弟子と言ってくれる。かってに出て行った馬鹿な僕の事を。
その嬉しさに心は震えた。
「卒業。させてもらいます」
「そうか。でもそう簡単には負けてやらねえな」
確かに師匠はそう簡単に倒せる相手ではない。その強さは良く分かる。でもなぜか簡単に勝てる予感もする。
「師匠……決着は一瞬です」
「ほう」
僕の言葉に、師匠の威圧はさらに一段階高まる。殺気すら交じり、それは観客席まで届きそう。
「見せてみろよ愛弟子。お前の強さをな。何年も怠けた馬鹿弟子が、ほんの少し修行した程度で俺に届こうなんて思っているのか!」
「ティナを倒そうと僕は思っています。だから師匠程度に立ち止まっていられません」
「俺は前座か馬鹿が」
少し言いすぎたかもしれない。師匠の威圧は最高潮に達した。
でも――。
「ごめんなさい。でも、前座です」
「馬鹿にしやがって。そこまで言うなら、見せてみろよエルテル・イグー!!」
もう言葉は必要ない。師匠は剣を振りかぶった。僕は白龍と黒狼の柄を握った。
師匠の剣の恐ろしさは知っている。かするだけで吹き飛ばされるだろう。でも当たらねば問題はない。
そもそも、剣は振らせない。
「しろまる、くろまる」
迫りくる剣を見てもあくまで冷静だった。僕はそっと白龍、黒狼を滑らせる。
「斬る――」
僕は師匠の背後にいた。そしてそっと白龍と黒狼を鞘に納める。
「馬鹿……なっ」
背後では師匠が膝から崩れ落ちる。剣を、地に落した。
「見えない。エルテル。お前。どれだけ強くなったんだよ」
「ティナに届きたいんです」
「……そうか。そうだな。そうだった。やっぱ、お前が最強だよ」
師匠の言葉に少し口角が上がる。
「弟子は卒業だエルテル」
「今までありがとうございました」
僕は振り返り、深く師匠に頭を下げた。
「……ああ。と、その前に。最後の最後に師匠らしく弟子を世界に送り届けよう」
師匠はそう言って、大きく息を吸った。
「聞けええええええい!!!!」
そして叫ぶ。闘技場に響く声量で、師匠は叫んだ。
「この男が誰か、誰もが疑問に思っているだろう! 無名の剣士。誰もその名は知らぬかもしれない!!! しかしっ。天騎士ティナリアの前は。確かに若手最強はこの男だったっ!!! 世にも珍しき二刀流! その剣は誰にも見切れぬ最速の剣の持ち主! ティナリアの前に破れ、一度は消えた男はまた復活したっ!!」
観客は息を飲んだ。
「『若獅子』エルテル・イグー。かつての最強が、また最強を取り戻しに来たっ!!!!」
その言葉に声は爆発する。歓声は、鳴りやまない――
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