王都に向かう
第7話
次の日も寝不足で怠かった。
それでも、昨日みたいなことがあるかもしれないから、念のため依頼掲示板を見に行く。
荷運びの依頼が2件あったので、さっさとこなして、お昼には今日の仕事は終了。
お昼を食べた後、また資料室を利用することにした。
今日は、レベルアップについて調べてみる。
・レベル10未満は、およそ1年に1つレベルが上がる。
・その際の能力値上昇は、基本は1ずつで、2上がることは珍しく、3上がることは非常に稀である。
・レベル10時点での能力値は、最低でも10、平均は12で、15以上あれば優秀である。
・子供に初めてのことをたくさん経験させた方が早くレベルがあがる、という意見もあるが、確証はない。ただ、幽閉されて育った子供が12歳になってもレベル8だったという事例があるため、関連はあると考えられる。
・レベル10以上では、適職にふさわしい行動が経験となり、新しいこと、難しいことに挑む方がレベルアップが早い。
・レベルアップにかかる時間は個人差が大きい。早い場合は、半年で次のレベルに上がったという報告もある一方で、3年かかってもレベルが上がらない者もいる。
・適職によって上がりやすい能力 (これを優先能力という)と、上がりにくい能力 (これを劣後能力という)が決まっている。
・レベルアップによって、優先能力値は2~4上昇する。劣後能力値は1~3上昇する。
・レベル20時点での能力値は、優先能力値で平均40程度、劣後能力値で平均30程度である。
「な、なるほど」
僕の場合、満遍なく能力値が2以上ずつ上がってるぞ。時々4上がってるし。
とんでもなく凄い事のような気がしてきた…
あと、レベルアップの早さもやっぱり異常だった。
う~ん。これってユニークスキル<未完の大器>の影響だろうなぁ。
今までレベルが9より上がらない元凶だと恨んでいたけど、見直してやってもいいかもしれないな。
ついでに、昨日調べられなかった淫魔と、英雄関連の遺跡についても調べてみた。
・淫魔は人間に姿を変えて隠れて暮らしていることが多く、発見は難しい。
・ただその性質上、花街に潜伏している可能性が高い。あなたの買ったその娼婦も、もしかすると…
・伝承で英雄たちが修行したとされる遺跡は、”狂戦士の闘技場”、”大賢者の書庫”、”聖女の礼拝堂”、”忍者屋敷”の4か所。
・この町から一番近いのは、国内にある”狂戦士の闘技場”で、残りは他国にある。
ってことで、そう簡単にレベル下げに利用できそうにないのが分かった。
やはり、王都に行って依頼を受けてみるしかないな。
資料室を出て、受付に向かう。
ドリスさんの受付窓口がちょうど空いてた。
「あの、ちょっと相談があるんですが」
「ノア君、どうしたの?」
「王都に行こうと思ってるんですが…」
王都のレベル買取依頼の話、自分が休んでいる間の雑用依頼の事、など気になっていることを話してみた。
「え、待って、もうレベル上がったの?」
「あ、はい」
ステータスプレートの表面を見せる。
「レベル8!?2つも上がったの?この数日で、噓でしょ…」
ドリスさんが愕然としてプレートの刻印を何度も見直していた。
「むぅ、確かにこんなにレベルアップが早いなら、レベル買取依頼はノア君にとって美味しい依頼になるわね。はぁ~、残念だけど引き留める理由が思いつかないわぁ」
がっくりとうなだれるドリスさんを見て、なんだか申し訳なくなってきた。
「分かったわ。雑用依頼についてはこちらで何とかします。ただ、出発前にまとめて依頼を受けてもらうことになると思うわ」
「ええ、それくらいは覚悟してます」
「うん、偉いわね。それと、王都に行く手段も、こちらで手はずを整えてあげる」
「えぇ!いいんですか?」
そこまでやってもらえるとは思ってなかった。
「もちろん。今までたくさん頑張って来たノア君にご褒美よ」
ドリスさんはニコッと笑った。
「あ、ありがとうございます!」
その後、今後のことを少し話し合って、僕は家路についた。
夕飯の時に両親に「王都に行きたい」という話をした。
驚かれたが、僕も一応は冒険者なのだからそういうこともあるだろう、と納得してくれた。
「いいなぁ、ラウラも行ってみたい!」
と駄々をこねるラウラをなだめるのが最も大変だった。
その晩のステータス確認では、レベルは8のままだった。
「う~ん、今日は初めての体験が少なかったからか?」
今日の資料室で調べた内容から考えると、それが原因っぽい。
一昨日は、レベルドレインされたり、富豪の奥様と話したり、今まで見たことのないような大金を手に入れたし、ギルドの預金口座も作った。
昨日は、初めて一人で食堂に入って食事したり、革鎧を買ったり、何よりクリスタからあの大きな鞄をプレゼントされた。
それに比べて、今日はいつものように依頼を受けて、資料室で調べものしてただけだ。
新鮮な体験が無かったと言える。
明日は初めてのことに挑戦してみようかな。
その翌日。
依頼をこなした僕は、初めてギルドの訓練場に足を踏み入れた。
カンッ!カンッ!
「やぁっ!」「はぁっ!」
木剣を打ち合う音や、掛け声が響いている。
「これが訓練所か」
キョロキョロと見まわしていると、向こうからでっかい人が歩いてきた。
「ノア君じゃないか。珍しいな」
「あ、支部長さん」
人は良いけど、顔の怖い支部長さんだった。
「どうしたんだ?」
「いえ、ちょっと見学してみようかと」
軽い気持ちで覗きに来ただけなんです、ごめんなさい。と思わず謝ってしまいたくなる迫力だ。
「そうか。そういえば、ノア君は王都に行くのだったな。ふむ。護身術程度は身に着けておくべきだろう。おい、グスタフ」
支部長さんが何か勝手に話を進め始めたぞ。
壁際にいた白髪交じりの男性がこっちに来た。
「なんだ、ヘルマン」
「こちらのノア君に護身術を教えてやってくれないか」
えっ、何?
「ふむ。ひょろっこいな。まずは体づくりからだろ」
「いや、近々王都まで行く予定でな…」
僕が呆気に取られている間に話がどんどん進んでいく。
そして、訓練用の防具を身につけさせられた。
「まずは度胸をつけろ。襲われても目をつぶらずしっかりと相手を見続けるのが基本だ。行くぞ。ソイヤッ!」
ブンッ!ガッ!
「痛っ!」
いきなり木剣で殴られた。防具の上からでも衝撃が伝わって痛い!
「こら!目をつむるな。ちゃんとこっちを見てろ。ほれ!」
ガッ!ガツン!ドスッ!
「ひぃっ!」
一方的に殴られまくった。
「ぜぇ、ぜぇ」
地面に座り込んで荒い息を吐く僕を、グスタフ教官が見下ろしている。
「よし、今日はここまでにしよう。ちゃんと目をつむらずに相手を見ている。良いぞ。明日は攻撃を受けたり避けたりする練習だ。いつでもいいから声をかけてくれ」
それだけ言うとさっさとどこかに行ってしまった。
お、鬼だ。
しばらく休んでから、よろよろと家に帰った。
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