第128話
翌朝、南の街に集結した各国の軍隊、”人類統合軍”が進軍を開始した。
先頭をボウディマ王国軍の部隊が進み、側面を各国の援軍が守りつつ、街道を北に向かって行く。
王都から湧き続けている魔物たちが、討伐軍の行く手を阻む。
ボウディマ王国軍が必死に魔物を倒しながら道を切り開いていく。
しかし負傷者が続出し、その歩みは遅々として進まない。
一方で側面を守っていた他国の援軍は、魔物の群れを鎧袖一触で蹴散らしており、一人の負傷者も出していない。共有された<強靭な肉体・10>のおかげだ。
彼らは先頭に立つボウディマ王国軍の進みの遅さに暇を持て余すようになり、側面の防壁構築を手伝う余裕まであった。
その日の行軍は、予定していた半分も進まずに終わった。
「という感じらしいですよ」
夜、宿に集まってエレーヌから報告を聞いた。彼女は日中、ベルナールさんの手伝いをしていたから事情に詳しいのだ。
「各国の援軍からは不満が噴出してまして、お父様が代表となってボウディマ王国に改善要求を出しました」
「何か変わったの?」
「まだ連絡は来てないですね」
「あ、私の仲間一覧が2500人くらい増えてました。全部ボウディマ軍の兵士みたいです」
「今更手のひら返しても遅いっての、全く」
恐らく、実際に戦場に立っていた兵士たちは、<勇者の仲間>となった兵士たちとの違いをまざまざと見せつけられたに違いない。
悪い噂など頭から吹き飛んで、慌てて仲間になることを望んだんだろう。
翌日。
どうやら夜の間に、ランヴァルドさんの所に各隊長たちから「英雄殿の料理は手に入らないか」とこっそり接触があったらしい。
現場レベルではかなり危機感を募らせているってことのようだ。
そう言う隊長たちの所には、僕が<隠形>でこっそりと”きびだんご”を届けに行った。
「こちらが例のブツです」
「ありがとう。英雄殿にも礼を伝えて欲しい」
そんな感じで配って行ったおかげで、昼過ぎにはさらに2000人ほどが仲間に加わっていた。
また、各国の援軍はボウディマ王国軍の動きが鈍い事に業を煮やし、側面の守りから一部が突出して、正面前方の魔物を間引く作戦に出た。
そのおかげで、この日の進軍速度は大幅に上がった。
昨日の遅れを取り戻し、予定よりも先にまで進軍し、中継基地となる町を奪還した。
夜に宿の部屋に皆で集まった。
「援軍を前に出した方が効果的であると実証されてしまったので、明日からは援軍とボウディマ軍が位置を交代することになったみたいです」
「第2王子が顔を真っ赤にして怒鳴ってたって、ランヴァルドさんが言ってたよ」
「ふん、いい気味ね」
翌日から、先頭を各国の援軍が務める事になった事で進軍速度が劇的に上がった。
彼らは、魔物を瞬殺しながら駆け足で進んでいったのだ。
<強靭な肉体・10>の効果は凄まじかった。
能力値の筋力が上がって殲滅力が上昇し、耐久の値が高いため、ずっと走りっぱなしでも疲れない。
ボウディマ軍で<勇者の仲間>になっていない部隊は、どんどん引き離されてしまい、孤立して魔物に囲まれてしまったため、已む無く中継基地に撤退して来たそうだ。
夕方に宿の部屋でお茶を飲んでいると、ランヴァルドさんから連絡があった。
『いやぁ、もう王都の南門に到着してしまいましたよ。足手まといがいないと速いこと、速いこと』
『そうなんですね。あ、第2王子も脱落ですか?』
『それがですね、スヴェン殿下の部隊は騎兵ですから、強引についてきたんですよ。流石に王族を死なせるわけにもいかないですから、警護のために余計な労力がかかりましたよ』
『うわぁ~、面倒ですね』
『ええ。こちらは明日、王城まで一気に突入する予定です』
