第十二話 やらかし
――ゴ~~~~ンッッツ!!!
僕はようやっと、終了をつげる鐘の音で足を止めた。
静寂に包まれた闘技場。倒れ伏す数百の参加者と、たった一人僕だけが立っていた。
静かな闘技場は鐘の音が良く響く。キョロキョロと見渡しても僕以外だれも経っていない。
「しまったな……あと三人残しとかないといけないのか」
まったく失敗した。久しぶりの人との戦いにテンションが上がってしまったのは失敗だ。
しかし我を忘れて全部斬ってしまうなど騎士として失格だ。反省。
『え~。……試合時間わずか十五分。百を超える参加者が……たった一人に倒されたという前代未聞の出来事が起きております』
司会の声に困惑が見て取れる。少々やりすぎてしまった。
『全てを斬った彼はいったい……え~。……勝者は決まりましたが、残りの三名をどうするかなど協議するので、みなさましばらくお待ちください』
係員やら主催の者達が慌ただしく動いている。とってもやらかした。
どうしようかと悩んでいるところ、係員に誘導されて僕はリングを降りる。周囲の化け物を見る目が少し複雑だった。
◇
僕が連れてこられたのは、予選通過者用の控室。係員は最後まで怯えて、僕をここに連れてくると同時にものすごい速さで去って行った。
普通はここで残りの試合を見て、ライバルの様子を観察するらしい。しかし僕がやらかした結果次の試合が始まる様子がない。
残りの三人をどうするか協議しているのだろう。予定では今日で全ての試合を終わらせる予定らしいが大丈夫だろうか。まあ終わらせるのだろうが。
「あ、いたいた」
何て考えていれば扉が開き、ティナがぴょこっと顔を見せた。
「凄いね。おめでとう」
「やらかしたけどね。もっと冷静に戦うべきだった。夢中になるなんて失格」
「そうかな? 昔のエルもあんな感じだったよ」
「ほんと?」
「うんうん。剣を持てば人が変わる子だったよ」
「……そっかー」
自分がそんな奴だとは思わなかった。
いや……思い返せば記憶が飛んで次の瞬間には僕しか立っていなかった事が結構あったような……。
「自分自身のコントロール。頑張るよ」
「んー。がんば!」
深く反省しているが、ティナはケラケラと笑うだけだ。
「で、これからどうなるんだろう」
「そうだね。多分次の試合の予選通過者を増やして調整すると思うよ」
「なるほど。……そうなるか」
それが一番楽な話だろう。
「大きな事にならなくてよかった」
全員斬ってしまった時はどうなるかと思ったが、何とかなりそうだ。
「でも。会場はエルの事で持ち切りだよ。エルは凄いからしかたがない」
「へー、そんな事に。まあ僕は強いからね」
話題は僕の事で持ち切りらしいが、良く聞けば一瞬にして数百を切り裂いた謎の男。しかし尾ひれ背びれまでつき、僕は二メートルをこす巨漢で体中傷だらけ。人睨みで竜が逃げていく恐ろしい形相をしているという訳の分からない事になっているらしい。
ちょっと複雑。
「んー。エル自信出てきたね」
「そろそろ自覚できたよ」
ここまでやらかしてようやっと僕は自分が強いという事に気が付いた。馬鹿な話だ。けどティナに勝てないと意味はない。僕はまだ弱い。
「早くても明日には戦うかもしれないね」
「反対側にいれば明後日か明々後日だよ」
「うん。ドラマが欲しい。だから決勝で会いたいね」
「組み合わせしだいだけど。僕もそう思う」
一回戦、二回戦とかで当たりたくない。やっぱり決勝で当たって、そして打ち倒してこそ面白い。
組み合わせしだいだが、僕達は絶対に負ける事なく相対できると確信できる。僕の敵はティナだけだ。
「でも決勝の可能性は高いと思う。お父様は私を倒すための刺客を用意している。影響力もあるからトーナメント表をいじるのもわけがない。だから一回戦二回戦はお父様の息のかかった奴らが来ると思う。ここで強さを見せちゃったから、エルは一番遠くへ配置される気がするね」
「そっか……負けない?」
「馬鹿にしてる? 私は最強だよ。負けるわけがない。たとえ何をされても、卑怯な事をされようとも。私を倒すには純粋に強さで上回るしかない。そしてそれを出来るのはただ一人だけなんだよ」
「うん。じゃあ、僕も頑張るよ」
聞いては見たものの、とてもよく知っている。卑怯な手を使おうがティナには勝てない。全てを破壊し、全てをたたっ切る最強の剣士がティナだ。何百回と剣を合わせた僕だからそれは一番信用している。
僕が本戦で負けないかを心配した方が良いレベル。だから何も問題はない。
「決勝の事もだけど、それよりっ。エルの試合も終わっちゃったし遊びに行こ」
「どうしたの突然。この後の試合観なくて良いの?」
ぐっと決意すれば、そんな事よりとティナは言ってくる。
「エルなら大丈夫っしょ。それに闘技大会なんて一年に一度。しかも今年は百回記念。遊びにいくしかないよ」
「まあ……そうだね」
バトルロワイヤルの試合を見てもあんまり参考にはならないだろう。それにティナの言うとおり闘技大会は一年に一度。ティナとのお祭りデートも一年に一度しかできないのだ。
迷いなんてない。
「うん。じゃあ行こうか」
「よーし」
ぴょんっと飛びあがるティナと共に僕は控室をでた。
歓声が聞こえる。予選Bブロックが始まったらしい。今日中に全てが決まり、明日には本戦が始まる。ティナと相対する時はすぐそこまで来ていた。ここを逃せばチャンスは少ない。絶対に負けるわけにはいかない。
そんな緊張もティナとのお祭りデートもすればどこか薄れて言った。別に普通に屋台などを楽しんだだけだったが、僕達はこの日常を守りたいとそう思う。だから負けない。勝つ。本気の本気で僕は思った。
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