第14話
王都行き7日目。
寝不足だけど、気分は晴れやかだ。
今日も忍者らしい行動でレベルを上げるぞ~!
と思ってたけど、ヨアキムさんに気に入られてしまって、色々とおしゃべりしてたから捗らなかった。
ヨアキムさんは王都に本店を持つ”マグヌソン商会”の商人で、王国の東部を統括する、結構なお偉いさんらしい。
定期的に王都の本店と東部のいくつかの支店を行き来しているとのこと。
「ノア君ならいつでも歓迎だよ。王都に来たいときは声掛けて」
と、今後も王都に来るときは同行させてもらえるっぽい。
この日は宿場町に到着したけど、宿が足りないので僕らは野営です。
日課のステータス確認。今日はレベル上がらず。残念。
王都行き8日目。
昨晩は開き直ってナタリーさんの柔らかさを遠慮なく堪能することにしたら、ぐっすり熟睡できた。…朝方にこっそりと自分に<清浄>を使う羽目になったけど。
宿場町を出て間もなく、遠くに王都らしき建物群がちっちゃく見えていた。
まだまだ遠そうだ。
そう思ってたけど、街道を進んでたらちらほらと建物が増えてきて、いつの間にか街並みに突入していた。
「ここってもう王都なんですか?」
横を歩くナタリーさんに聞いてみた。
「まだだよ。もっと先に外壁があって、その内側が王都。ここはその外側、街道沿いにどんどん人が住み着いちゃって勝手にできた町で、”王都北東街”って呼ばれてる」
「へぇ~」
こんなに建物が建ち並んでるのに、まだ王都じゃないなんて。
どれだけ大きいのか、想像もつかないや。
結局、外壁の門が見えてきたのは昼になってからだった。
王都北東街だけでもこんなに広いなんて。どうなってるんだ?
ようやく見えてきた外壁も、左右にどこまでも広がっているかのように見える。それくらい大きい。
大きな門が見えてきた。
今は開け放たれていて、ひっきりなしに馬車や人が行き来している。特に検問などはやってないようだ。
「うわ~、すごい」
外壁を見上げると圧倒される高さだ。門の横幅も広い。馬車が余裕で3台は横に並べるほどだ。
「ノア君、そんなにキョロキョロしてると田舎者だと思われるよ」
ナタリーさんにクスクス笑われてしまった。
言われて、しばらくは我慢して前を見てたけど、ダメだ!
やっぱり周囲をキョロキョロ見てしまう。
外壁の内側は、建物に統一感があり整然と並んでいる感じがする。これを見ると、さっきまでの王都北東街は、雑多な建物が好き勝手に並んでてごちゃごちゃしてたんだなってことがよく分かる。
「今歩いてるここは“新市街”って呼ばれてるよ。お店もいっぱいあるし、外からくる人もいっぱいいて、一番賑わっているところだね」
ナタリーさんの解説によると、王都は中心に王城があって、それを囲む城壁と、”第1外壁”、”第2外壁”、”第3外壁”の合計4つの壁で同心円状に囲まれているのだそうだ。
今通って来たのが”第3外壁”で、これと”第2外壁”の間が”新市街”だ。
その内側の”第2外壁”と”第1外壁”の間は”旧市街”と呼ばれ、平民の中でも裕福な家や、古くからこの土地に住んでる家が多いため、落ち着いた雰囲気の街になっているそうだ。
さらにその内側、”第1外壁”と城壁の間が”貴族街”となっていて、平民は基本的には立ち入りできないそうだ。
商隊は門を入って間もなくの所にある大きな建物に向かった。
建物にはでっかく”マグヌソン商会”と書いてあった。
その敷地内に倉庫があって、馬車はそっちに向かっていったが、護衛の仕事はここまでのようだ。
「それじゃあ護衛の皆さん、ご苦労様でした」
とヨアキムさんが挨拶して任務完了だ。
「護衛隊の各代表は俺と一緒に冒険者ギルドに来てくれ」
ハンスさんが呼びかけて、護衛に参加した冒険者パーティーのリーダーが集まっているが、他の人たちは勝手にバラバラとどこかに行ってしまった。
「え?」
これで終わり?
流れがよく分からず戸惑っていると、ナタリーさんが肩を叩いてきた。
「ノア君はこれからどうするの?」
「えっと、もう自由にしていいんですか?」
「もちろん。何か予定あるの?」
「そうですね、ギルドで依頼を見るくらいです」
うん。それしか目的無いな。
「宿は決まってる?」
「あ!それも探さなきゃ」
そうだった、今日は野宿じゃないんだった。
「なんだか、危なっかしいなぁ。しょうがないからお姉さんが面倒見てあげよう」
ぽんぽんと頭を叩かれた。
まるっきり子ども扱いされているけど、確かに僕一人だと危ないだろうなって気はする。簡単に騙されて身ぐるみ剝がされる未来が見えるようだ。
「えっと、よろしくお願いします」
「うむ。任せたまえ」
ナタリーさんがポヨンと自分の胸を叩いた。
「ノア君、私の宿と同じでいいよね。ヨアキムさんからボーナスもらってたし」
「あ、はい。たぶん大丈夫です」
そっか。ナタリーさんくらいの冒険者になると結構いい宿に泊まるんだろうな。ボーナスもらってて良かった。いざとなったらギルド預金にもお金はあるし。
「じゃあ、まずは宿を取って、それからギルドに行こうか」
「はい」
はぐれないようにと、ナタリーさんが僕の腕をしっかり抱いてるから、柔らかい感触に意識が奪われて、街並みを見ても頭に入ってこない。
ナタリーさんについて歩いて、一軒の宿屋に到着した。
”フィリッパのまどろみ亭”と看板に書いてある。
カラカラン、とドアベルが鳴り響く。
「いらっしゃいませ。あら、ナタリーさん」
「こんにちは、またお世話になります」
どうやらナタリーさんはここの常連のようだ。
女将さんが僕を見た。
「あら、今日は彼氏連れ?」
「そうよ、可愛いでしょ」
むぎゅっと抱き着かれた。
「あらあら、うらやましい。二人部屋でいい?」
「うん、お願い」
「え、ちょっ、むぐっ」
口を挟もうとしたら、顔が胸で塞がれた。
結局、鍵も用意されてしまい、なし崩しでナタリーさんと同室になってしまった。
「この方が安上がりだし、いいでしょ?」
そういう問題かなぁ?
荷物を部屋に置いて、冒険者ギルドに向かった。
もうすっかりナタリーさんに腕を組まれるのに慣れてしまった。っていうか、はぐれたら一瞬で迷子になること間違いなしだから、慣れるしかない。
“冒険者ギルド王都北東支部”と看板に書かれた3階建ての大きな建物の前にやって来た。
この建物、3か所も入り口があって、左が素材売却、真ん中が依頼掲示板、右がそれ以外の用事、と分かれてるんだそうだ。
「うわ~、広い」
地元のギルドとは比べ物にならないな。
依頼掲示板も壁に掛けてあるんじゃなくて、専用の大きな掲示板が部屋の真ん中に建てられている。
なお、1階は高ランク向けで、混雑しないようになってるらしい。
「ノア君向けの低ランク依頼は3階かな」
「あの、僕が探してるのはレベル買取の依頼なんですけど、それも3階ですかね?」
何気なく聞いてみたら、ナタリーさんが血相を変えた。
「はぁっ!ちょっとノア君、借金でもあるの?お姉さんに相談してみなさい」
ガバッとナタリーさんが僕の両肩を掴んでガクガクと揺さぶった。
「ちょ、ちょっ、落ち着いて!」
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