第7話 悪夢のような夜

 私は、小さい頃から誰かに認めてほしかった。


 勉強を頑張ればお母さんに認められた。テニスを頑張れば学校の皆に認めてもらえた。テニスを頑張ってたから月歌と仲良くなることもできた。全部全部、頑張ったから……


 けど、そのお返しがこれなの?


 この世で起こること全てには理由がある。だったら、私がこんな事になった理由は? 私から何もかも奪ったこの痣。これになんの意味があるの?


 私には……未来なんてない。ずっとそう感じていた。


 だから……先生が高校の話を出してきた時、少し希望が見えた。もしかしたら、この先生こそが、私のことを治してくれるんじゃないかって。今まで会ったどのお医者さんも、無理ですの一点張りだった。


 けれど、星野先生は調べてくれてる。私を諦めずに助けようとしてくれてる。


 ……生きたほうが、いいの? けど……そしたら、また窮屈な生活に戻ることになる。だったら、私は……



 ―――――――――――――――――――



 バスを降りた僕は歩道を歩いていた。


 街灯の少ない町外れまで来ると、星がよく見える。その中に、一際強く輝くベガとアルタイルを見つけた。


「あれは……」


 僕は思い出してしまった。あの、忘れられない夜を。僕が不甲斐ないせいで天音さんを追い詰めてしまった、悪夢のような日を。



―――――――――――――――――――



 僕は、いつものように天音さんの家に向かっていた。


「今日はやけに星がキレイだな」


 信号待ちをしながら空を見上げた僕は思わず呟いた。ベガとアルタイルがいつもより強く輝いている。


 信号が青になり、僕は横断歩道を渡った。さらにしばらく歩き、天音さんの家につく。


 ポーチには電気がついていなかった。


「まだ沙雪さんは帰ってないのか……」


 僕は植木鉢の下から家の鍵を取り、鍵穴に差し込んだ。そして電気をつけずに廊下を進む。


 そして、天音さんの部屋のドアをノックした。


「天音さん? 来たよ」


 けど、返事はない。


「開けるよ」


 ドアを開けた僕の目に飛び込んできたのは――開け放たれた窓の枠に立ち、月光を浴びる天音さんだった。天音さんの体が、前日に会ったときより強く光を放っている。


「天音!!」


 僕は思わずそう叫んで飛び出していた。天音さんを抱えて部屋に引き込み、カーテンを勢いよく閉める。


「ああっ……」


 床に倒れた天音さんが、自分の体を抱えるようにしてうめき声を上げる。


「君、何やって……!!」


 天音さんの体には、左上腕部以外にも、右脇腹、左手、右頬などにも流星状の痣ができていた。


「何やってるんだ! そんなことしたら……!!」


「……だって……このまま生きてても……いいことなんか……」


 天音さんは痛みのせいか顔をしかめ、肩で息をしている。


「言ってることがわかんないよ! 君は僕が絶対治す! 信じて待ってろ!!」


 僕は今までないくらいの気迫で叫んでいた。いや、けど……前にも、これくらい叫んだことあったな。だいぶ前のことだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る