第2話
落ち着いて、改めて依頼掲示板を見てみるが、僕が受けられそうな依頼は無かった。
僕は戦闘に適したスキルを持っていないし、レベルも低いので、受託可能な依頼が制限されている。
町の中での雑用依頼か、町周辺で魔物が目撃されていないエリアでの薬草採取だけだ。
それでも食っていけるのは、普通の人だったら取得しないような”下位スキル” に、”魂の器”をつぎ込んだおかげだ。
”魂の器”というのは、レベルが1つ上がる毎に1つだけ得られる、スキルを取得するために必要な何かだ。見ることも触れることもできないので、どんなモノなのか誰も知らない。
下位スキルは、取得するのに”魂の器”が3~7個必要となるスキルのことで、誰でも取得することができる。
それに対して上位スキルは、取得するのに”魂の器”が11~15個も必要となる上に、そのスキルに応じた”適職”が必要となる。
なので普通の人だったら、”適職”に応じた上位スキルを取得するだけでも手一杯で、下位スキルを取る余裕などない、ってなるだろう。
めちゃくちゃレベルが高くて”魂の器”が有り余っている、という猛者であれば下位スキルを取れるのだろうが、そんな人たちがわざわざ下位スキルを取得したと聞いたことはない。
僕は”適職”が無いので、どうせ上位スキルを取得できっこないとあきらめて、下位スキルの中から有用そうなのを取ったのだ。
この選択が功を奏し、僕の下位スキルを活用した雑用依頼は好評を博しており、何とか途切れることなく仕事にありつけている。
実家通いだから宿代はかからないし、戦闘をしないから装備に金はかからない。
細々と稼げれば、何とかやっていける。はずだ。
まだ昼だけど、依頼が無いのなら今日はもう帰ろうか。
ギルドを出て、屋台通りで肉と野菜のクレープを買って食べながら歩いていると、声をかけられた。
「あ、ノア~!」
そっちを見ると、幼馴染のクリスタが手を振っていた。
赤毛の癖っ毛をサイドでまとめ、くりくりとした茶色の瞳の目は人懐っこい笑みを浮かべている。
職人らしい作業着を着てて女らしさは足りないが、その分は胸部が主張してる。
「ノアもお昼?それっぽっちで足りるの?」
と僕の手元を見て言うクリスタの手は、たくさんの串肉の入った器と、これまた山盛りの揚げパンの入った袋を持っていた。
そんなに食べるのか?
僕の呆れたジト目を勘違いしたのか、クリスタは串肉を一本差し出してきた。
「なんだ食べたいのか。ほれ!」
「いや、いいよ」
「遠慮すんなって、ほれ」
とぐいぐい口元に押し付けてくるので、観念して口を開けて食いついた。
「ノアはただでさえ細っこいんだから、肉食え肉!」
ニカッといい笑顔でそんなことを言われた。
僕はかじった肉を飲み込んでから聞いてみた。
「調子はどう?」
「ふっふぅん。今日から鞄作らせてもらってるんだ」
クリスタは豊かな胸をそらし、鼻高々になっている。
「ってことは、ついに上位スキル取ったんだ」
「そうそう。昨日、レベルが上がってさ。すぐに<革細工>スキルを取得したよ」
「おめでとう。これで一人前だね」
「へへっ、ここからが大変なんだけどな」
そういいつつも、クリスタは嬉しそうに笑っていた。
「ただいまー」
家の鍵を開けて入ると、奥からドタドタと足音がした。
「おかえりー、お兄ちゃん。早かったね」
妹のラウラだ。今年で10歳になる。
こいつもそろそろレベル10に上がるんだろうな、と思うと少しだけ胸がモヤモヤする。
「昼、食べたか?」
「うん!」
構ってくれと纏わりついてくるラウラを、「少し昼寝をするから」と言って引きはがし、自分のベッドに寝転がった。
僕は胸元から”ステータスプレート”を取り出した。
これは手のひらくらいの大きさの薄板で、何かの金属でできている魔道具だ。神殿に行ってお布施をすれば誰でも作ってもらえる。僕も8歳の時に両親と一緒に行って手に入れた。
