第50話 ミヤハドーム

~神水市・つばき区・南部~


「ん?人が倒れてます!」


佐藤がそう言って、指をさす。


「マジかよ!」


道路に、足を住宅の柱に挟まれた女性が倒れていた。

彼女の容姿はTシャツにショートパンツ、

黒髪ポニーテールで、年齢は20歳くらいに見える。


「大丈夫ですか!?」


急いで車を止め、駆け寄る。


「……」


意識がなく、足からの出血もひどい。

このままではヤバいかもしれない。


「どうします?パワーアーマーで柱をどかしましょうか」

「バカ、下手に動かしたらもっと崩れるぞ」

「じゃあどうすれば……あっ」

「なんだ?」

「車載ジャッキがあります!」

「ナイス!それで持ちあげよう」


ジャッキを柱の下に入れ、持ち上げる。

屋根が少し崩れたが、何とか引っ張り出せた。


「よし、さっさと止血するぞ。救急キットを持ってこい」

「了解です」


***

~数分後・トラック車内~


「よし、あとは安静にしておけばOK……のはず。医務官も連れてくればよかったな」


木村は女性を毛布の上に寝かせながら言った。

すこしして、女性が目を覚ます。


「う……ここは?」

「トラックの中ですよ」

「トラック……?」

「はい」

「トラックって……何の?」

「自衛隊の」

「……自衛隊!?」


女性はガバッと上半身を起こした。

神水市は四国・中国地方に位置するためか、発音がすこしなまっている。


「痛た……」

「まだ動かない方がいいと思います」

「そ、そうっすね……」

「ところで、お名前を聞いてもいいでしょうか」

「二階堂成美です」

「二階堂さんですね」

「成美でいいっすよ」

「わかりました。ところで、私たちはミヤハドームへ向かうのですが、来ますか?」

「いいんすか?」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとうござます」


こうして、一人の同行者ができた。


***


「ところで、成美さんはなんであんなところに?」

「いや~地震発生時、隣の建物が崩れてきましてね。

それに巻き込まれて、さっきまでずっとあの状態だったんですよ」

「それは災難でしたねぇ」

「ほんっと、死ぬかと思いましたよ……」


トラックは、建物が倒壊し、滅茶苦茶になった道路を進む。

しばらくすると、ビルの向こうにミヤハドームの屋根が見えてきた。


「あれがミヤハドームか……」

「大きいですね」


そんなことを話していると、二階堂が話し始めた。


「フフフ……では、ここで雑学をば。

ミヤハドームの敷地面積は 105,500㎡。坪にすれば31913.75坪となります。

ドームが完成したのは1992年8月3日で、それから数十年間、市民に寄り添ってきました。

アイドルグループのコンサートが開催されたりもして、まさに神水市の顔といえるでしょう」

「へぇ、詳しいんですね」

「そりゃもう、ここが地元ですから」

「そうなんですか」

「はい」


トラックは、ドームに近づいていく。


***

~神水市・ミヤハドーム前~


「ここも結構な被害だな。さぁ、ドームの中に入るぞ」

「はい」


佐藤が車を動かし、ドームの入り口に入る。

そのまま進むと、ドームの中に多くのテントが張られていた。


「よし、物資を配るぞ」

「了解です」


木村たちの乗るトラックは、オリーブ色だ。

そのため、一目で自衛隊車両ということがわかる。

それを見て、多くの被災者が集まってきていた。


「おお~!自衛隊だ!」

「助かった……!」

『これより食料や日用品の配給を行います!慌てず、一列に並んでください!』


木村が拡声器を使ってそう呼びかけると、数百人にも及ぶ被災者がずらりと並ぶ。

ここは、さすが日本人というべきか。皆、素直に言うことを聞いたようだ。


「よし、それじゃあ始めろ」

「了解」


佐藤がそう言って、物資の入った段ボールを開けていく。

そして、それを被災者に配っていった。


「ありがとうございます……ところで、

人数が少ない気がするんですが……どういう事なんです?」


被災者の一人にそう聞かれた佐藤が、しどろもどろになりながら答える。


「え、えっと、あれですよ、え~と……そう、先遣隊!我々は先遣隊です!

もっと物資を積んだ本隊が後で来るので、心配しないでください!」

「な、なるほど……いや、このトラックじゃここの人全員分の物資は積めないと思いまして。

そっか、本隊が来るなら安心です……それでは」


そう言って、その被災者は去って行った。


***


数分後。多くの人に物資を配ったものの、配っていない被災者はまだまだいた。


「司令、被災者用の物資がなくなりました」

「マジ!?仕方ない、陸自の戦闘糧食を配ってくれ。演習用に持ってきたやつ」

「わかりました」


被災時、「しなの」は陸海合同の演習を行うため、夢見半島演習場に向かっていた。

本来は横須賀で陸自の部隊と物資を乗せて進むはずだったが、

手違いにより、物資だけを乗せて出港することに。

仕方がないので違う港で部隊を乗せることになったが、途中で被災。

艦内に残された陸自の物資や装備を、木村たちが使ったのである。


「はい、食料と毛布です」

「ありがとうございます」


陸自の戦闘糧食と毛布を、被災者に渡す。

それを繰り返していると、地面が揺れ始めた。


「余震だ!」


木村はトラックにつかまり、揺れで転ばないようにする。

そして揺れが収まるのを待っていると、一人の被災者が歌浜区の方を指さしながら言った。


「皆、あれを!」


木村たちや被災者は、その被災者が指さした先を見る。

そこには、歌浜区の建物が見えていた。

その建物たちは、地震と共にゆっくりと沈んでいく。

そして、見えなくなった。


「う、街が……沈んじまった……」

「……このままじゃ、このミヤハドームも沈むんじゃ!?」

「なに!?ここも沈むのか!?おいみんな、逃げるぞ!」

「逃げるったってどこに!」

「知らねぇ!俺は北に、北に逃げるぞ!」

「北!?そうだ、神水岳に逃げよう!山なら、絶対に沈まない!」

「そ、そうだ!神水岳だ!みんな、神水岳に逃げよう!」

「自衛隊員さん!そのトラックで、みんなを神水岳に運んでくれ!」

「そ、そうだ!国民を守るのが自衛隊の仕事だろ!」

「急いでくれ!このままじゃ、ここも沈んでみんな死んじまう!」


被災者がパニックを起こし、木村たちにすがってくる。


「大丈夫、大丈夫です!ここは沈みません!」

「なんの根拠を持ってそんなことが言えるんだ!

駄目だ、こいつらは当てにならん!みんな、徒歩で神水岳に向かうぞ!」

「「ああ!」」


被災者たちが、ドームの出口へと殺到する。

そして、ドームには木村たちのみになった。


「……どうします?」

「どうしようか……」

「……他の避難所に行きません?」

「そうしようか。ここから近い避難所は……若葉高校かな」

「そうですね」


こうして、木村たちの次の目的地が決まった。

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