第8話

ヨロヨロしながら家にたどり着き、ラウラに驚かれた。

着替えもそこそこにベッドに転がりひと眠り。

お腹がぐぅ~と鳴って、目が覚めた。

夕飯がとても美味しかった。もりもり食べる僕を見て母さんが驚いていた。


ベッドでいつもの日課、ステータスを確認すると、レベルは9に上がっていた。


─────


ノア  13歳 男

種族: 人間

レベル: 9★

適職: なし


能力値:

  筋力: 19

  耐久: 19

  俊敏: 20

  器用: 19

  精神: 22

  魔力: 19


ユニークスキル:

  <未完の大器>


魂の器: 3

下位スキル:

  <荷運び> <清浄> <ダウジング>


─────


「やっぱり、今日のあの訓練が効いたみたいだ」

うわ、耐久と精神が4も上がってるじゃないか!

きつかったもんなぁ。


それにしても、レベルがまた上限に達してしまった。

早いところ王都に行ってレベルを下げたいな。


次の日。

僕が王都に行く前にと、駆け込みでまとめて依頼が入って来たので、それを全部こなす。

さすがに午後までかかった。

完了報告にギルドへ行くと、受付嬢のドリスさんに声をかけられた。

「あ、ノア君、訓練所でグスタフさんが待ってるよ」

「あっ」

依頼が多くて忘れてた。

うぐぅ、行かなきゃダメ、だよなぁ。


バキッ!

「うぐっ」

「そうじゃない。手元だけじゃなく相手の全体を見ろ。まっすぐ受けるな、斜めに流せ」

「はいっ!」

木剣を受け止めたら、腹にキックされて転がる。

体当たりを受け止めたら、横に転がされる。

何度も殴られ、蹴られ、転がされた。


「よし、ここまで。とりあえず防具で受けて、流すところまでは何とか身についたな。いいか、絶対に致命傷を受けるな。手や足を犠牲にしてでもそれだけは防げ。練習したければいつでも声をかけてこい」

「あ、ありがとうございました」

グスタフ教官は一つ頷くと立ち去って行った。


きつかったけど、この訓練は受けておいてよかったと思う。

多分、今までの僕だったら、魔物や賊に襲われたら一方的に殺されてただろう。

でも、訓練のおかげで、少しでも足掻いて命を拾える可能性が出てきた。

そうだ、防具を買い足しておこう。


でも今日もへとへとだから、まずは帰ろう。

この日はまっすぐ帰って、ゆっくり休んだ。


翌日。

ギルドに行くと、ドリスさんに呼ばれた。

「王都行の護衛依頼があるんだけど、そこにノア君を雑用係で加えてもらえることになったわ」

「本当ですか!ありがとうございます」

やったぁ!

