第52話 復興へ


「雨が降り始めましたね」


佐藤がそう言った。


「不穏だな……」


木村がそう言った。


「そう言えば、最近ラジオ聞いてませんね。聞いてみましょうか」


通りを走っている途中、佐藤がそう言った。


「いいんじゃない?」


そういって、木村がラジオを付ける。


『先程、宮葉県南部巨大地震についての続報が入ってまいりました。

山間部の神水ダムが崩壊し、たまっていた水が街に流れ込んだとのことです。

これにより、道路が冠水したり一部の住宅街は水没したとのことです」

「まじかよ……」


ラジオを聞いていた木村がそう言ったとき、急にトラックがとまった。


「どうした?」

「この先、冠水してます……」


佐藤がそう言った。

木村が前を見ると、確かに道路が冠水している。


「これ以外に道は?」

「ないっす」

「じゃあ行くしかないか……」


トラックは、濁った水でおおわれた道を進む。


「……浸水した車からバッテリー取れないかな」

「そもそも、バッテリーも駄目になってるんじゃないかな……」


そう、二階堂が言ったときだった。


「この先、川みたいです。行けますかね、橋壊れてませんかね」


佐藤が、水から飛び出た『若葉橋』の欄干をみて、言った。


「欄干があるんだから、行けるでしょ」

「もしかしたら道路部分だけが落ちてるかもしれないじゃないですか!」

「えぇ~?」


佐藤はそう言いながら、アクセルを踏む。

普通に、渡れた。


「だからいったじゃねえか馬鹿がよ」

「ひどくね?」


佐藤がそう言ったとき、二階堂がおもいだしたようにいった。


「そう言えば私、若葉高校の卒業生なんですよね」

「そうなんですか!?」

「はい。……そう言えば、

アマチュア無線組み立てキットが欲しいって言ってませんでしたっけ」

「え?まぁ、はい」

「じゃあ、若葉高校のコンピューター室にあるはずですよ」

「マジすか!」

「マジです」

「それじゃ、探さないとな……」


***

~神水市・若葉高等学校・校庭~


「体育館には誰もいませんでした。浸水で、避難したようですね」

「そっか……じゃ、コンピューター室をあさりやすい根」

「もはや泥棒で草」


木村たちは、浸水した校舎へと向かった。

***

~若葉高等学校・西校舎~


「コンピューター室は三階にあるはずです」

「わかりました」


そういって、四人は階段を上る。

しばらく進み、コンピューター室にたどり着いた。


「あったあった」


木村が棚からアマチュア無線組み立てキットを取り、外に出る。

すると、地面が大きく揺れ、校舎が傾いた。


「また余震か……建物内は危ない、さっさと出よう」

「はい」


直後、ものすごい音と共に校舎が傾き、水が入ってきた。

若葉高校の後ろは低めの土地にある住宅街で、神水ダムの水が溜まっている。

そこに、校舎が丸ごと落ちたらしい。


「急げ、屋上に向かうぞ!」


沈みゆく階段を駆け上がり、鍵のかかっていた屋上ドアをけり破る。

そして、沈んだ家の屋根に飛び移った。

その直後、校舎が水に沈んでいく。


「……どうします?」

「う~ん……家家を飛び移って、水のないところに行くしかないよね」

「ですよね~……あ、今って家の屋根にいますよね?」

「うん」

「じゃ、アンテナを取れるんじゃないですか?」

「確かに」


木村がそう言って、屋根に取り付けられた受信アンテナを無理やり取り外した。


「とんでもない力だな……」

「今なんつった?」

「いや何にも」


***

~神水市・終寒区~


「やっと陸地に着いた……近くの避難所に行こうか」

「近くの避難所って……どこですかね」

「う~ん……つばき自然公園じゃない?」

「そうですね」

「じゃ、そこに向けて出発しよう」


***

~神水市・つばき自然公園前~


「あ、あの車からバッテリー取れませんかね?」

「やってみる?」

「やってみましょう」


車のボンネットをこじ開け、バッテリーを取り出す。


「やったぜ」

「いろいろと雑だなぁ……」


***

その後、木村たちは電気屋でサーキットボードをゲット。

二階堂と別れて「しなの」へ帰還し、救難信号を出した。

その後、自衛隊により助け出され、横須賀へ帰港したのだった。


歌浜区水没により、さらに強度の高い工法で埋立地が造られ、そこで新たな居住区が造られた。

宮葉県の南部は災害の爪痕を残しながらも、復興への一歩を踏み出したのである。

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