第122話
”魔王特効”の実験で、オークを仕留め、その効果について話している時だった。
ゾクッ!
北の方から強大な気配が急速に接近してくるのを感じた。
これは…
「魔王が来る!」
「えっ?」
ゴゥッ!
急に強い風が吹きつけて、周囲の底なし沼から泥が飛び散った。
なんて速さだ!
<索敵>範囲に入ってから、ほんのわずかでここまでたどり着くなんて、箒の全力より速いぞ。
『その忌々しい気配。異界の者だな』
その声には、寒気のするようなおぞましい魔力が籠っていた。
「これが、魔王…」
エレーヌのつぶやきが後ろから聞こえた。
底なし沼の上、空中にそいつは浮かんでいた。
トカゲのような顔つきで見た目はリザードマンに似ている。しかしその背には立派な皮翼が付いてる点がリザードマンとは異なっていた。
魔王は僕らをジロジロと見て首を傾げた。
『ふむ。以前の我を殺した奴よりもずいぶんと弱いな。まぁいい、今のうちに消し去っておこう』
ゾッ!
身のすくむような殺気を向けられ、僕は慌てて印を結んだ。
<土遁・塗り壁>
ズズズッ!
魔力を全力でつぎ込んで、分厚く作った。
エレーヌも既に魔術を準備していたようで、ほぼ同時に発動した。
「<聖雷光>!」
バシィッ!
真っ白な閃光が前方を覆った
『グワァァ!』
魔王の悲鳴が上がるが、その結果を確かめている余裕はない。
僕は素早く振り向くと<荷運び>スキルを使って、エレーヌを抱えた。
『おのれぇ!』
ドゴォォン!
背後で凄まじい轟音が鳴り響き、周囲に熱風が巻き起こる中、僕は必死になって魔法陣に飛び込んだ。
瞬時に視界が書庫に切り替わった。
「はぁ、はぁ…」
息が上がって、その場に膝を付く。
今になって恐怖が腹の底から湧き上がってきた。
「念のため魔法陣を消去しておきました」
エレーヌが携帯用操作盤を使って、何かやってくれたらしい。
「大丈夫!?」
ナタリーさんが駆け寄ってきた。
「こっちにもダメージが来たわ」
その顔を見ると右の頬が赤くなっていた。
そしてようやく、自分の顔もヒリヒリと痛んでいるのが分かった。
魔王の攻撃で火傷を負っていたらしい。
「急に魔王が来て、攻撃を受けたんだ」
「えぇっ!…はぁ、無事でよかった」
ナタリーさんに抱きしめられて、自分の体が強張っていたことに気が付いた。
エレーヌに神聖魔法で治療してもらって、アカリさんにお茶を入れてもらい、ようやく落ち着いて話ができる状態になった。
「魔王は私の事を異世界人だと認識していたようです」
「以前の自分を殺した、って言ってたから、大賢者の事を覚えてるみたいだったね」
「どういうこと?異世界人はアカリちゃんなのに」
首を傾げていると、アカリさんが手をちょっと挙げて発言する。
「あの、それって”魔王特効”を共有したからじゃないですか?」
「あぁ、なるほど」
「確かに、魔王にしてみればそれが一番恐ろしいモノだし、あり得るわね」
つまり、魔王は「魔王特効」の気配を感知することができるということらしい。
そしてそれを感知すると飛んでくるわけだ。
今まで温泉宿やエスパーニャ商会にいても魔王が飛んでこなかったという事は、ある程度距離があれば感知されないって事だ。
「とりあえず、アカリちゃんをボウディマ王国に近づけちゃ駄目ね」
「今後、”魔王特効”を安易に共有するのは避けた方が良いですね。これもお父様に報告しておきます」
厄介だな、魔王の感知能力は。
日が暮れてから、王都南東の神殿にアカリさんの作った夕食を届けに行った。
ナタリーさんも一緒だ。
ちょっと試してみたいことがあって、食事の配給に立ち会う事にした。
「この料理を作ったのはアカリちゃんっていう女の子なの。よかったら彼女とお友達になってくれる?」
「うん、いいよ!」
ナタリーさんが食事を渡すときにそう尋ねると、子供たちはもちろん、女性の大半と年配の方たちはほとんどが快く了承してくれた。
しかし、
「やだよ、恥ずかしい」「俺みたいなおっさんじゃその子も嫌だろうよ」
と断る人も当然いた。
配給が終わって温泉宿に戻ると、アカリさんに聞いてみた。
「どうだった?」
「はい!仲間が50人を超えましたよ!」
「おお~」
アカリさん本人がその場にいなくても仲間が増やせることが確認できた。
この事もベルナールさんに報告しておいた。
日課のステータス確認だ。
─────
ノア 13歳 男
種族: 人間
レベル: 9★【+2】
適職: なし(忍者)
能力値:
筋力: 102【+3】
耐久: 101【+2】
俊敏: 105【+2】
器用: 107【+3】
精神: 107【+4】
魔力: 109【+3】
ユニークスキル:
<未完の大器>
魂の器: 13【+2】
下位スキル:
<荷運び> <清浄> <ダウジング> <飲用水> <投擲> <屠殺>
<房中術> <方向感覚> <解体> <護身術> <罠術>
<勇者の仲間>【追加】
上位スキル:
<真・遁術> <偵察(極)> <忍法> <諜報(極)>
─────
流石に魔王に出くわして肝を冷やしただけあって、2レベル上がったよ。
「あれ?」
下位スキルの欄に<勇者の仲間>というのが追加されてるじゃないか!
「ナタリーさん」
「すぅ~」
もう寝てしまったようだ。
う~ん、ごめんなさい!
良くない事だけど、<人物鑑定>を使わせてもらおう。
…
「やっぱり」
ナタリーさんの下位スキルにも<勇者の仲間>があった。
仲間になったかどうか、このスキルで判別できるのか。
説明を見てみた。
─────
<勇者の仲間>
→ 勇者アカリの仲間となった証。
共有設定【スキル:なし 権能:なし 生命力:80%】
─────
共有の状況が確認できるのか。なるほどなぁ。
翌日。
朝は、もはや恒例となった、アカリさんの炊き出しを神殿に運んだ。
カロラ達に挨拶して鍋を渡すと、一人の男性が近づいてきた。
「なぁ、救助はいつ来るんだ?」
その声を聞いて、周囲のざわめきが一瞬で静かになった。皆、聞き耳を立てているのだ。
参ったな、そこまでは考えてなかったよ。
「えっと、僕はそこまでは分かりません。ただ、南の街に軍隊が集まっていて、戦闘準備をしているというのは聞いてます」
「そうなのか。俺たちは見捨てられてないよな?」
「はい、それは無いと思いますよ」
「そうか、そうか」
男の人は戻って行き、周囲にざわめきが戻った。
う~ん、多分、大丈夫だよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます