第11話

王都行き3日目。

寝不足で目をしょぼしょぼさせながら歩いていた。

「ノア君、眠れなかったんだ。今夜はお姉さんが添い寝してあげよっか?」

ナタリーさんが僕の顔を覗き込んでニヤニヤ笑ってる。

くっ、安眠のためにはやむを得ないか。

「お、お願いします」

「あらっ、ふふっ。よろしい、任せなさぁい」

今日もナタリーさんは元気に、獲物を狩ってきてくれた。

昨日は夕飯も美味しくなかったからなぁ。楽しみだ。


僕個人のテントを張って、獲物を解体し、ちゃんと調理して美味しい夕食を頂いた。

ちゃっかりとハンスさんが食べに来た。


そして、また明け方に息苦しくて目が覚めるコースだった。

確かに安眠はできたけれども。

うむぅ、悩ましい。


王都行き4日目。

「おぉ~!凄い、大きい!」

ちょっと小高い丘を越えると、眼前に広大な街並みが広がっていた。

街並みの向こうには、その街よりも大きな水面が、キラキラと光り輝いている。

「あれが水の都スンドだ。湖で獲れる魚介類が特産品だから、今夜の飯は期待してていいぞ」

僕の横を歩くハンスさんが教えてくれた。

今日は、この景色を見せてくれるということで、商隊の先頭を護衛するハンスさんの隣を歩いてきた。

確かに、これは一見の価値ありだ。

「ありがとうございます、ハンスさん」

「ははっ、冒険者やってるとな、こういう景色こそが一番のご褒美になってくるもんだ。覚えておけ」

おおっ、ハンスさんカッコイイ!


この街は、この周辺一帯を治める領主の居城がある、いわゆる領都だけあって、とっても栄えている。

水産資源が獲れるだけでなく、あの湖の向こうにある外国と船を使って交易してるというのが大きいらしい。

ヨアキムさんが御者台の上から教えてくれた。さすが商人。


今日は大きな街だから、全員宿に泊まれるそうだ。

実は、宿に泊まるのは初めてなんだ。

どんな部屋だろうとドキドキしてたけど、大部屋で雑魚寝だってさ。しょぼーん。


その代わり、食事はめちゃくちゃ美味しかった。

魚なんて干物しか食べたことなかったから、衝撃だった。こんなに美味しいものだったなんて。

特にスープが旨い!

ほっぺたが落ちる、ってこういうことか。


夕飯後に聞いたけど、明日はこの街で丸1日自由にして良いんだって。ヨアキムさんがこの街で仕事をするから、だそうだ。

よし、街を見て歩こう。


王都行き5日目。

自由時間だぁ!

さてどこに行こうかな、とワクワクしてたら、ハンスさんとヨアキムさんが僕の方に歩いてきた。

「ノア君、ちょっといいかい」

嫌な予感。


はい、予感的中。しくしく。

荷運びの仕事を頼まれちゃったよ。まぁ、特別報酬で銀貨20枚もらえるらしいから良いんだけどさ。

「ここ、道路が狭くて馬車が入れないんだ。人を雇うと高くつくし、ノア君のおかげで助かったよ」

ってことらしい。

つまり、僕に銀貨20枚払っても、他で運ぶ人を雇うよりは安いってことなのか。ふ~ん。


この仕事は午前中で終わった。

「いやぁ、一日かかると思ってたのに、あっという間だったね。本当に助かったよ。お礼にお昼をご馳走しよう」

とヨアキムさんが、なんだかとても豪華な食堂、レストランっていうのか、に連れて行ってくれた。

ここの料理は格別に美味しかった。

ピィチャという、薄っぺらいパンの上に魚介類を散らして、高級なチーズをふんだんに使った料理は、もう、もうもう、言葉も出ないくらいに美味しかった。

マリョーネという生の魚を薄くスライスして酸っぱく味付けしたものが出てきたときには「生なの!」って驚いたけど、食べてみたらこれも美味しかった。

あぁ~、仕事手伝ってよかった。


お昼の後はようやく自由時間だ。

一人で街の中を見て回った。

まず、真っ先に湖を見に行った。こんなに広大な水面は初めて見た。まだ見たことはないけど、海って言うのもこんな感じなのかもしれないな。

それと、船。こんな大きな物が水に浮かんでるってのが信じられないよなぁ。

………。


「えっと~」

ここどこ?

船を眺めながら適当に歩いてたら、見事に迷った。

倉庫とかどれも同じに見えるし、路地も複雑だし、まいったな。

どこかお店とか、道を聞けそうな所は無いかな?

キョロキョロと見まわすと、脇道の先に看板が見えたような気がして、そっちに歩いてみた。


「魔法屋?」

看板にはそう書いてあった。何だろ、聞いたことないな。

ドアを開けてみると、ギィィ、と蝶番がきしむ音を立てた。覗き見た店内は薄暗い。

え~、何か怪しくない?引き返そ…「誰だい?」

うと思った途端に奥から声が響いてきた。

「あの~、道を尋ねたくて」

「はんっ、何も買わずに道を尋ねるつもりかい?」

えぇ~、じゃあいいですぅ。

と言いたいけど、他に道を聞けそうな所もないし。仕方ないか。

覚悟を決めて店内に足を踏み入れた。


「う~わぁ」

店内の棚には得体のしれない物ばかりが並んでいた。

何かの骨、爪、牙、といった素材類。使い道の予想がつかない、奇妙な形の魔道具らしき物。片手や片目の無い、不気味な人形たち。

やっぱり入らなきゃ良かった。

「おや、ずいぶんとレベルの低い子だね」

奥の椅子に座っていた老婆が僕を見てぼそりとつぶやいた。

このお婆さん、鑑定士か。

鑑定士は超有名な適職だ。絶対に食いっぱぐれない憧れの適職だね。

今のはおそらく、人のステータスを知ることのできる<人物鑑定>という上位スキルだろう。

他に<物品鑑定>も持ってるだろうから、この店内にある得体のしれない物も、何か価値のある物かもしれないな。


「んん?おやおや、レベル9で”頂の星”かい?こりゃお気の毒にねぇ。ふっひゃっひゃ」

この婆さん、人の事を勝手に鑑定した挙句に笑い出しやがった。なんて失礼な!

ムッとして睨みつけると、「ひっひっひ」と不気味に笑った。

「あぁ、笑って悪かったよ。そうさねぇ、そんなあんたにはこいつをくれてやろう」

婆さんは手元のハンドバッグに手を突っ込んで、そのバッグよりも大きな箱を取り出した。

あれは、もしかして魔法の鞄か?

魔法の鞄は見た目よりも中が広くなっている魔道具の一種だ。

高級なものになると、馬車を1台丸ごと入れられるらしい。


それよりあの箱だ。真っ黒でなんだか禍々しい雰囲気じゃないか?

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