第6話

革鎧を家に保管してから、また出かけた。


冒険者ギルドに行って、久々に資料室を利用する。

冒険者になりたての頃に、下位スキルや、薬草について調べるのに使っていたけど、最近は全然使ってなかった。


「すいません、あの、レベルのドレインについて調べたくて」

資料室の職員に要望を伝えると、資料を紹介してもらえる。

「はい、これね。読み終わったらそこのカウンターに戻しておいて」

「ありがとうございます」

閲覧台の椅子に座って読み始めた。


ドレインでレベルを下げる方法を調べた結果。


・淫魔系の魔物は、性的な快楽と引き換えにドレインを行う。


・高位の幽霊系の魔物が、”ドレインタッチ”と言う触れるだけでレベルをドレインする攻撃を使う。


・高難度ダンジョンには、宝箱や通路の罠に、レベルをドレインするものが存在する。


・王都近くにある”愚者の迷宮”には、レベルを捧げることで財宝を与えてくれる彫像が存在する。現在は王家の管理下にあり、王都の冒険者ギルドでレベル買取の依頼が定期的に発注されている。


・伝承では、救世の英雄たちが修行をしたとされる遺跡に、レベルと引き換えに何らかの特別な能力を授かる泉があったとされている。しかし、その泉は未だ発見されておらず、消滅したものと考えられている。


得られた情報はこんな程度だった。

「王都か」

一番確実なのが、この”王都でレベル買取の依頼が出ている”というヤツだろうな。

資料も去年のものでまだ新しいから、今もやってるはず。


次点で、淫魔と、英雄たちの遺跡ってところだけど。これらについてはまた今度調べてみよう。

他の二つは危険すぎて僕には無理だね。


「ふぅ」

ちょっと疲れたな。資料を戻して帰ることにした。


「ただいま~」

「お、帰って来た。お帰り、ノア」

「お帰り~お兄ちゃん」

家の中から、ラウラと、何故かクリスタがやって来た。

いつもの作業着じゃなくて、普段着姿だ。こいつは男物を普段着にしてるから、相変わらず女っぽさは無いけどな。…時々僕の服を「気に入った」とか言って強奪するのはマジで止めてほしい。

「クリスタ、来てたのか」

「昨日来るって言ってただろ」

そうだった。

「鞄、出来たのか?」

「おう。こっちこっち」

「お兄ちゃん、すごいよ~」

「ちょ、ちょっと」

二人が僕の腕をつかんでぐいぐい引っ張っていく。

「ジャーン!」「じゃじゃーん!」

居間のテーブルの上に何か巨大な物が鎮座していた。

「なんじゃこりゃ~!」

「アハハ!」「やっぱり~」

二人は笑ってるが、僕は開いた口が塞がらなかった。


「え?これが鞄なの?デカすぎない?」

それは、背負子のような頑丈な基礎の上に、横幅と奥行きが1メートル、高さが1.5メートルくらいの巨大な袋がくっついたような形をしていた。

ラウラくらいなら4人はすっぽり入りそう。

「ノアのスキルなら、これくらい余裕だろ」

「え、もしかして、これ僕用なの?」

「当然。ノア以外に誰が使えるのさ、こんなの」

そういう事か。

「初めて作るのはノアの鞄って決めてたんだ」

ニカッと笑いながら、クリスタはそんなことを言った。

僕は不覚にも目頭が熱くなって、ごまかすために鞄のあちこちを熱心に観察するふりをしていた。


「こっちは準備いいぞ、ノア」

「お兄ちゃ~ん、早く~」

強度試験をやろう、とクリスタが言い出して、二人が鞄の中に嬉々として入っていったのだ。

二人は鞄の中にすっぽり入って準備完了だ。

俺はしゃがんで鞄の肩ひもに腕を通すと、スキルを使った。

「ほっ」

ひょいっと簡単に持ち上がった。

「うわ~!お兄ちゃんすごいね!」

「いやー、本当に簡単に背負っちゃうんだね」


この状態で歩き回ったり、ジャンプしたりしてみる。

「すごいすご~い!」「アハハ!変な感じ」

<荷運び>のスキルは、重量軽減に加えて荷崩れ防止の効果もあるので、中の二人にはほとんど衝撃が伝わらないはずだ。

鞄の方も、変な音がしたり、角が当たって痛い、なんてこともない。

良いんじゃないか、これ。


「うん、強度も問題ないね。じゃあこれで、この鞄はノアのものだ」

クリスタがぽんぽんと鞄を叩きながら俺の方を見る。

「ありがとう、クリスタ。いくら払えばいい?」

「いいよ~。これはプレゼントなんだから」

「ええっ!いやいや、こんな立派なもの、材料費だけでもすごいだろ?」

「大丈夫。売り物にならないような革を使わせてもらったから、タダみたいなもんだから」

う~ん、こうなるとお代を受け取ってはくれないだろうな。

「分かった。ありがたく頂くよ」

「うん、そうしてくれ」

ニカッと笑うクリスタの顔を見て、何かお礼をしなきゃなと心に決めた。


その後、母さんが帰ってきて鞄を見て驚き、クリスタを夕食に招待。

僕の家族にクリスタを加えた夕食は、いつもよりにぎやかだった。

食事の後は、ラウラと一緒に、クリスタを家まで送り届ける。

「鞄、ありがとうな、おやすみ」「おやすみなさ~い」

「ああ、おやすみ」

ラウラがいつまでも後ろを振り向いて手を振っていた。


ベッドに寝転び、いつものようにステータスを確認する。

─────


ノア  13歳 男

種族: 人間

レベル: 8

適職: なし


能力値:

  筋力: 16

  耐久: 15

  俊敏: 17

  器用: 16

  精神: 18

  魔力: 16


ユニークスキル:

  <未完の大器>


魂の器: 2

下位スキル:

  <荷運び> <清浄> <ダウジング>


─────


「またレベル上がってる」

たった1日でレベルが上がるなんて、異常すぎる。

しかも、やっぱり能力値の上がり方がおかしい。

レベル10時点で、15以上の能力値があればとても優秀と言われているのに、レベル8でこの能力値だ。


やっぱりこれは、何としてもレベルを下げる方法を見つけなければ!

まずは王都を目指そう。


今日もなかなか寝付けない夜を過ごした。

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