第18話

※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません

あくまでも、異世界の出来事ですので。

────


王都焼きを食べた後、一度宿に荷物を置きに来た。

「ナタリーさんはまだ戻ってないか」

どうするかな。

とりあえずステータスプレートを確認してみる。

「お、上がってる」

レベルは3になっていた。

そういえば、昨夜は日課のステータス確認を忘れてた。これだと、今日だけで2レベル上がったのか、昨日の時点で上がっていたのか分からないな。

まぁいいや。

まだ夕飯まで時間あるし、また街を見に行こう。


適当に歩き回ってみた。

人ごみを歩いていると、なぜか僕にぶつかってこようとする人が時々現れるので、そのたびにスッと身をかわして避けている。

昨夜の男みたいにトラブルになったら嫌だからね。

でも、厳つい奴じゃなくて、僕よりも小さな子供が多いんだよね。何なんだろう?


目についたお店に片っ端から入ってみたけど、やっぱり王都だね。

同じものを扱ってるお店が何件もあった。お酒屋さんの数軒隣にまたお酒屋さんとか、僕の地元じゃ考えられないよ。

あと、扱ってるものが細かく分かれて、専門店になってる事が多い。男物専用の古着屋だとか、料理道具専門店とかね。

品ぞろえが豊富で選ぶのが大変そう。あと、色々なものを揃えたいときにあちこち回るのが大変じゃないかな。

って思うのも、僕が田舎者だからだろうか。


「おっと」

ドンッ。

とうとう避けきれずに子供にぶつかられてしまった。

「ごめんなさい」

今回は向こうから謝って来た。

「大丈夫だよ。気を付けて歩いてね」

「うん」

と言って、子供が走り去っていった。

なんだ、普通の子供だったぞ?

「おい、兄さん。財布スられてないかい?」

道端の商店のおじさんが話しかけてきた。

「え、財布?」

ポケットに手を入れてみると、無い。

「あれ?」

「あちゃ~、さっきのガキはスリだな。王都はスリも多いから、ちゃんと懐の奥の方にしまっとかないとやられっぞ」

「そ、そんなぁ」

あれには銀貨を10枚以上入れてたのに~。トホホ…


ちなみに、僕の地元なら、銀貨1枚で5回くらいは食堂で食べることができる価値がある。

もうさっきの子供はどこにも見当たらない。取り戻すのは絶望的だろう。

「はぁ~~」

宿に帰ろうっと。


「あ、ノア君、お帰り。ってどうしたの?」

部屋にはすでにナタリーさんが帰ってきていた。

「ナタリーさん。それが、財布をスられてしまって…」

思い出してまた落ち込んでしまった。

「あらら、やられちゃったか。王都に来た人は必ず1度はスリにやられるんだよね。まぁ、勉強代と思ってあきらめるしかないよ」

「勉強代ですか、はぁ~」

高くついたなぁ。

「あぁん、もぅ!そんな顔しないの」

むぎゅっ、と抱きしめられた。

ナタリーさんの柔らかさと温かさで僕の心が癒されていくのを感じた。

「今夜はお姉さんが奢ってあげるから、食べに行きましょ」

「あ、いや大丈夫です。ちゃんと払いますよ」

「遠慮しないの。ほら、行くよ」

ぐいぐい引っ張られて、向かいの食堂に行った。


「ほら、こういう時は飲むのが一番!」

「えぇ~」

ナタリーさんにワインの入ったグラスを押し付けられた。

この国では別にお酒を飲むのに年齢制限は無いけど、一応常識として小さな子供には飲ませない。

僕くらいになれば普通に飲んでもいいことになっている。

ただ、お父さんの飲んでるお酒をちょっと舐めたことあるけど、全く美味しいとは思わなかった。あんなものを美味しいと言って飲んでる大人が信じられない、って思ってた。

なので、このワインもちょっと口を付けるだけにしておこう。

そう思ってました。


「うはははっ、美味い、これ美味しいです!」

「そうでしょうそうでしょう、ほらグラス空いてるよ」

初めて飲んだワインは口当たりがよくて、とても飲みやすかった。

なんだか気分も良くなったし、財布がスられたことなんかどうでもよくなった。

お酒、サイコー!


