魔王討伐
第123話
その日のお昼過ぎの事だった。
「ノアさん、お父様が会って話がしたいと」
「うん、分かった」
エレーヌに連れられて、転移する。
南の街近くの森の中だ。
「おはようございます、ノアさん。実は…」
挨拶もそこそこに、ベルナールさんは本題に入った。
今日の午前中にようやくボウディマの王様と面会出来たらしい。
魔王の事や、召喚英雄の事、王都内の生存者の事などを伝え、王都の南で起きた昨日の凄まじい大爆発(僕らが襲われたときのアレ)も、魔王の仕業だと教えた。
ちなみに、あの爆発の際には南の街でも地震が起こり、遠くに立ち上る巨大な煙が見えたそうだ。
「『風の精霊よ、私たちの声を外に漏らさないでおくれ』これで周囲に聞こえる心配はありません。ここからはご内密にお願いします」
僕も頷く。
どうやら、王様はすっかり怯えてしまって「英雄を早く連れてこい」とか「全人類の軍を結集し魔王を討つべき」とか言い始めたそうだ。
王都の生存者についても、事前の打診では「最優先で救出する」と言ってたのが、「すべては魔王を倒してからだ!」と180度変化してしまったらしい。
「うわ~」
酷いな、王様。見損なったわ。
流石にこの醜聞は大っぴらにしゃべれないな。
「ノアさんにお願いがあります。<変装>でアカリ殿の振りをして国王陛下と面会してくれませんか?」
「はぁ!?」
何を言い出すんだ!
ベルナールさんがその理由を説明する。
「周辺各国からは既に援軍が派遣されており、数日内にここに到着予定なのです。当初は当事者のボウディマ王国に指揮を任せるつもりでしたが、先ほどの謁見でそれだけの器がこの国には無いと判断しました」
あー、うん。僕もそう思うな。
「そこで、“召喚英雄”であるアカリさんを人類結束の象徴としてトップに据えて、その下に各国が参集する形を取りたいと考えています。これについては主要な国の賛同を既に取り付けています」
「なるほど」
しかし、こっちに近づくとアカリさんが感知されて魔王が飛んでくるから、本人ではなく僕が<変装>するしかない。というわけか。
「それに、ボウディマ王国が人類連合軍のトップに立てば、間違いなく王都の生存者は見殺しにされるでしょうね」
「はぁ~、やるしかなさそうですね」
僕も腹を括った。
ベルナールさんに書庫への入場許可を与えて、書庫で皆を集めて話し合う事にした。
僕がアカリさんに<変装>して見せると、皆にジロジロと観察された。
「うわ~、そっくり。見分け付かないわ」
「声まで同じですね」
「私ってこんな感じなんですね。へぇ~」
ベルナールさんにはアカリさんの手料理を食べてもらった。
「おぉ、このパンケーキというのは美味しいですね。私は普段食事をしませんが、こういう物なら楽しめますね」
彼も<勇者の仲間>になってくれた。
これで、いつでも心話で相談することができる。
今回の”英雄なりすまし作戦”の間も、心話があれば心強い。
「さて、ノアさん。各国の王や代表と交流することになりますからね、礼儀作法を今から叩きこみますよ」
「え?」
聞いてないよ!
「エレーヌ、しっかりと教えてさしあげなさい」
「はい、お父様」
「背筋伸ばして、顎を引いて。頭を揺らしてはいけませんよ!」
「はいぃ!」
エレーヌの厳しい指導の下、礼儀作法のレッスンが始まった。
「アカリさんも、気を抜かない!」
「ひゃい!」
いずれはアカリさんが表に出る事もあるだろうと言う事で、レッスンは二人一緒に行われている。
「う~、戦闘訓練より厳しいですぅ」
「だね~」
「私語は禁止ですよ!」
「「はいぃ!」」
おかげさまで、夜には取得可能スキル一覧に<礼儀作法>が出現したよ。
即座に取得した。
─────
魂の器: 8【-5】
下位スキル:
<荷運び> <清浄> <ダウジング> <飲用水> <投擲> <屠殺>
<房中術> <方向感覚> <解体> <護身術> <罠術>
<勇者の仲間> <礼儀作法>【追加】
上位スキル:
<真・遁術> <偵察(極)> <忍法> <諜報(極)>
─────
アカリさんにこの事を伝えたけど、彼女の一覧にはこのスキルが現れていなかった。
「え、もしかして明日から私一人であのレッスン受けるんですかぁ~」
ご愁傷様です。
翌日。
心話でベルナールさんから連絡があった。
『ボウディマ王国との会談が今日の午後で決定しました』
『今日の午後!?』
『これでも粘った方なんです』
うぅ、仕方ないか。
お昼までは対策を練って、こういう場合はこう答える、という話し合いを心話で行った。
「それじゃ、行ってくるよ」
「頑張ってください!」
「ほら、しゃべり方がノア君になってるよ」
「おっと。行ってきますね」
僕は、<変装>で異世界の”セーラー服”を着たアカリさんの姿になっている。
う~、足元がスースーして心許ないな。
付き添いとしてエレーヌが同行する。
転移して森の中でベルナールさんと合流し、フォアエリベル法国の馬車で街の中に入って行く。
街で一番立派な建物、領主館に到着すると、貴族らしき男性に出迎えられた。
初対面のはずだけど、何となく見覚えのある顔をしている。
「ようこそお越しくださいました、英雄殿。私は魔法研究所副所長を務めます、ヨエル・フリーデンと申します」
「異世界のニホンより参りました、アカリ・センドウです」
僕はスカートを摘んでお辞儀をした。<礼儀作法>スキルのおかげですんなりできた。
ヨエルさんは色々話しかけてくるんだけど、異世界の事をやたらと質問してくる。僕じゃ答えられないよ!
同行するベルナールさんが取りなしてくれて、答えずに済んでるけど。
何だろう、このヨハンさんの雰囲気は誰かに似てる気がする。
応接室らしき所で少し待たされた後、広い部屋に案内された。
大きなテーブルが部屋の真ん中にあり、10人以上の人が着席して待っていた。
一番奥に座っている、きらびやかな衣装の男性が国王陛下だろうか?
一足先に部屋に入っていたヨエルさんが大きな声で報告する。
「異世界より召喚されし英雄、アカリ・センドウ殿をお連れしました」
「うむ。大儀であった。その方が英雄殿か?」
しかし、国王らしきその人が目線を向けたのは、隣のエレーヌだった。
『ノアさん、一歩前に出て挨拶を』
ベルナールさんから指示だ。
一歩前に出て、スカートを摘む。
「お初にお目にかかります。私が異世界ニホンより参りました、アカリ・センドウです」
「お、おぉ、英雄殿よくぞ参られた」
王様が動揺している。
その後、王様から「共に魔王と戦い討ち果たそう」とか、「我が軍が付いていれば怖いものは無い」とか、中身のない話を聞かされて、辟易させられた。
我慢してちゃんと聞いてる風を装う。
すると、王様の話がひと段落した所で、その横に座っていた男が話し出した。
「それにしても、英雄殿は華奢で可愛らしいですな。本当に魔王を倒せるのかと不安になるほどです」
笑顔を浮かべているが、目が冷たい。
誰だろ?
両隣から心話によるサポートが入る。
『第2王子のスヴェン殿下です。騎士として活躍しており、武を重んじる方です』
『アカリ殿の能力については説明したのですけどね、どうもご理解いただけていないようです』
なるほど、武闘派の王子様ってわけか。
「これ、スヴェンよ。英雄殿の能力については聞いておろう。そのような物言い、英雄殿に失礼だぞ」
「これは申し訳ございません。先頭に立って敵に挑むものこそ英雄でありますれば、ついつい心配になってしまった次第です」
流石に王様が顔を青くして慌てて止めた。
「スヴェン!お前はもうよい、下がれ」
「御意にございます」
慇懃に一礼すると、その王子は僕をジロッと睨んで部屋を出て行った。
「すまぬな、英雄殿。アレの事はどうか忘れて欲しい」
僕は両隣から心話でサポートされながら、釘を刺しておく。
「私は構いませんが、本当に大丈夫でしょうか?今後の協力関係に支障を来さぬよう、ご配慮をお願いします」
「う、うむ。約束しよう」
何だか嫌な感じだなぁ。
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