第3話

朝の冒険者ギルドの依頼掲示板前は、たくさんの冒険者たちで賑わっていた。

その片隅、他の人が見向きもしない一画が、僕向けの低ランク依頼が貼り出される場所だ。

そこに1枚だけ依頼が貼られていた。

依頼内容は失せもの探しだった。


受付で受託票をもらい、依頼人のところへ向かった。

うわ、立派なお屋敷だな。

これまた立派な門のところで呼び鈴を鳴らすと、建物から使用人らしき男が出てきた。

「こんにちは。冒険者ギルドで依頼を受けたノアです」

「使用人のオロフです。こちらへどうぞ」

オロフさんに案内され、部屋に通された。

ソファに座るとそのままオロフさんが話を始める。

「早速ですが、探していただくのは指輪になります」

この屋敷の奥様の持ち物で、指に着けていたものがいつの間にか無くなっていたとのこと。

使用人が総出で屋敷中を探したが見つからず、ギルドに依頼したのだそうだ。


「分かりました。それで、具体的な大きさ、形、色などを知りたいんですが」

「ああ、それならば」

と、別の場所に案内された。

廊下の途中、壁に肖像画が飾られていた。

「この指に着けているのが、その指輪です」

と絵画の中の指先を示す。

緑色の小さな宝石が嵌められた、金色の指輪だった。

宝石の周りに花の彫刻が施されている。

「指輪の内側には”愛するマルタへ”と文字が彫られているとのことです」

「なるほど、分かりました」

オロフさんと一緒に玄関ホールまで戻る。


僕はホールの中央に立つと、ポケットから、小さな水晶玉に20センチほどの糸を取り付けた振り子を取り出す。、

「では、スキルを使用します。<ダウジング>」

水晶玉がほんのりと光を放ち、ゆらゆらと振れ始める。

僕は先ほどの絵を参考に、指輪を頭に思い浮かべた。

すると、振り子が玄関の外に引っ張られるような感触があった。

「ふぅ。どうやら屋敷の外にあるようです」

「なんと。まさか…」

オロフさんは眉を寄せて、手を口に当てて驚いていた。

「これから外に出て、方角を調べますね」


僕はオロフさんを引き連れて、屋敷の門の前までやって来た。

「<ダウジング>」

再びスキルを使って集中力を高めると、南の方に引き付けられた。

オロフさんは仕事に戻るというのでここで別れ、僕は一人で南に向かって歩き出した。

<ダウジング>は地味な見た目のわりに精神的に疲れるので、ぶらぶらと町を散策して気分転換をする。

そうだ、こっちの方にクリスタの働いてる皮革工房があったはず。

ちょっと覘いてみよう。


大きな工房が立ち並ぶ”工房区”にやって来た。騒音や臭いの出る工房が多いから、こうやって集まっているんだよね。

目的地の皮革工房も、なめしの工程で強い臭いが出る。

「うっ、臭っ」

顔をしかめつつ、工房の中を覗き込んでみた。

いたいた。クリスタがなめした革を台の上に広げて、何か作業をしている。

邪魔にならないよう遠くからそれを眺めていると、声をかけられてしまった。

「どうしたのお兄さん。何か用かい?」

この工房の女将さんだろうか。作業着ではなく普通の格好をした40代くらいの女性が話しかけてきた。

「あー、クリスタの知り合いなんですが、ちょっと仕事で近くまで来たから、様子を見に」

「あら、呼んでこようか?」

「いえ、取り込み中みたいだし。もう行きますね」

「そうかい?あぁ、お兄さん名前は?」

「ノアです。それじゃ、お邪魔しました」

そそくさとその場を立ち去った。


すごいよな。クリスタも立派な職人に見えた。

あれが上位スキルの凄まじいところだ。取得した瞬間からベテランの動きができるようになるんだから。

幼馴染が活躍している様子を見られたのは嬉しかったけど、自分の境遇を思うと、鬱々とした気持ちが沸き上がって来た。

「はぁ」

ため息を一つ吐いて、僕は南門の方へと向かった。


この町は、石垣と木の塀で囲まれていて、東西南北に門がある。といっても検問などは無い。日中は門が開け放たれており、通行は自由。夕暮れには門が締まるから注意しよう。

その門の外に出て、通行の妨げにならないよう脇に寄っておく。

「さて、気を取り直して、<ダウジング>」

このスキルはきちんと集中しないと、結果がでたらめになるんだよね。

雑念を払い、指輪を思い浮かべる。

「おっ」

町の外、南東の森のちょっと手前、いつも僕が薬草採取に行くところを示している。

あの辺なら魔物がいないから、僕でも行けるな。

よかった。

他の魔物が出るエリアだと僕は行けないからね、依頼失敗になるところだった。


森の手前に広がる草むらまでやって来た。

薬草を摘みたいが、まずは指輪だな。

また<ダウジング>を使うと、森の方を指している。

「う~ん」

森の深くまでは僕じゃ入れないんだよな。浅いところにあれば良いんだけど。

っていうか、何でこんなところに指輪があるんだ?

何かの動物が咥えてきたのだろうか。

謎だ。


ガサガサと草むらをかき分けながら森に近づいていく。

「ん?」

森の手前にある切り株の上に変なものを発見した。


小さなおじさんだ。


身長50センチくらい、茶色い髭で顔の下半分が隠れていて、黄色いとんがり帽子に、スエードのチョッキを着て、布袋を肩に担いでる。

なんだ、あれ?

思わず固まった。

魔物だろうか?

こんな姿の魔物がこの辺に出るとは聞いたことが無いんだけど。

逃げるべきだろうかと迷ってると、小さなおじさんが声を発した。

「なんじゃ、小僧」


しゃべった!


人間の言葉をしゃべる魔物って、めちゃくちゃ高ランクなんじゃなかったっけ?

終わった…

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