第19話

「ノア君、起きて、起きろ~!」

はっと目が覚めると、もうすっかり明るくなっていた。

「あ、起きた。おはよー、ノア君」

ナタリーさんが僕の顔を覗き込んでいた。

もちろん、ちゃんと服を着ていた。

「お、おはようございます」

うわ~、気まずい!どうしよう…


「ノア君、寝起きの所悪いんだけど<清浄>かけてくれる?昨日はそのまま寝ちゃったからベタベタして気持ち悪いし」

ベタベタして!?うわ~、やっぱりそういう事だったのか?

全然覚えてないなんて、もったいない…

じゃなかった、不誠実だよね。


「ごめんなさい!実は僕、昨夜のこと全然覚えてなくて」

「あ~、やっぱり。もぅ、大変だったんだよ~?ワインで服は濡れるわ、ノア君は酔いつぶれて寝ちゃうわで。お店からここまで運んで、服脱がせてベッドに放り込むまで世話してあげたんだから。お姉さんに感謝しなさい」

んん?どういう事?

「僕、酔いつぶれたんですか?」

「そうよ。まさかグラス3杯で潰れちゃうとは思わなかったなぁ。急に眠っちゃうからテーブルの上ぐちゃぐちゃになるし、ワインもこぼれちゃったし。お店には私が謝っておいたけどね」

「あ、そ、そうだったんですね。ごめんなさい」

なんだ~、そういう事だったのかぁ。

ちょっと残ね、じゃない、ほっとしたなぁ。


要望通り、ナタリーさんの体と服をいっぺんに<清浄>スキルで綺麗にする。

「ありがと。それじゃ今日も鍛錬に行くから、ノア君は”いろいろと”気を付けてね。じゃね」

装備を手早く身に着けて、ナタリーさんはさっさと出かけて行った。


僕も身支度を整えると、フロントに鍵を預けて外に出た。

まずは向かいの食堂にお詫びを、と思ったけど誰もいなかった。また今度でいいか。


昨夜考えた通りに、冒険者ギルドの資料室に行って、上位スキルについて調べてみることにした。

通りを歩いていると、スリらしき子供が僕に向かってくるのが分かるようになっていた。昨日のあの苦い経験から学んだからな。

避けたり、手を払ったりして、軽くあしらう。

僕の財布にはもう指一本触れさせないぞ!


冒険者ギルドの右側の入り口から入り、案内の人に資料室の場所を聞いて、2階に上った。

「あの~、すみません」

早速、資料室の職員に声をかけた。

「はい、どうしました?」

「上位スキルについて知りたいのですが」

「どの適職でしょうか?」

「いえ、いろんな適職の上位スキルを知りたいのですが」

僕がそう言うと、怪訝な顔で見られた。

「う~ん、それならスキルの逆引き辞典で適職を調べて、改めて適職から上位スキルを調べるといいですよ」

「じゃあそれでお願いします」


受け取った”スキル逆引き辞典”を使って、忍者の上位スキルについて調べてみる。


<暗器術>は”暗殺者”の上位スキルにあった。


<遁術>は載ってなかった。


<偵察>は”斥候”の上位スキルにあった。


<諜報>は”工作員”の上位スキルにあった。


再び職員の所に行って、”暗殺者”、”斥候”、”工作員”の上位スキルについての資料を出してもらう。

ちょっと、その不審者を見るような眼はやめて欲しい。

確かに物騒な適職が二つほど含まれているけれども、僕は潔白だよ。


まず<暗器術>から。

こいつはヤバい。殺意が高すぎる。

これは”戦う”のではなく”殺す”に特化した技術だ。

暗器に分類されるのは、刃渡り15センチ以下の小さな刃物や、紐や袋などの武器らしくない物だ。

付属スキルに<収納>というのがあり、亜空間に暗器専用の隠し場所を確保して、いつでも出し入れできるらしい。

素手のように見えても、暗器がぎっしり隠されてるってわけだ。

付属スキルには他にも、<奇襲>、<急所突き>、<毒刃付与>等があり、名前を見ただけでもヤバさが分かるだろう。


これはちょっと、取得しにくいなぁ。

このスキルを持ってたら絶対に怪しまれるよ。


次、<偵察>は普通に優秀だ。

姿を消したり、目や耳で情報収集するのが得意になるようだ。

付属スキルの<隠形>は、自分の出す音、臭い、体温、そして姿まで隠してくれるという、”見つからない”ことに特化したスキルだ。

<索敵>で周囲の敵を見つけ、<知覚強化>で夜の闇を見通し遠くの物を見聞きする。

さらには、<動物使役>で小動物や昆虫を使役してその感覚を共有することで、物陰や施設内の様子を探ったり、遠くの仲間に情報を伝えたりもできるらしい。


ただ、これ単独では冒険者として活躍するには足りないかな。

あくまでも補助的なスキルだと思う。


最後の<諜報>はちょっと凄すぎる。

人を騙したり誤魔化したり、信用を得やすくしたりと、あらゆる手段で人を味方につけて、自分の都合のいい状況を作り出す、というスキルのようだ。

付属スキルの数が凄い。

<欺瞞>は”騙す”ことに特化したスキル。嘘を言ってもバレにくいとか、書類の改ざん、さらには何とステータスプレートの表示も改ざんできるそうだ。

<変装>は他人に成りすましたり、架空の人物を演じたりする。

<人心掌握>は相手の信頼を得て、相手の思考を誘導しやすくなる。

<人物鑑定>、<物品鑑定>は言わずもがな、優秀なスキルだ。

<開錠>もその名の通りだ。

他にも秘匿された付属スキルがまだあるのではないか、と最後に書かれていた。


なお、この<諜報>スキルを持っていると、問答無用で王家の管理下に置かれるそうだ。

危なかった!先に調べておいて良かった。


「ふぅ」

これで決まりだな。

<遁術>を取ろう。

っていうか、他の選択肢はなかった。

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