第17話

翌朝。

目が覚めたらベッドに一人で寝てた。

「ん」

ナタリーさんは?

起き上がって部屋を見まわしたけど見当たらない。トイレかな?

僕もトイレに行こう。


共同トイレにもいなかったな。どこに行ったんだろう?

自分自身に<清浄>をかけてさっぱりすると、どうするか考える。

とりあえず鍵を持ってフロントに行ってみた。


「あぁ、ナタリーさんなら朝早くにフル装備で出かけたわよ」

「え、そうだったんですか?」

まぁ、確かに昨日、色々試してみるって言ってたな。

こんなに朝早いとは思わなかったけど。

ちょっと驚いたけど、予定通り、今日は王都をいろいろと見て回って、レベルを上げようと思う。

女将さんにアドバイスを求めてみた。

「そうねぇ、お金と時間に余裕があるなら、王都ツアーがおすすめよ」

色んなコースがあって、一番安いので銀貨2枚から。王都を一周する二泊三日宿泊込み銀貨20枚のコースもあるらしい。

ってか、一周するのに3日もかかるのかぁ。どんだけ広いんだ。


教わった場所に行くと、ギルドの受付みたいなカウンターが並んでいた。

「いらっしゃいませ。ツアーをご希望ですか?」

受付嬢さんが応対してくれる。

コースの説明をしてもらって、お試しで「新市街北東部でお買い物コース」を選んでみた。これが一番安い銀貨2枚のコースだった。

「30分後に出発となります。時間までにあちらの馬車乗り場にお越しください」

という事なので、その辺で軽く朝飯を買って食べながら待つことにした。


馬車に乗ると僕以外に6人のお客さんがいて、年配の女性が多かった。

お菓子屋さん、お茶の専門店、茶器の専門店、宝飾店、仕立て屋さん、高級食材の専門店、輸入雑貨店、などなど。

一か所当たり15分程度でさっさと見ては買って、見ては買って、という慌ただしさだった。

今まで一度も見たことも無いような商品がいっぱいで、目移りする上に、時間が無いから目が回るような忙しさだった。

それでも、家族用のお土産として色々と珍しいものを買えたから良かった。

僕以外のお客さんは両手にいっぱいの袋を引っ提げて帰って行ったよ。


ちょうどツアーが終わったのがお昼時だったので、どこかに入ろうと思ったんだけど、一体どこに行ったものやら。

その時、何やら威勢のいい声が響いてきた。

「王都に来たならこいつを食わなきゃお話にならないよぉ~、さぁ、らっしゃい!」

声の方を見ると、建物に大きな窓?が開いてて、その中から通りの方を向いて声を張り上げている男が見えた。

でも行列もできてないし、大丈夫?って思った。


「おっ、そこの兄ちゃん!田舎から出てきたばっかりって顔してるね。絶対見たことない料理だよ。王都の土産話にいっちょどうだい?」

目が合った瞬間に話しかけられてしまった。

え~、僕そんな顔してる?

まぁ、そこまで言われると、ちょっと見てみたい。

「それじゃ、1つください」

「あいよっ!今から焼くから、そこで見ててくれな」


近づいてみれば、男の前にあるのはテーブルではなくて、熱された鉄板だったようだ。

鉄製のへらを両手に持って、カチャカチャ打ち鳴らしながら、葉野菜の千切りやら何やら、いろんなものをジュージューと鉄板の上で炒めている。

小麦粉を水で溶いたらしきドロッとしたものを鉄板の上で丸く広げて焼いたり、炒めた野菜をその上に乗っけたり。

作ってるのを見てるだけでも面白い。


「ほんじゃいくぜぇ~、よっと!」

男が両手のへらでその積み上げた具材を丸ごとひょいっと持ち上げて、一瞬でひっくり返してしまった。

ジュー。

「「おぉ~!」」

いつの間にか僕の他にも見物人が集まっていて、歓声が上がった。

パチパチパチ。思わず拍手をしてしまった。

「ありがとう、ありがとう。良かったら他のお客さんも食べてってな」


卵を鉄板の上でパカッと割って、へらで黄身をちょっとだけ崩す。

そんな出来損ないの目玉焼きの上に、さっきひっくり返したものが、両手のへらで持ち上げられてドンッ、と乗せられた。

カチャカチャとへらが踊るように動いたかと思うと、またひっくり返された。

「「おお~!」」

見物人が増えていて、さっきより大きな歓声が上がった。


男が何やら茶色い液体を刷毛のようなもので塗りたくった。

ジュ~ジュ~!

鉄板に垂れ落ちたその茶色い液体が蒸発して、何とも言えない美味しそうな匂いがあたりに立ち込めた。

グゥ~っと僕のお腹が鳴ると、近くでも誰かの腹が鳴った。

は、早く食べてみたい!

「俺にも一つくれ!」「私も1つくださいな」

途端に見物していた客たちも購入を決めたようだ。

「毎度あり!じゃんじゃん焼いていくから、ちょっと待っててな」

男は、鉄板の空いてる部分で、次々に焼き始めている。


茶色い液体を塗った上に、今度は白い液体を細く線を描くように掛けて、緑の粉と茶色い木くずのようなものをまぶして完成らしい。

「はいよっ!”王都焼き”一丁あがり!熱いから気を付けて食べてくれ」

木の皿にのせられて、木のスプーンと一緒に渡された、”王都焼き”とやらは湯気が上がっていて、とても良い匂いがしている。


ゴクリと生唾を飲み込みつつ、スプーンですくって口に運ぶ。

「あちちっ、ほふっ、ほふぅ」

アツアツで口の中が火傷しそうだが、これは美味い!

特にこの茶色い液体が良い味出してる。

全部の具材が混然一体となって、う~ん!

とにかく、これは美味い。

「ほふっ、んく。美味しい!」

様子をうかがっていた周囲の人たちも、次々と注文していた。


「ごちそうさま」

皿とスプーンを”返却口”と書いてある場所に持っていくと、男が声をかけてきた。

「おう、兄ちゃん、ありがとうな。サービスするからまた来てくれよ」

「うん」

手を振ってその場を後にした。

振り返ると、王都焼きを買い求める行列ができていた。

僕が来たときは誰もいなかったのに、すごいもんだ。

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