第5話
冒険者ギルドに入ったら、ちょうどドリスさんの窓口が空いてたので並ぶ。
「ノア君、お疲れ様。すごいわね、1日で見つけちゃうなんて」
「ええ。あの、その途中で変な魔物と出会いました」
「変な魔物?」
あの小さなおじさんについて詳しく説明してみた。
「えっ!ドレイン!大丈夫だったの!?」
ドリスさんが血相を変えて心配している様子だ。
え?
ちょっと怖くなってきたので聞いてみた。
「あの、ドレインって何ですか?」
「はぁ、そっか、知らなかったのね。いいわ、説明してあげる」
ドリスさんの説明によると、
・ドレインを受けるとレベルが下がる。
・ただし、レベル10未満になることはない。
・レベルが下がると、能力値が全て低下する。1レベル下がる毎に3低下する。
・また、魂の器も1レベル下がる毎に1減少する。もし魂の器が0の場合は、ランダムでスキルが失われる。もちろん、スキル取得に要した魂の器は戻ってこない。
との事。
「えぇっ!」
そんなに恐ろしいものだったの!?
慌ててステータスプレートを取り出して、ステータス確認をしてみる。
─────
ノア 13歳 男
種族: 人間
レベル: 6
適職: なし
能力値:
筋力: 9
耐久: 8
俊敏: 10
器用: 11
精神: 10
魔力: 9
ユニークスキル:
<未完の大器>
魂の器: 0
下位スキル:
<荷運び> <清浄> <ダウジング>
─────
「あれ?僕の能力値、そんなに下がってないし、スキルも消えてないんですけど」
レベル9の時の能力値は何度も、何度も見て暗記している。
やっぱりそうだ。3レベル下がったけど、3しか下がってないな。
「えっ、そうなの?う~ん、ノア君はレベル9だったものね。法則が違うのかしら?」
ドリスさんも首を傾げていた。
まぁ、そりゃそうだよね。
通常ならレベル10未満ってことは子供だから、ドレインされることなんてありえないんだろう。
ともあれ、新種の魔物の目撃情報として受理されたので、報酬がもらえるらしい。
「はい、探し物の依頼の報酬が銀貨10枚と、情報提供の報酬が銀貨2枚になります」
「ありがとうございます」
やった~!
「あ、そうだ。その新種の魔物からこんな宝石をもらったんです」
僕は懐から赤い宝石を取り出してドリスさんに見せた。
「あら、綺麗ね。ちょっと鑑定してくるから」
と言って、宝石をトレイに乗せて奥に引っ込んだ。
少し待つと、神妙な顔をしてドリスさんが戻って来た。
「ノア君、ちょっとこっちに来て」
と言われて、別室に連れていかれた。
「どうしました?」
ドリスさんが顔を近づけてきたからドキッとしてしまった。
「さっきの宝石なんだけど、あれね、”ヴァンパイアハート”って言うとても貴重な魔石の一種だったの」
小声でそんな事を言われた。
「はぁ」
よく分からないな。内緒話にするような事なの?
「はっきり言って、ノア君が個人で所持してると命がいくつあっても危ないわ。ギルドで買い取らせてもらうけど、良い?」
「へっ?」
命が、危ない…
「お、お、お願いします!」
怖っ!
結局、前金で金貨10枚。そして、宝石の売却後に、売却利益の8割を受け取ることになり、証文を作ってもらった。
現時点の見積りで、金貨80枚くらいの価値があるらしい。
ちなみに、金貨1枚は大体僕の月収に匹敵する。
これを機に、初めてギルド預金口座を作って、そこに預けてもらった。
金貨なんて絶対に持ち歩きたくないよ!