「んがっ?」

目が覚めたら真っ暗だった。

えっと、何やってたんだっけ。

あ~、おしっこしたい。あと、喉乾いた。

ムクっと起き上がると、近くで寝息が聞こえるのに気が付いた。


ふと横を見ると、わずかな月明りで、それが白く浮かび上がる。

えっと。

これは、裸?女性の裸だ。えっと。え?

ナタリーさんが裸で寝ていた。

え?

自分の体を見下ろすと、僕も裸だった。

えぇ~!?

何があったんだ?まったく思い出せないぞ。

え~と、夕食を食べに向かいの食堂に行って、初めてのワインを飲んだんだよな。

その後、…まったく記憶がない。


うっ、おしっこ我慢してたんだった。

慌てて備え付けの明かりの魔道具を点灯して、自分の服を探すと、ベッドの下に散乱していた。ナタリーさんの服と一緒に。

と、とにかく服を身に着けて。

あわてて共同トイレに走って行った。


用を足し終えて、部屋に戻る途中で今度は喉が渇いていたことを思い出す。

「<飲用水>」

指先から出てくる水を直接飲んだ。

「ぷはぁ~」

ん?何かやけにワイン臭い。くんくん嗅いでみると、どうやら服から臭ってきていた。

「<清浄>」

うん、これで綺麗になった。

部屋のドアの前に立つ。

ドアを恐る恐る開けて中に入ると、うぅ、やっぱり夢じゃなかった。

裸の上に毛布を掛けただけのナタリーさんがベッドで寝息を立てている。

やっぱりこれって、そういう事しちゃったのかな?

うわ~、全く覚えてないよ。どうしよう。


今更ナタリーさんと同じベッドに入る気にもならず、もう一つのベッドに寝転んで、どうしようどうしようと、ぐるぐる考えていた。

よし、ステータス確認して落ち着こう。

僕は現実逃避することにした。


─────


ノア  13歳 男

種族: 人間

レベル: 6

適職: なし(忍者)


能力値:

  筋力: 33

  耐久: 32

  俊敏: 40

  器用: 38

  精神: 43

  魔力: 31


ユニークスキル:

  <未完の大器>


魂の器: 12

下位スキル:

  <荷運び> <清浄> <ダウジング> <飲用水>


─────


「あれ?」

お昼に確認したときはレベル3だったよね。

半日で一気に3レベルも上がったのか。

何でだ?


そういえば、街を歩いててスリの子供たちを避けて歩いてたのが”忍者”にふさわしい行動だったかも?

後は、初めてスリにあったり、初めてお酒を飲んだり、初めて女の人と…

と、とにかく、初めて尽くしだったよな。

そりゃ3レベルも上がるか。


能力値を見ると、これってレベル20時点の平均くらいじゃないか?

レベル20って、一般人だと30歳以上で到達する、ベテランの領域だ。冒険者なら20代で到達する人も多いらしいけど。

能力値だけならそれらのベテランに肩を並べているってことだ。

全然実感はないけど。


まぁ、それよりもだ。

魂の器が12になってる。

そう、上位スキルが取得できるってことさ!


うわ~、どうしよう、何取ろうかなぁ。

”取得可能スキル一覧”に表示を切り替えて、上位スキルを吟味する。

そのスキルを知りたいと思うと、説明が表示される。

(スキル名の後の括弧付き数字は、消費する魂の器の数)


<暗器術>(11)

 ⇒ 武器を隠し持ち、相手の不意を突いて一撃で仕留める技術を習得する。


<遁術>(11)

 ⇒ 目くらましや足止めに特化した魔術体系を習得する。


<偵察>(13)

 ⇒ 相手に気づかれることなく監視、観察するための各種技術を習得する。


<諜報>(15)

 ⇒ 人の集団に紛れ込んで情報収集や破壊工作などを行うための各種技術を習得する。


さすが伝説の”忍者”だけあって、強力な上位スキルがそろっている。


<暗器術>は直接的な戦闘スキルだろうから、冒険者としてやってくつもりなら、あった方がいい。

<遁術>は魔術が使えるようになるみたいだし、これも憧れのスキルだな。

今すぐに取得できるのはこの二つ。


でも、もう少し待てば残り二つも選べる。


う~ん、う~ん、悩むなぁ。

<偵察>と<諜報>についてもっと調べられないかなぁ。


あーだこーだと考えているうちに、いつの間にか眠っていた。

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