第10話

テントを張り終わって、次は解体を習う事に。


「ノア君、解体するからこのお鍋に水汲んできてくれる?」

「あ、それなら僕が水出しますよ。<飲用水>」

ダバ~、と僕の指の先から大量の水が出て、すぐに鍋がいっぱいになった。

「えぇ!なんでそんなにいっぱい出せるの?」

「えっ?」

「私のスキルだとコップ一杯しか出ないよ」

「そ、そうなんですね。多分、僕のは下位スキルだからですよ」

<荷運び>スキルが驚かれるのと同じ原理だな、多分。

「へぇ~、下位スキルだからってバカにできないね」

ヨアキムさんと同じような事言ってるなぁ。


その後、ウサギと鳥の解体を習って、肉と、食べられる内臓を取り分けた。

ウサギの毛皮は売り物になるそうだ。

ナタリーさんが血で汚れた両手に<清浄>を使うと、さぁっと綺麗になった。

これも、狩人用上位スキルの付属スキルらしい。

「はぁ~、これで服とか体もきれいにできたらいいのになぁ」

「えっ?」

ナタリーさんのボヤキを聞いて思わず声を上げてしまった。

「ん?もしかして、ノア君!できるの!?」

ガシッ!とナタリーさんが僕の肩を掴んできた。

「まぁ、出来ます」

「後でお願い!」

「わ、分かりました」


どうやら、上位スキルに付属するスキルより、同名の下位スキルの方が性能が良くなるみたいだな。

僕は上位スキルについて全然調べていなかったので、今まで知らなかった。


かまどの作り方も教わって、火を起こす。

ナタリーさんの付属スキル<火種>で簡単に火が着いた。すごい便利。

僕も火種用の魔道具を買ってきてるけど、消耗品だからな。節約できて良かった。

野営でも簡単においしく作れる料理を習って、夕飯を準備する。

お肉は串に刺して焼き、内臓は野菜と一緒に煮てスープにする。

「「いただきま~す」」

早速、串肉にかぶりつく。

「う~ん、おいしい!」

じゅわっと口の中に広がる肉汁で、僕の表情筋が緩む。

「でしょでしょ~」

「ナタリーさんのおかげです。ありがとうございます」

ドヤ顔のナタリーさんにも自然と感謝の言葉が出てくるくらい、お肉は美味しかった。


「おいおい、お前らだけいいもん食ってるな」

ハンスさんが歩いてきて、僕らの食べてるのを見てうらやましそうな声を出す。

「あ、ハンス。そっちは何だったの?」

「いつも通りだ。干し肉と干し野菜のスープに堅焼きパンだな」

「やっぱり~」

ナタリーさんとハンスさんはそれで通じたようだ。

あんまり美味しくないんだろうなぁ。

「よかったらスープどうぞ」

「お、悪いな催促したみたいで」

「みたいじゃなくて、してたでしょ」

ナタリーさんの突っ込みに、三人で笑った。


食後、ハンスさんから僕は夜番をしなくていいと言われた。戦闘スキルが無いから、危険と判断されたようだ。


ナタリーさんの全身と衣服に<清浄>をかけたら、やたらと喜んでもらえた。「野営ばっかりだと体の臭いが気になるんだから」ってぼやいていた。

「それじゃ、お先です。おやすみなさい」

「うん。ゆっくり休むんだよ」

ナタリーさんに挨拶してテントに潜り込むと、いつもと違う環境になかなか寝付けそうにない。

いつもの日課でステータスを確認する。

当然、昨日とおんなじ表示だ。


僕は下位スキルしか取れないけど、意外と下位スキルもすごいんだってことが分かったな。

そうだ、今日もいろいろと学んだから、取得可能スキルが増えてるかも?

一覧を表示させてみた。

「あ」

<解体>、<野外調理>の二つが増えていた。


しっかりと学べば、それがちゃんと取得可能スキルに反映されるということが実証されたな。

勉強する意欲が湧くというもんだ。


そんなことをやってるうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。


なんだか息苦しくて目が覚めた。

「んぐっ?」

柔らかくて温かいモノで顔が塞がれていた。

慌てて首を動かそうとするが、何かで固定されていて動かせない。

手を動かそうとしても、何かが巻き付いていて動かせない。

一体何があった!?

「もがっ」

身をよじって何とか顔をずらすことに成功する。

「ぷはっ、はぁ」

ようやく普通に呼吸できた。

そして見えたのは…

「ナタリーさん?」

「すー、すー」

静かに寝息を立てる、ナタリーさんの寝顔だった。


どうやら、僕の頭はナタリーさんのお胸に抱き抱えられていて、僕の体は腕ごとナタリーさんの脚に絡めとられている、らしい。

なるほど、分かったぞ。

夜番を交代してテントに入って来たナタリーさんが、僕を抱き枕にして眠っているんだ。

謎は全部解けた!


うん。冷静な推理で現実逃避してみました。

だって、あちこち柔らかいし、良い匂いがしてて、いろいろとヤバいんだよぉ!

くっ、さすがは戦闘職の冒険者。僕ごときの力では、もがいても抜け出せそうにない。


ナタリーさんが目を覚ますまで、悶々として過ごす羽目になった。


「あはは~、ごめんねぇ」

ようやく僕を解放してくれたナタリーさんが、にへらっと笑いながら謝っている。

「そもそも、何で僕のテントで寝てるんですか」

「えぇ~、一緒に寝ようって言ってたでしょ?」

「いや、あれって冗談だったんじゃ」

「それがさぁ、実は女性用のテントがどこか分かんなくって、ノア君の所に潜り込んだんだよね」

その開き直ったような笑顔を見ると、もう何も言えない。

「はぁ~」


ってことで王都行き2日目。

商隊は昼前には宿場町に到着し、お昼休憩を取った後、そのまま街道を進んだ。


今日はナタリーさんが別の場所の配置だったようで、僕の近くにはいなかった。

そして、今日の護衛の人は寡黙な人であまり話せなかった。

黙々と歩いた。


そして、また野営だ。

自分のテントで一人で寝ようと思ってたんだけど、危険だからとハンスさんに禁止されてしまった。

なので、今回は自分のテントは使わずに、商隊で用意されたテントに泊まった。

「ぐぉ~、ぐぉ~」

うぅ、いびきがうるさい…

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