第127話

翌日。

フォアエリベル法国とリオイマル王国から、さらに要望があったらしい。

「ボウディマ王国に向かっている援軍の本隊に、アカリちゃんの手料理を届けて欲しいんだって。どんどん仲間にしてくれって」

「えっと、今日は昼と夕方に脱出作戦だから、それを避ければ大丈夫かな」

「移動しながらでも食べやすい携帯食を作ります。どんどん作るので、どんどん持って行ってください!」

アカリさんが張り切っていた。


行軍している大まかな場所を聞いて、後は鳶の術で上空から軍隊を探して、アカリさんの手料理を届けて回った。


それにしても、ボウディマ王国の方はどうなってるんだろう?

ランヴァルドさんに心話で聞いてみた。


『昨夜のうちに、我々研究者からは”問題は見つからなかった”と報告書を提出したんですよ』

『そうなんですか』

『てっきり、今日から全軍を対象に始めると思ってたんですが、おかしいですよね』

ランヴァルドさんが軍に確認してみてくれるとの事だった。


お昼には、王都の北の神殿から避難民を脱出させた。


夕方近くになって、ようやくランヴァルドさんから心話で連絡が来た。

『どうやらスヴェン殿下からの横やりで計画がストップしているらしいですよ。全く、こんな時に何をやってるのやら』

あのいけ好かない第2王子か。はぁ~、本当に何やってるんだか。

『このままじゃ埒が明かないので、個人的に伝手のある部隊にこっそりと英雄殿の料理を配ってしまいましょう。私の所に持ってきていただけますか?』

『ええ、いいですよ』


アカリさんに伝えると、「もういっそのこと”きびだんご”にしちゃいましょうか」と言って、丸い形の柔らかいお菓子を作り始めた。

これが、”ももたろう”のお話に出て来た”きびだんご”か。

「材料が違うので、只の団子なんですけどね」

とアカリさんは苦笑いしていたけど、違いが分からないや。

うん、これも美味しい。

小さいお菓子だから、大量に作ることができるのが利点だ。

そして、こっそり配るのに向いてる。


これをランヴァルドさんに届けた。


夕方には、王都の南西の神殿で脱出作戦を実行した。


この日の夜の時点で、アカリさんの仲間一覧には3000人以上の名前が並んでいた。

「グループ分けして管理しないと…」

と言って虚空に向けて指を動かしていた。

管理メニューとやらを操作しているんだろう。




翌日。

朝からアカリさんはせっせと料理を作り、それを僕が各所に運んだ。


ようやく、ボウディマ王国の軍から正式な打診が来た。

心話でランヴァルドさんが教えてくれた。

『結局、父上が英雄関係の取りまとめ役を買って出ましてね。軍の中で押し付け合いになって、話が進んでなかったらしいです』

『そんなんで大丈夫ですか?』

『私も危惧してますよ。まぁ、こっちで上手く配分しますので、今まで通り私の所に持って来て下さい』

『分かりました』

「はぁ~」

一番頑張らなきゃならないはずのボウディマ王国の軍が、一番もたついているという現実に、僕はげんなりした。


お昼には王都東のダンジョンで、夕方には西のダンジョンで、脱出作戦を実行した。

これで、ようやく王都に取り残された住民の救出が終わった。


各国からの援軍も続々と到着しており、南の街の周囲は軍隊で埋め尽くされて物々しい雰囲気だ。


夜には、アカリさんの仲間一覧が6000人以上になっていた。

「フォアエリベル法国の援軍1500とリオイマル王国の援軍2000には、ほぼ行き渡ったみたいです。でも、ボウディマ王国は全軍1万に対して2200くらいしか仲間になってませんね」

「う~ん、まだ第2王子が邪魔してるのかな?」

「そんな事してる場合か、っての」

ナタリーさんも憤慨している。


心話でランヴァルドさんに聞いてみた。

『どうやら、軍の中に悪い噂が広まってるようなのです。<勇者の仲間>になると精神が支配されて捨て駒にされるとか、英雄殿を貶めるような噂ですね。それで不安になって、仲間にならない者が多く出ています』

『えぇ?そんなことになってるんですか!』

『参りましたよ。どうやら、命令して無理矢理に承諾の言葉を言わせても、仲間にはならないようです。研究所が根拠を示して説得しても、あまり効果が無くて』

ランヴァルドさんもかなりお疲れの様子だった。


ナタリーさんはそれを聞いてあきれた顔になった。

「軍は諦めて、冒険者を仲間に引き込みましょう」

「そうか。銅級以上は強制参加だっけ」

「強制は銀級以上ね。ランヴァルドさんも冒険者ギルドにコネがあると思うのよ。ちょっと聞いてみる」

黙り込むナタリーさんを見守る。

「できるみたい。ランヴァルドさんの方で手配するらしいから、明日からも彼の所に料理を持って行けば良いって」

「分かった」

魔物相手なら、冒険者の方が頼りになるだろうな。



翌日。

今日も、アカリさんは料理を作り、僕はそれを各方面に配って回った。


ボウディマ王国以外の軍隊では順調に仲間が増えている。

冒険者も、ランヴァルドさんのおかげで続々と仲間入りしている。


さらにベルナールさんの提案で、”生命力の共有”の効果を高めるために、援軍に参加していない、国元に残っている軍隊からも仲間に加えることになった。

法国だけでなく、リオイマル王国や、その他の国も協力してくれるとの事。

嬉しい反面、僕とアカリさんはさらに忙しくなった。

「これが私の戦い方ですから」

とアカリさんはやる気に満ちていた。


ナタリーさんとエレーヌも、食材の確保とか、各所との調整とかで忙しく駆け回っている。


夜、皆で集まって情報共有をした。

アカリさんの仲間一覧は、2万を超えた。8千が各国の援軍を含む現地に集合した軍隊。2千が冒険者たち。9千が各国の本国にいる軍隊。と言った内訳だ。


「明日の早朝より、全軍で王都に向けて進軍し、前線を押し上げる予定です」

エレーヌが今後の計画を説明してくれた。


・現在、南の街から徒歩で半日ほどの場所に、土壁で作った防壁があり、そこが前線になっている。

・ここに、防衛の部隊2千を残して、全軍が前進する。

・街道沿いに、両脇に土壁を作りながら王都に向かって安全な道を作りつつ進軍する。

・途中にある町を奪還して中継基地を作る。

・王都の南門に橋頭保を作り、そこから一気に王城まで道を付ける。

・各国の精鋭を集めた選抜隊が王城に突入し、魔王を仕留める。


という流れになるようだ。

ボウディマ王国の計画では10~20日かかる見込みだ。


「え~?<強靭な肉体>を共有した軍隊なら、1日か2日で王都まで行けるでしょ」

「それが、ボウディマ軍にはアカリさんの仲間になっていない兵が多いですから、足並みを揃えるためにそうなったようなのです」

「他の国の反応は?」

「当事者であるボウディマ王国に遠慮して強くは言ってないですが、批判的でしたよ。何故英雄の協力を得ていないのか、って」

「だよね~」


話がひと段落した所でエレーヌが別件を切り出した。

「各国の軍からアカリさんの料理がまた食べたいと陳情が寄せられているそうです」

「本当ですか!うれしいです。また作りますよ」

「では、無理のない範囲でお願いします」

「は~い。何作ろうかなぁ」

戦闘で貢献できない分料理で頑張る、と言っていたアカリさんだからこそ、余計に嬉しいんだろうな。

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