第10話 ペルセウス座流星群
「あ、そうだ」
天音さんが突然立ち上がり、机の上の書類を漁り始めた。
「お母さんがもらってきたプリントの中に入ってたんですよ。えーっと……あった!」
天音さんは一枚の紙を引っ張り出して見せてきた。それは天音さんが通う学校で行われるペルセウス座流星群観察イベントのチラシだった。
「小学生の頃から行ってたんですよ、これ。……行きたいなぁ……」
天音さんは流星群の写真が大きく載ったチラシを楽しそうに眺めている。
一方僕は、頭を殴られたような衝撃を受けていた。
……流星群? そんな、光の集合体みたいなものを天音さんが見たら……
行かせちゃいけない。けど、なんて言えば説得できるんだろう。天音さんの病気の正体を話すしかないのか……?
「どうにかして行けないのかな。サングラスかけて、マスクとかアームカバーとかで肌を全く出さなければ行けるんじゃないかな。先生はどう思いますか?」
天音さんは行く方法を僕に訊いてきた。一瞬言葉に詰まる。
「いや……それは……」
「――やっぱり、ダメかぁ……」
天音さんは落胆したように息をついた。
「……そうだよね。肌を隠せばいいってことじゃないし……サングラスでガードできるかわからないしね……完全遮光だったら星見えないし」
自分を納得させるように独り言を呟いてチラシを恨めしそうに見る。
「……病気になんて、なってなければ……」
その言葉が刃物のように刺さった。
(……そう、なんだよね)
この病気さえ、なければ……
「……けど、ちょっと良かったかも」
「え?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げた。天音さんが僕を振り返って微笑む。
「だって、先生と会えたじゃないですか。もう小児科はあまり行かないだろうから、この病気にならなければ先生と会えてないと思うんです」
……眩しい。
(……どうして)
そんなことが言えるんだ? 天音さんはこの病気になって、学校にも行けてないし日にも当たれないし、ずっと辛い思いをしてきたはずなのに…… 僕だったら、自分の運命を呪うだろうな。
「いつか見られるといいなぁ……」
僕はチラシを眺める天音さんをまっすぐに見られなかった。
「――先生」
天音の部屋を出て廊下を歩いていると、いつの間にか帰ってきていた沙雪さんに呼び止められた。
リビングの椅子に座り、出してもらった紅茶をすする。
「……どうなんでしょうか。天音の病気は……?」
……やっぱり、気になるよな。
僕は静かにカップを置いた。そしてまっすぐに沙雪さんを見据える。
「……天音さんが知るにはあまりにも酷な話です。なので、まだ話さないでいただければ」
沙雪さんは表情を引き締めて頷いた。
「――――…………」
声が、つっかえる。喉がうまく動かない。けど、話さなきゃいけない。
一分が一時間に感じるほどだった。
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