太古の機械巨神
何とかしなくては、早く何とかしなくては。焦る気持ちだけが頭の中に一杯で、ひとまず俺はみんなのいたところに合流した。
「何してるんですか!?あんなことして死にたいんですか!?」
「トウコが死んでたかもしれないのにじっとしてられるわけねぇだろ!!」
顔を合わせた途端にメイに怒鳴られるが、思わずその言葉に苛立ちを感じてしまい、俺も怒鳴り返してしまう。珍しい俺の態度にメイは思わず怯んだ。俺もハッとなり冷静さを取り戻す。
「ど、怒鳴って悪いメイ……ちょっと頭に血が上っていた。」
「いえ、こちらこそ。私も救世主様の見立てを誤っていたようです。」
短気な奴だって思われたってこと……?不本意だけど今のやり取りは仕方ないかもしれない。メイは純粋に俺が心配で怒鳴っただけだろうに。
「救世主様はトウコ様のことを疎ましく感じていると思っていたのですが、ただの照れ隠しで本当は大好きなんですね。」
は?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁ?何いってんの??どこをどう見たらそうなるわけ????おま、俺があいつにどれだけ困らされ、いや迷惑……いや、苦労かけてるか分かってんのぉ??????あいつのことなんか、す、すすすすす好きじゃねーし!!ただの幼なじみの腐れ縁で!!!!死んだら後味悪いというか気分が悪いというか、とにかく嫌だから見に行っただけなんですけどぉ?女の子と一緒に行動したらその子のことが好きなんだって噂する中学生ですかメイさんんんんんん!!?それ絶対トウコの前で言うなよ?????ただでさえこの世界で来る前から周りの空気読めないクラスメイトからからかわれ続けて、半ば既成事実みたいになってたんだからなぁぁぁぁ!!!???」
「あっはい、次から気をつけます。」
俺の剣幕に圧されたのかメイは大人しく頷く。轟音が響き渡る。いやこんなことをしている場合ではない。今もトウコが命がけで戦っているというのに、こんな茶番をする時間はない。
「それよりもメイ!あの兵器を何とかしないと!生体ユニット?とか言ってたよな、どうにかならないのか!!」
「その点については私も観察を続けていたのですが、あれは規格外の大きさですが原理は魔力炉を使用したオートマタに近いものですね。心臓のように脈打つ中心部、そこに動力炉……いえ生体ユニットとなったトレソンがいるはずです。」
メイは指をさす。巨大人型兵器の上部。他の部分よりも装甲に覆われていて、攻撃も加えにくい場所にそれはある。
街を見回す。確かこの街に来る時に、城壁に外敵を倒すためのバリスタがあった筈だ。あれを使えば……!
「バリスタでの攻撃は無意味です。トウコ様の戦いを見ればそれは明白ですね。トウコ様の膂力はバリスタの一撃を遥かに超えています。だというのに与えられるダメージは僅か。装甲を砕くなど無理でしょう。」
冷静な分析だった。おそらく火薬の類も通用しない。
巨大オートマタ。メイはそう表現していた。つまるところあれは巨大人型ロボットのようなものなのだろう。生体ユニットという言葉ではあるがパイロットが操縦する典型的なもの……。もしそうならば……。
「メイ、この街に来たときにあった大砲って使えるのか。」
「えぇ、いくつも配備されていますし、いつでも使えるよう整備されているはずです。ですがバリスタ同様効果はないかと。」
使えるのなら問題ない。俺は反対するメイを押し切って大砲が配備されている場所まで案内してもらった。
「ですから、大砲なんて効きません。無意味です。トウコ様を少しでも助けたい気持ちはわかりますが、むしろ足を引っ張るのではないでしょうか。」
「誰がこれで攻撃をするって言ったんだよ。この大砲で……俺を飛ばすんだ!そしてあの巨大兵器に張り付く!!」
巨大ロボットなら張り付いてしまえばどこかから侵入できるはずだ。骨董品だし、何らかの経年劣化があるはず。
「何を馬鹿な!発射された瞬間死にますよ!?」
「この間言っていたよな。防御魔術は優れた術師なら爆発も防げるって。なら俺が傷つかないようにすることも可能じゃないのか?」
メイは俺の言葉にハッとする。そしてしばらくの沈黙。それは可能であることの証明だった。
「い、いえそれにしてもリスクが高いです!巨大兵器に張り付いたとして……当然兵器からの攻撃があるはずです。死ぬことに変わりありません!」
「だからといって何もしないで指を咥えているわけにはいかないだろう!俺は約束したんだ!あの巨大兵器を何とかするって!!」
約束をしたんだ。裏切るわけにはいかない。もう二度と。二度と……?自分の思考に少し困惑する。だが些細なことだ。今、大事なのは一刻も早くあの兵器を食い止めることなのだから。
「仮に大砲を使うとして、救世主様の言うような魔術を使える者なんてすぐには見つかりません!考え直してください!!」
根本的な問題だった。今からそんな人を探すのには時間がかかりすぎてしまう。ギルドに行けば見つかるかもしれないが……不明確だ。
「あ、あのー……その防御魔術なら私、使えるんだけど。というか基本的な技だから自慢するほどのものでもないけど……。」
ルブレは恐る恐る手をあげる。防御魔術は基礎的なもの。多少の心得があれば誰でも使える珍しくないもの。だが爆薬を防ぐレベルとなると話は別……なのだが、此度は違う。ルブレはエルダーエルフで莫大な魔力を保有している。魔王と同じように、ただ基礎的な術を行使するだけでも強力なものとなるのだ。
