第8話 誓い
「……とりあえず、冷やしてみるか」
僕は持っていたクールタオルを天音さんの痣に当てようとした。けど――
「触らないで!」
天音さんが叫び、寝返りを打って僕に背を向ける。
「天音さん……」
「……触ったら、伝染るかもしれないから……」
声が震えている。
「……感染ったって、構わないよ」
「……え?」
やってしまった。月歌と同じように拒絶してしまった。私のために頑張ってくれているのに……
きっと先生も、月歌みたいに私から離れていくんだ。そう覚悟したときだった。
「……感染ったって、構わないよ」
すごく優しい声が聞こえたのは。
「……え?」
驚いて体を起こす。そこには、見たことがないほど優しい笑みを浮かべた先生がいた。痣の光に照らされて、先生の顔がいつになくはっきり見える。
「――感染ったって構わない。治療法は見つけてみせるから。誓うよ。だから、死のうなんて思わないで。僕は、君に死んでほしくない」
キッパリと言い切った先生はクールタオルを差し出してきた。受け取って首の痣に当てると、痛みがほんの少し和らぐ。
「君はまだ中二だろ? 未来に絶望するのは早すぎるよ。まだ希望はある」
……そんなこと、言われたことない。
「……生きてて、いいの?」
「当たり前じゃないか」
先生は即答した。
「でも、それは他人が決めることじゃない。君自身が決めることなんだ」
……この先生。言ってることが矛盾してない? ……けど、今はそれが心地良い。
――天音さんが、笑った。
今度こそ、本当の意味で。ずっと気になっていた。月歌さんといるときの天音さんは、確かによく笑っている。年相応の顔をしていた。けれど、目が少し強張っているように感じていた。
それでも、これは違う。天音さんが、泣いているけど心から笑っている。僕はそう感じた。
……早く、見つけないと。この病気の正体、治療法を。けど、自分の力だけじゃもう見つからない。外国の医師にでも聞いてみよう。
僕は天音さんの笑い泣きを見てそっと微笑んだ。
『ねえ月歌、天音の家行ってたって、本当?』
『わざわざ行く必要ある? どうせもう学校来なさそうなのに。あの子は学年一のモテ女なんだからさ、男子達が行くでしょ』
今日、クラスメートに言われた言葉が頭に響く。
でも、私は曖昧に笑うことしかできなかった。言い返せなかった。
「……ごめんね、天音」
暗い部屋で一人呟く。天音と喧嘩した日から一週間が過ぎていた。
天音は私のことを親友だと思ってくれてる。けど、私は天音を守ることができなかった。親友どころか、友達失格だ……天音に合わせる顔なんて、私にはないんだ。
けれど、私はそれでも天音に会いに行くべきだった。そうすれば、あんなことにはならなかった。でも、このときはそんなこと夢にも思わなかった。
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