『お気をつけて』
「明日が決戦かぁ。見に行こうかな」
「いいわね。私も行く」
ナタリーさんも乗り気だ。
「あの、私も連れて行ってもらえませんか?」
「え、アカリさんも!?」
意外だ。
「本来なら私が戦うはずだったのに、皆さんにお任せするしかないので、せめて見届けるだけでもしたいと思って」
「う~ん、”魔王特効”を使った後なら、アカリちゃんが狙われる可能性は低いと思うし、良いんじゃない?」
「”生命力の共有”もありますし、私の神聖魔法で<守備の加護>を掛ければさらに安全ですよ」
エレーヌがそう言うなら大丈夫か。
「じゃあ、皆で行く?」
「はい!」
ってことで、明日は僕らも王都に行って戦果を見届けることにした。
翌日。
ランヴァルドさんから連絡が来た。
『こちらの準備は整いました。”魔王特効”の共有をお願いします』
アカリさんが大きく深呼吸して、空中で指を動かした。
『はい。…今、そちらにいる部隊に共有しました』
『ありがとうございます』
よし。それじゃあ、王都に行きますか。
「まずは僕が見てきますね」
<隠形>で姿を消して、王都の南東の神殿に転移した。
まだ”魔除けの結界”の効果が残っているようで、周囲に魔物はいなかった。
<知覚強化>で範囲を広げた<索敵>に、強大な存在が南門の方に向かっているのを捉えた。
魔王だ。
やはり、「魔王特効」の気配に引き寄せられるんだな。
今なら大丈夫だろう。
『魔王が向こうに行ったから、大丈夫だよ』
書庫から皆が転移して来た。
「ここが王都ですか。うわぁ、本当に魔物だらけですね」
アカリさんが周囲を興味深そうに眺めている。
早速、エレーヌに<守護の加護>を掛けてもらった。
ここからじゃ戦場が見えないので、ナタリーさんとアカリさんが魔女の箒に乗り、僕とエレーヌは自前の魔術で空に上がった。
「うひゃぁぁ」
箒で飛ぶのは初体験のアカリさんが変な声を上げている。
南門の方を見ると、王都内に進軍して来た”人類統合軍”が、周囲から押し寄せる魔物を蹴散らしており、それを上空に浮かぶ魔王が眺めている、という状況だった。
「すごいわね。オーガに、トロールもいるわ」
「うわぁ、あんなにうじゃうじゃしてると鳥肌が立ちます。う~、気持ち悪い」
アカリさんは首をすくめていた。
見守っていると、魔王が上空から”人類統合軍”に向かって魔術の炎を打ち込み始めた。
パッと炎が上がり、少し遅れてドォン!と爆発音が響いてきた。
肌がチクチクする。
”生命力の共有”で、僕らにもダメージの分担が来てるってことか。
<知覚強化>で視力を高めてよく見ると、兵士たちは派手に吹き飛んでいるけど、すぐに立ち上がって戦線に戻っている。
”魔王特効”によるダメージ減少が効いてるようだ。
「ん、あれは?」
魔王の体を禍々しい魔力が覆ったと思うと、みるみる内にその体が大きくなっていった。あれは、大きなトカゲ、いや、ドラゴンか!?
「何あれ!?」
「ドラゴニュートの<竜化>スキルだと思います」
「じゃあ、あれがドラゴン!」
アカリさんが歓声を上げた。
いやいや、喜んでる場合じゃないからね。
ドラゴンと化した魔王が大きく口を開けて動きを止めた。
すると、その口の周りで急速に魔力が高まって行くのを感じた。
「あれはマズいんじゃないか!?」
「ナタリーさんはアカリさんを連れて書庫に戻ってください!」
「分かったわ!」
箒に乗った二人はくるりと方向転換して神殿に向かって飛んで行った。
僕とエレーヌは全力で魔王に向かって空を飛ぶ。
間に合うか?
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