「本当にやるんですね……はぁ……確かにあの兵器を放置するのは危険です……ただ救世主様をここで失うのも……。」
メイは不満をこぼしながらも大砲発射の準備を進めていた。ルブレは必死に俺に防御魔術をかけている。それなりに時間がかかるようで一瞬で展開する魔王の技が規格外だとか。
火薬の充填が終わる。俺は大砲の中へ入った。凄く火薬臭い。当たり前だ……。
砲台が動かされる。目標は巨大兵器。微調整を済ませ、トウコの攻撃により動きが鈍くなったところを狙う。強烈な一撃が入った。巨大兵器には傷一つ付かないが、怯んだ。瞬間、爆発音とともに俺は吹き飛ぶ。
「ユシャ!?まさかあれに張り付くなんて……分かった!」
爆発音と共に人影が見えた。よく見るとそれはユシャだった。不格好ながらも巨大兵器に張り付いている。生体ユニットを破壊するために直接乗り込む気だとトウコは察した。
「うぉぉぉおお!し、死ぬ!やべぇやべぇって!」
何とか巨大兵器にしがみつくも揺れが凄く振り落とされそうだった。引きちぎれそうな腕を何とか引っ張り、でっぱりを探し出し何とか安定する場所に着いた。しかし少しでもこの巨体が体勢を変えると俺は瞬く間に墜落してしまうだろう。人型であることを意識し、致命的な体勢にならないよう、移動経路を考える。
我ながら無茶苦茶をしていると自嘲する。ロッククライミングをするように少しずつ、巨大兵器の身体を登る。突然の振動、しがみつき落ちないよう備える。トウコが一撃を加えたのだ。その振動がダイレクトに響き渡る。
トレソンはようやく気がつく。自分の肉体にしがみつく矮小な存在を。例の自称救世主だ、魔王様を貶める汚物。
「何のつもりだ下等生物!離れろ!高潔なる我が肉体に触れるなど身の程を知れ!!」
身体を振ってユシャを引き剥がそうとする。その隙をトウコは逃さなかった。一瞬にして距離を詰めてトウコ自身も巨大兵器に張り付こうと接近する。
だがそれを許すわけにはいかない。巨大兵器の一部が開く。無数の砲門。それがトウコ目掛けて発射された。
「なるほど!本命はお前か女!だが残念だったな、こんなクソ雑魚詐欺師など張り付いても問題はない。だがお前は別だ!決して近づけさせはしない!!」
砲撃に吹き飛ばされながらも、トウコはユシャを見る。先程の動きに振り落とされずしがみついている。そして着実に少しずつ登り始めていた。
「しかし哀れなものだな女!それほどの力がありながら!こんな下等生物に、詐欺師に、
何の力も持たない無能の下についているとは!良いことを教えてやろう、あの男はお前の思っているような救世主でもなんでもない!ただの雑魚だ!!そこらの一般人にも劣る無能!!口先だけの虫けら!!!クズ!!!そんな奴についてるお前が心底哀れで仕方ないな!!!」
その言葉はルフトラの街全体に響き渡っていた。そして同調するように街の人々は呟く。ギルドで魔王との一件を見た人々が騒ぐ。そうだ、やはりあの救世主は偽物なのだと。あんな奴のしたについてるなんて、あの女の人は可愛そうだという同情の声まであがる。騙されている騙されている。口先だけの詐欺師に良いように使われる悲劇のヒロイン。そんな空気が漂う。
「黙れッッッ!!ユシャのことを何も知らないお前が、ユシャのことを知ったような口で語るなッッッ!!!!私はユシャに教えられた!!ユシャに変えられた!!!!例えお前たちの言う魔王を倒す使命をもった救世主でないとしても!!私にとってユシャはずっとずっと救世主なんだッッ!!それを……それを……そんな簡単に……!!私とユシャの関係を穢すような言葉を語るなッッ!!!」
振り下ろされた拳が掴まれる。
───馬鹿な。今までこの女は拳を避けるか殴り返すだけだった。それは単純に、このテイタンに比肩する力はあるものの、完全に渡り合える力まではないと、そう思っていた。
だが現実問題として、拳が、岩盤のような拳にトウコの指が食い込み掴まれている。動けない。まるで巨大な怪物に掴まれたような。いやそれ以上にこの感覚は覚えがある。あの城で感じた感覚。
魔王様と同じ気配。今、自分はもう一人の魔王と対峙している。
「ひっ……!!」
思わず出てしまう悲鳴。咄嗟に腕をパージ。巨大な腕は外れ、トウコの拘束を逃れる。
「お前にユシャのことなんて理解してもらう必要はない。お前だけじゃない。世界中の人間がユシャを否定しても、私だけは絶対に何があっても肯定するから。だからお前はここで死ね。」
───殺される。トレソンは死を覚悟した。エルダーエルフは長寿長命。優れた魔力の持ち主でもあることから、命の危機などほとんど感じないのが日常。そんな彼が今、酷く怯えている。この女は……何者だ。
逃げなくてはならない。せめて古代兵器を土産に持って帰れば、魔王様は喜ぶはずだ。そう判断し撤退の指示を出そうとした瞬間、異変は起きる。
「ガッ……!な、なにが……!!」
肉体の自由が効かない。いや、自分の意思が古代兵器に介入できない。勝手に動き出す。パージした右肩部が勝手に動き、眼前の敵……黒髪の恐ろしい女へと向けられた。
瞬間、世界は閃光に染まる。
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