明後日の出発とのこと。


いつもの雑用依頼をこなした後は、旅立ちの準備だ。

クリスタから貰った大きな鞄を背負い、買い物に出かける。

雑貨屋などを回って、野宿に必要なテントや防寒具、料理道具なんかも購入する。

「この鞄なら全然余裕だな」

その時、ふと雑貨屋の一画にある装身具コーナーが目に留まった。

ふむ、髪飾りか。

クリスタが髪飾りしてるところなんて見たことないけど、お礼の品としては良いんじゃないだろうか。

でも、どんなのが良いんだろ。

「贈り物かい?」

お店のおばちゃんが話しかけてきた。

「あ、はい。でもよくわかんなくて」


おばちゃんは話し上手で、根掘り葉掘り聞きだされてしまった。

「そうかいそうかい。革職人やってるクリスタちゃんにプレゼントねぇ。仕事の邪魔にならないように、となると、この辺りなんかどうだい?」

そうやって差し出されたのは、髪留めにシンプルな花の彫刻が施されたものだった。

うん。派手じゃないし、出っ張りも無くて仕事の邪魔にならなさそうだ。

「それでお願いします」

「毎度あり。箱はサービスしてあげるよ」

これでよし。

王都に行く前に渡さないとな。


店を出て通りを歩いていると、向こうから二人組の冒険者が歩いてきた。

あいつらだ。

「おやおや、”永遠の子供”がでっかい荷物抱えて、どこに行くのかなぁ?」

「どうせいつもの雑用依頼だろ。それしかできないもんな」

「「ぎゃはは!」」

まったく、何が可笑しいのかさっぱり理解できないよ。

僕の前を二人横並びで塞いでいる。

迂回しようと右に避けると、追いかけてきて立ちふさがった。

左に避けると、また追ってきて立ちふさがった。

周囲の通行人も邪魔くさそうに、二人組を睨んでいるんだが、こいつらは気が付いてないみたいだ。


「あー、君たちさ、通行の邪魔になってるよ」

僕は親切に教えてあげた。

「あぁん!うるせぇよ、なに生意気な口きいてんだ!」

手前の男が、いつものように僕の肩をどつこうとして、手を伸ばしてきた。

グスタフ教官の動きに比べれば、遅すぎるな。

それを、ひょいっと避ける。<荷運び>スキルのおかげで大きな荷物を担いでてもこのくらいは余裕だ。

「うぇっ!?」

男はふらついてそのまま前方へヨタヨタと数歩進んだ。

「お前!」

もう一人も掴みかかって来たので、その腕を横から払って斜め後ろに流してやった。

うん。グスタフ教官の教え通りにできたぞ。

「おわぁ!」

そいつはバランスを崩して、さっきの男に後ろからぶつかって行った。

「うげっ」

ドタバタ!

二人はもつれあってその場に転がった。


「通行の邪魔にならないようにしなよ。じゃあね」

僕が歩き出すと、何故か周りの通行人からパチパチと拍手が沸き起こった。

「いいぞ兄ちゃん!」「かっこよかったわよ!」

うわぁ、注目を集めてたみたいだ。恥ずかしい!

周囲に愛想笑いを振りまきながら、そそくさと立ち去った。


防具屋に立ち寄って、頭、腕、足の防具を追加購入した。

「ノア君、しばらくここを離れるんだって?」

「ええ。ちょっと王都まで」

「そうか、荷運びを頼めなくなるのは残念だよ。早く帰ってきてくれな」

「あはは…」


その日は旅に備えた買い物をして終わった。


翌日。

ギルドの雑用依頼は1件だけ。共同トイレの清掃だった。

「ノア、早く帰って来てくれよ」

と立ち合いに来た職員さんに懇願されてしまった。


ここの冒険者ギルドの雑用依頼はほとんど僕一人で処理してたもんなぁ。僕が不在で、大丈夫なんだろうか?


明日には出発だから、用事は今日中に全部済ませておかないとね。

とりあえずは、クリスタにプレゼントを渡しに行こう。

そろそろお昼だし、ちょうどいいだろう。


南の工房区へ向かう。

クリスタの働く工房へ行くと、ちょうどクリスタが外に出てきた。

「あれっ、ノアじゃん」

「やあ。お昼一緒にどう?」

「おっ、行こう行こう」

と言ってもこの辺りだと屋台しかない。

クリスタおすすめの屋台に行って、食べ物を持って広場に行って一緒に食べる。


「そっか、明日出発するのか」

「うん。早速クリスタのくれた鞄が活躍してるよ」

「へへっ、そりゃよかった」

自分が作ったものが役立つとやはり嬉しいんだろう。照れたように笑っている。

食べ終わったタイミングで、プレゼントを取り出す。

「これ、鞄のお礼に」

「え~、別に良いのに」

口ではそう言いつつ、ニマニマと笑みを浮かべるクリスタが、箱を開けた。

「えぇっ!髪留め!?」

喜んでくれるかなと思ってたけど、何故だかすごくビックリしてる。

「え、何?その反応」

「あー、いや、ちょっと意外っつーか、らしくないっつーか」

もにょもにょと何か言ってるが聞き取れない。

「えっと、ダメだったかな?」

職場で禁止とか?

「えっ!いやいや、全然そんなことないって、うん。えへへっ、可愛いじゃん、これ。ありがとうな」

照れたように笑ってお礼を言ってくるクリスタ。

「こっちこそ、鞄、ありがとう」

なんだかこっちも照れ臭いな。


工房に戻るクリスタを手を振って見送り、僕も出発の準備のため家に戻った。

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