第5話 ミルキーウェイ
僕は家に帰り、すぐにノートパソコンを立ち上げた。
『奇病 銀河』などと関連用語を検索バーに打ち込み、エンターキーを押す。けれど……
「新種なのかなぁ……」
流石に目が辛い。
一時間ほど調べていた僕は目に腕を乗せて椅子の背もたれに寄りかかった。
天音さんの奇病が新種だとしたら、どうしたって助けることはできない。治療法がわからないのだから。
「酷だなぁ……」
思わず言葉が口をついて出ていた。
天音さんは多分、今まで普通に生きてきた普通の女子中学生だ。それなのに、急に訳のわからない病気になって、治療法もわからなくて。きっと、今は絶望の淵にいる。
救ってやれるのは、僕しかいない。
気合を入れ直した僕は再びパソコンに向かった。
――――――――――――――――――――――
バスに乗り込んだ僕は空いていた一人席に座ってワイヤレスイヤホンを耳につけた。そして好きな歌手の曲の再生ボタンを押す。
『ミルキーウェイ』という、天の川と淡い恋を歌った曲を聞きながら、窓の外を流れる流星群を見つめる。
そう言えば、天音さんも月歌さんもこの歌手好きだったな。
天音さんとちゃんと喋れるようになったのもこれのおかげだったっけ……
――――――――――――――――――――――
僕はまた天音さんの家にいた。ちょうど遊びに来ていた月歌さんも交えて他愛もない話をする。その時、月歌さんが僕のバッグについているキーホルダーに気づいた。
「あれ……これってもしかして、
「え?」
僕は思わず傍らに置いていた自分のバッグを見た。確かに、チャックの部分にcosmoのライブ限定のアクリルキーホルダーをつけている。
「そうだけど……知ってるの?」
「知ってるも何も、私も天音もcosmoのファンなんです!」
「え、そうなの!?」
僕は思わず身を乗り出した。
僕の身近な人にcosmoのファンいないんだけど、まさか二人がファンだったなんて。
「私『コスモス』好きなんです!」
「あーいいね! 僕は『ミルキーウェイ』かな」
「……私も、それ好きです」
珍しく、天音さんが口を開いた。
「え、天音さんも!? あれいいよねー」
天音さんは初めて、僕に対して満面の笑みを見せた。
……やっぱり、あの子と似てるな、天音さん。
「特に最後の転調が、最初聴いたとき鳥肌立ちました」
「迫力すごいよね、あそこ。テンポそこまで速くないのに」
「えーコスモスだってすごいのにー」
そんな感じで語っている内に、いつの間にか一時間も経っていた。
「あ、ヤバッ!」
腕時計を見た僕は思わず立ち上がった。
「どうしたんですか?」
二人がきょとんとする。
「僕今日夜勤なんだ! ヤバイ後五分で六時だ!」
「ええっ!?」
「は、早く行ってください!」
「うん! あ、でも……」
ドアノブに手をかけた僕はハッとして振り返った。
天音さんはきょとんとしたままだけど、月歌さんは気づいたらしい。
「天音!」
月歌さんは天音さんの手を引き、ベッドを覆っている箱の中に入れた。そして扉を閉める。
「大丈夫です!」
「ありがとう。また来るよ」
僕はそう言い残してドアノブをひねり、部屋を出た。
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