第124話
僕たちは領主館を出て、ベルナールさんたちフォアエリベル法国の使節団が使っている屋敷に帰って来た。
「はぁ~、疲れたぁ」
客間のソファに座り込んでぐったりする。本当は変装も解きたいけど、まだ仕事が残っている。
「お疲れさまでした」
エレーヌが淹れてくれたお茶を飲んで、一息つく。
すると、部屋の一角に急に人の気配が現れた。
「お待たせ~。持って来たよ」
ナタリーさんだ。
アカリさんの作った料理を運んで来てもらったのだ。
この後、使節団の方たちにアカリさんの手料理を食べてもらう予定になっている。
「なんか大変みたいね。大丈夫?」
ソファでぐったりしている僕の顔をナタリーさんが覗き込んだ。
「あんまり大丈夫じゃないかな~」
「どれどれ」
僕の後ろに回って、ナタリーさんが肩を揉んでくれる。
自分でも気づいてなかったけど、力が入ってたみたいだ。
「ふぅ~」
「ふふっ、本当に疲れてるみたいね。これ終わったら一緒に温泉に入りましょ」
「うん」
あー、早く終わって欲しい。
使節団の人たちの夕食会で、アカリさんの手料理を食べてもらった。
「これは、美味しい」「ニホンではこのような料理があるのか」
一通り食べてもらったところで、問いかける。
「それでは皆様、私と仲間になっていただけますでしょうか?」
「はい」「もちろんですとも」「是非、今後ともよろしく願いしますぞ」
この後、各自にステータスを調べてもらって、全員に<勇者の仲間>が追加されたのを確認した。
今日はこれで終わり。
温泉宿に戻って、温泉でまったりして疲れを癒した。
翌日は、リオイマル王国(温泉街のある国)の先遣隊を見学して、その隊長さんと会談をしたり、他の小国の窓口となっている人物たちと会談したり、とにかく人に会って回った。
昨日と同様に疲れたけど、あの第2王子みたいな失礼な人はいなかったので、まだマシだった。
「これで一通り筋を通したことになりますので、いよいよ本格的に計画を進められます」
「そうなんですね」
ベルナールさんが、ぐったりする僕を見て苦笑する。
「この後の計画ですが…」
・各国から選抜された少数の兵士にアカリさんの手料理を食べさせて、<勇者の仲間>にする実験を行う。悪影響が無いか、実際の効果はどうかを知ってもらうためだ。
・問題が無ければ、アカリさんに大量に料理を作ってもらって、各国の兵士に順次食べさせて<勇者の仲間>を増やしていく。人数が人数なので、それなりの時間がかかる見込みだ。
・予定の数が集まったら、戦線を北上させて、王都の近くに本陣を構える。そして「魔王特効」の共有で一気に魔物を殲滅して王城まで攻め寄せて魔王を討つ。
という流れらしい。
「あの、王都の生存者の救出は?」
「ボウディマ王国側の意見では、軍が突入した際についでに救助すると言ってますが、現実的ではありません。最初から見捨てるつもりなのでしょう」
「酷い…」
カロラやシーラたちの顔が脳裏に浮かぶ。
「ですので、アカリ殿が要望して、我が国とリオイマル王国、そして自由商業都市連合の3か国が主導する、という形で計画を立案してあります。既に大半の国の了承を取り付けてありますから、明日の会合で正式決定するでしょう」
「おおっ!ありがとうございます!」
ベルナールさんがいてくれて良かった。
「問題は、受け入れる場所です。一時的に我が国で受け入れる事は可能ですが、他国民ですので何かと問題があります。最終的にはボウディマ王国のどこかで受け入れていただかないとなりません」
「なるほど」
「ですが、ボウディマ側のあの様子だと、押し付け合って難航すると見ています。ノアさんに伝手はありませんか?」
「えぇ?貴族の伝手なんて、…ありますね」
アウロラとランヴァルドさんの事を伝える。
「なんと!カールステット家と伝手がおありでしたか。ちなみに、ランヴァルド殿の御父上が、初日に案内してくださったヨエル殿ですよ」
「ああ!そっか!」
なるほど、誰かに似てると思ったら、ランヴァルドさんの父親だったのか、あの人。
アウロラの実家のカールステット家は、フォアエリベル法国と国境を接していることもあり、今回の避難先としては理想的だとの事。
「ノアさん、話を通していただけますか?」
「ええ、分かりました」
温泉宿に戻り、アウロラに宿の従業員を通じて連絡をした。
すると、夕食を食べてる最中に、返事が来た。
夕食会を待たずに、明日の午前中に会ってくれるとの事。
早速ベルナールさんに報告。
『ずいぶんと素早い対応ですね。ノアさんの事がよほど大事なのでしょうね』
そうなのかな?
食後にまったりしていると、アカリさんが相談に来た。
「せっかくスキルを共有できるのに、今の私には有用なスキルがないですよね。それで、ナタリーさんに聞いたのですが、レベルと引き換えに肉体を強化するスキルを得られるとか?」
「ああ、あれね。そうか、アカリさんならどんどんレベルが上がるから、いくらでもレベルを捧げられるよね」
「はい、ぜひ試してみたいです」
「でもなぁ、”狂戦士の闘技場”はボウディマ王国にあるんだよね。魔王に感知されないかな?」
危険性を指摘してみたら、ナタリーさんにも同じように危険だからと反対されてたらしい。
う~ん、生命力の共有があればアカリさんが死ぬことは無いだろうし、僕がいれば何とか逃げ切れるだろう。
「よし、やろう!」
「ありがとうございます!」
明日のアウロラとの面会の後にやってみることにした。
翌日。
温泉宿にベルナールさんも含めて全員で集合した。
僕とナタリーさんは一番いい服を着て、アカリさんは最初に来ていたセーラー服に着替えた。
宿で用意してくれた竜車に乗って、アウロラのいる屋敷(貸別荘)に向かった。
「ノア様、ようこそお越しくださいました」
「おはよう、アウロラ。紹介するよ、こちらがフォアエリベル法国の特使であるベルナールさんだ」
お互いに挨拶を交わし、エレーヌをベルナールさんの娘として紹介し、そしてアカリさんの番だった。
「そして、こちらが異世界のニホンから召喚された、英雄のアカリさんだ」
「えっ?」
アウロラがポカーンと口を開けて固まった。
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