表面には自分の名前と年齢、性別、レベルと”適職”が刻印されており、裏面は複雑な模様が刻まれている。
手に持って”自分のことが知りたい”と念じると、目の前に僕にしか見えない光の板が現れて、自分に関する詳細な情報が表示された。
─────
ノア 13歳 男
種族: 人間
レベル: 9★
適職: なし
能力値:
筋力: 12
耐久: 11
俊敏: 13
器用: 14
精神: 13
魔力: 12
ユニークスキル:
<未完の大器>
魂の器: 0
下位スキル:
<荷運び> <清浄> <ダウジング>
─────
「はぁ~」
この2年間、ずっと変わることのないステータスを見つめ、ため息を吐く。
僕は、”レベル:9”の後ろにある”★”をじっと見る。
これは”
”頂の星”は普通の人ならレベル20以上にならないと現れない。伝説の英雄はレベル50を超えても、まだこの星が無かったらしい。うらやましい限りだ。
残念なことに、レベル上限を超えてレベルが上がったという話も、”頂の星”を取り除く方法も、無いらしい。
僕はこの先ずっとレベル9のまま、人生を終えることになるだろう。
それもこれも、全部このユニークスキルのせいなんだろうな。
なので、僕は”<未完の大器>”を、ついつい恨みがましく睨みつけてしまう。
ユニークスキルっていうのは、生まれつき持っているスキルのことなんだけど、非常に珍しいものだ。1万人に一人と言われている。
でも、珍しいからと言って良いものとは限らないのが、このユニークスキルの嫌らしいところ。
例えば、有名なユニークスキルとして<英雄の素質>というのがある。その名の通り、歴史に名を遺すような英雄が漏れなく持っていた。
レベルが50以上に上がるとか、強力な”適職”を選べるとか、非常に優れた面もあるのだけど、その代わりに必ず、物語になるような過酷で波乱万丈の人生がセットになっているのだ。
完全に良いことだけのユニークスキルって、多分無いんじゃないかな?
僕のこの<未完の大器>については、神殿でも分からないらしい。
っていうか、そもそもユニークスキルは事例が少なすぎて、有名どころ以外はほとんどが詳細不明なんだそうだ。
そんなことをつらつらと考えてるうちにいつの間にか眠っていた。
その後、妹のラウラに叩き起こされ、人形遊びに付き合わされているうちに母さんが帰って来た。
「あら、ノア。今日は早かったのね」
「うん。まぁね」
母さんは近所の古着屋でお針子さんをやっている。
”裁縫士”という適職で、<裁縫>と<衣類修繕>という2つの上位スキルを持っているから、かなり優秀な職人なんだ。
「ちょっとお腹空いてない?お菓子作ろうかと思って」
そう言って母さんはキッチンに向かった。
「お菓子っ!わ~い!」
ラウラはお人形をほっぽり出して母さんの方に飛んで行った。
夕飯時には父さんも帰ってきて、食卓を囲んで一家団欒だ。
「そういえば、ノアのうわさを聞いたぞ。ずいぶん頑張ってるみたいだな」
父さんが急にそんなことを言い出した。
「あら、どんな噂なの?」
「公衆衛生課の人が、ノアのトイレ掃除はピカピカになるって、褒めてたぞ」
「やだ、お父さん。食事時にそんな話」
母さんが眉を顰めると、父さんが慌てて「悪い悪い」と謝っていた。
父さんは”会計士”が適職なので、町役場で働いてる。町の財務関係や、税金関係の計算をやってるらしい。
「適職が無くたって、ノアはこれだけ町の人の役に立つ仕事をやってるんだから、すごいぞ。本当によく頑張ってるな」
「ええ。偉いわよ、ノア」
何だか急に両親に褒められて照れ臭い。
「ねぇねぇ、ラウラは?」
僕ばっかり褒められたのが不満だったのか、ラウラが身を乗り出してきた。
「ふふっ、ラウラもちゃんとお留守番ができて偉いね」
「むふ~~」
母さんが褒めてやるとラウラも満足したようだった。
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