僕はあまりの衝撃に、ぼーっとしたまま家に帰った。
夕食の後、ラウラが寝てから両親にこの話をしたら、二人とも放心してたよ。
その後、父さんは滅多に飲まないお酒を出してきてカップを傾ける。
「ノアが稼いだ金だ。家のことは考えず、お前が好きに使いなさい」
と言ってくれた。
…今度、家族にプレゼントを買おう。
ベッドに寝転がって、いつものようにステータスを確認する。もう、すっかり日課になってしまった。
─────
ノア 13歳 男
種族: 人間
レベル: 7
適職: なし
能力値:
筋力: 12
耐久: 12
俊敏: 13
器用: 13
精神: 14
魔力: 12
ユニークスキル:
<未完の大器>
魂の器: 1
下位スキル:
<荷運び> <清浄> <ダウジング>
─────
「あれ?」
レベルが7になっていた。
そんな、半日程度でレベルが上がるものだろうか?
「ん?」
しかも、能力値が妙に高いような気がする。
レベル9の時の能力値は、もう何度も見てたから暗記している。これだ。
─────
レベル: 9★
能力値:
筋力: 12
耐久: 11
俊敏: 13
器用: 14
精神: 13
魔力: 12
─────
「おいおい」
これは、すごいことなのでは?
ドレインでレベルが下がっても、それで下がった能力値以上にレベルアップで取り戻せるってことじゃないか、これは!
しかも、なぜかレベルアップが早い。
いくらレベル10未満のレベルアップが早いと言っても、普通は1年に1つくらいしか上がらない。
それが半日で1上がってしまった。
これ、僕にとって、ドレインはむしろ得しかないのでは?
「あ!」
もう一つ、気が付いてしまった。
”魂の器: 1”になっている。
ドレイン後のレベルアップでも”魂の器”が手に入るんだ。
もしかして、ドレインを何度も繰り返せば、実質スキル取り放題じゃないか?
うわー、うわー!
この事実に僕の胸はドキドキと高鳴り、なかなか寝付くことができなかった。
「起きろー!お兄ちゃんっ!起きて~!」
ラウラが耳元で騒いでいる。
「うーん、うるさいなぁ」
「ラウラ、もう教室に行くからね。戸締りやってよ」
「おー」
もう朝か。昨日は寝付けなかったから、眠くて仕方ない。
今日は仕事しない。お休みにしよう。
ベッドでダラダラして、昼近くに起きだす。
ちょっと昼には早いけど、屋台で…いや、せっかく大金が入ったし、ちょっと贅沢して食堂に入ってみるか。
「いらっしゃい。あら、ノア君じゃない。今日はお客さんかい?」
「あ、こんにちは。ええ、食事です」
「そうかい、そうかい。ほら、ここに座んなさい」
女将さんがニコニコと席に案内してくれた。
そういえば、ここには荷運びの依頼で来たことがあったな。
「ノア君のおかげで客席も増やせたし、厨房も使いやすくなって、商売繁盛してるよ。今日はサービスするから、お腹いっぱい食べていきなさい」
バシバシ、と背中を叩かれた。
料理はとっても美味しかったけど、宣言通りすごいサービスされて、僕のお腹ははちきれそうです。
腹がこなれたら、今度は装備品を見に行ってみた。
町の外にも出るんだから、せめて革鎧くらいは着ておくべきだよな。
今まではケチってたけど、臨時収入もあったことだし。
などと考えながらお店の扉を開けた。
「おぉ、ノア君ようやく来てくれたか。ささ、こっちだ」
店主さんが僕を店の裏手に引っ張っていく。
「えっ?」
「この荷物を頼むよ」
「あの~、僕、今日休みなんです」
「えっ?」
ガーンってショックを受けた顔をしてるよ。
仕方ないので、冒険者ギルドに行って掲示板からそのお店の依頼をはぎ取って受託してきた。
「いや~、すまんかったね」
店主は謝ってるけど、すごくホッとした顔をしていた。
おかげで、革鎧を買うときに2割引きしてもらえた。
う~ん、急に休むとこういう風に困る人も出てくるのか。
何とかしないとな。
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