第16話

ナタリーさんに連行されて、宿に着いたらすぐに部屋に連れ込まれた。


「さ、説明して」

部屋に入るなりナタリーさんは僕の肩を掴んで真剣な顔で見つめてきた。

これは、本当に僕のことを心配してたんだな。

「わ、分かりました。えっとですね…」

僕は小さなおじさんの事や、初めてのドレインの事、レベルドレインは僕にとってはデメリットが少ないこと、レベルがとても上がりやすいこと、などを話した。

”転職の玉”の事はややこしくなりそうなので、とりあえず隠しておくことにした。


「はぁ~、そんな秘密があったんだ。納得だわ」

ナタリーさんは椅子に腰かけてぐったりとしている。

「それなら、ノア君はしばらく王都であの依頼を受けて稼ぐつもり?」

「はい、そのつもりです」

「レベルが上がりやすいって言ってたけど、どうやってるの?」

興味津々な顔でナタリーさんが詰め寄って来た。

「えっとぉ、なるべくやったことのない新しい事をやってみると上がりやすい感じです。初めてのお店に入ったり、食べたことのない物を食べたりとか」

「…そんな事でいいの?」

急にジトっとした目になる。

「はい。僕の場合は、そうですね」

「何それ!うらやましい~」

それからは、レベル10以上になると如何にレベルを上げ難いか、ナタリーさんの愚痴を聞かされる羽目になった。


「でも、そっか。私の場合だと、わざと遠いところから狙ってみるとか、逆に接近してナイフで仕留めてみるとか、そういう挑戦をすればいいってことか」

僕と話すことでナタリーさんの中でも新しい気づきがあったようだ。

「早速明日にでも試してみたいな。あ、ごめんねノア君、王都の案内できなくなっちゃった」

「いえ、良いですよ。今までも散々お世話になってますし、一人で見回ってみます」

「そう?でも、くれぐれも気を付けるんだよ。知らない人についてっちゃ駄目だからね?」

「そんな、ちっちゃい子じゃあるまいし、大丈夫ですよさすがに」


その後、夕飯までまだ時間があるので、宿屋周辺をナタリーさんに案内してもらった。

おかげで、お土産を買うのによさそうな雑貨屋も見つかった。


夕飯は宿の向かいの食堂で食べた。

「ん、美味しい!」

さすがは王都だけあって、各地から色んな食材が集まるのだろう。見たことのない料理がどんどん出てくる。

貴重な香辛料も、ここではたっぷり使われていて、とっても良い香りがする。

「ほら、これも美味しいよ、食べてみて」

ナタリーさんが勧めてくる料理はどれも美味しい。

これはカットした色とりどりな野菜の上に白いソースがかかっていて、その上にとろけたチーズが乗っている料理。

スプーンですくって口に入れると、チーズの旨味と野菜の旨味が、白いソースで混然一体となって広がっていく。

「これも美味しいです」

「ふふっ、いっぱい食べな~」

ナタリーさんはワイングラスを傾けながら僕の食べる様子を楽しそうに見ている。

「ナタリーさんは食べないんですか?」

「ん?私は食べるより飲みたい気分だから、後でいいわ」

「そうなんですね。では遠慮なく」

僕はお酒飲んだことないから、その気分は分からないなぁ。あ~、美味しい!


僕はたらふく食べてお腹がポッコリ。

「あ~、もう食べられない」

ナタリーさんは僕の食べ残しをちょいちょい摘んだ程度で満足したみたいだった。

ちなみに支払いは割り勘。僕の方がいっぱい食べたのに良いの?と思ったけど、お酒の分でトントンだ、と言われたのでそういう事にしておいた。

「それじゃ戻ろっか?」

「はい~」


食堂から出て向かいの宿に戻ろうと通りを横断していると、横合いからドンッ、とぶつかられた。

「おっとと」

ふらついて、踏みとどまると、ぶつかって来た人物が因縁をつけてきた。

「痛ってぇな、どこ見て歩いてんだ小僧!」

おかしいな、この人の前は余裕をもって通り過ぎたはずなのに。

僕の目測が違ってたんだろうか。とりあえず謝っておくか。

「えっと、すみません」

「おぉ!それだけか、謝って済むと思ってんのか?あぁ!」

その人は凄みながら僕の胸倉を掴んできた。

えぇっ!?ちょっとぶつかっただけなのに、何なのこの人?


すると、横合いから手が伸びてきて、その男の腕を掴んだ。途端に男が悲鳴を上げた。

「あがぁぁっ!」

「そっちからぶつかっておいて、何言ってんの?」

ナタリーさんだった。

「人にぶつかったらどうするんだったっけ?」

男は苦悶の表情で膝をついていた。

「うぐぅぅ、す、すみませんっしたぁ!」

「私じゃなく、この子に言って」

その言葉に男は僕の方に顔を向けて、「すみませんでしたぁ!」と大声を出した。

「どうする、ノア君」

呆気に取られていた僕は、ナタリーさんに問いかけられて、はっと我に返った。

「え、ああ、僕は大丈夫です」

「そう?良かったわね、この程度で済んで」

そう言って掴んでいた手を離すと、男は転げるように走って逃げていった。


ナタリーさんがくるっと僕の方に振り返った。

「ダメよ、ノア君。王都では気を抜いてるとああいう輩にいいように騙されてお金取られちゃうんだから」

「あー、やっぱりあの人、わざとぶつかって来たんですね」

「なんだ、気が付いてたんだ。なら簡単に謝っちゃ駄目だよ~。ああいう風につけ上がってくるから」

ぽんぽんと軽く頭を叩かれた。

やっぱり大都会っておっかない所なんだな。

これからは気を付けよう。


この宿には水浴び場がある。のだが。

「ノア君、お願ぁい」

「はいはい。<清浄>」

「ふぁぁ、すっきり~。ありがと」

「むぎゅ」

思いっきりハグされた。

かと思うと、そのままベッドに引きずり込まれてしまった。

「うわぁぁ」

「さぁ、寝よ寝よ」

「ちょ、ちょっと、今日はベッドが二つあるんだから、別々に寝ましょうよ」

「だぁめ~」

もがいてみたけどやっぱり力の差は歴然で、今日も僕は抱き枕になってしまった。


酒が入っていたからか、ナタリーさんはすぐに寝息を立て始めた。

今なら抜け出せるかな。

「…ロニー、ごめんね…」

ナタリーさんがつぶやいて、僕をぎゅっと抱きしめた。

「ナタリーさん?」

声をかけてみたけど、やっぱり寝てるみたい。寝言だったのか。


抜け出せそうになかったので、僕は観念してそのままナタリーさんに身を預けて目をつむった。

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