第9話 想像できている未来
「これ……は……」
僕は海外の知り合いの医者から取り寄せた論文を読んでいた。けれど、その途中で一気に顔が青ざめたのを感じた。
「嘘……だろ……?」
呆然と無機質に並んだ英単語を見つめる。信じられない。この論文が本当なら、天音さんは――
「……落ち着け。もっと調べてから……」
自分を落ち着かせるために呟いた僕は読んでいた論文を放り出し、机に積み上がった書類の束に手を伸ばした。
――――――――――――――――――――――
僕は人気のない道を歩いていた。街灯も少なく暗い道をスマホのライトを点けて歩く。
……多分、天音さんもこれぐらい……いや、もっと暗い道を歩いてたんだろうな。けれど、僕がそこに光を射してあげられた。それこそ、このスマホみたいな小さな光だったけど。天音さんにとっては眩しかった――と、思う。いや、そうであって欲しいと、僕が願っているだけなのか。
「……痛いな」
思わず自虐的に呟いていた。こんなこと、願っても仕方ないか。だって僕は……天音さんを、治すことができなかったんだから。
――――――――――――――――――――――
僕は重い体を引きずって天音さんの家に向かっていた。
論文のお陰で天音さんの奇病はわかった。けれど……伝えられない。中学生には……いや、どの年齢であったとしてもあまりにも残酷すぎる。
どんな顔して会えばいいんだろう。僕はもう、天音さんの前で今までのように笑えない。
「あ、先生!」
僕が部屋に入ると、天音の顔がパッと明るくなる。あの日から、天音さんの性格が格段に明るくなっていた。希望はあるって、信じてるからかな。
けれど、痣は確実に天音さんを蝕んでいた。あの日から光に当たっていないのに、見た目でわかるほど痣の範囲が広くなっている。その分、部屋が前より明るくなっていた。
……見ていられない。本当は辛いだろうに、天音さんは僕に屈託なく笑顔を向けてくれる。けれど、それとは反対に僕の心は暗くなっていく。希望はあるって言ったの、僕だし……
天音さんには真実を知ってほしくない。知ってしまったら、きっと、天音さんはまた絶望の淵に立たされる。希望も消える。けれど、このまま黙っているのも……
「……先生?」
天音さんが考え込んでいる僕の顔を覗き込んできた。
「わっ」
「どうしたんですか?」
一瞬のけぞった僕に尋ねてくる。
「……何でもないよ。それより、勉強してたの?」
僕は筆記用具やプリントが広げられている机を見て訊いた。
「はい。お母さんが学校でプリントとかもらってきたのでやってたんです。休んでいるからって勉強しなくていいわけじゃないし、学校に戻った時にみんなより勉強遅れてたら困りますし」
「……そっか」
心がズシンと重くなる。天音さんは元気になって学校に行った自分を想像できてるんだ。だったら、尚更伝えるのは……
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