第2話 動乱
少し時間を戻し、日本国気象庁。
「ん?」
突如、日本全土を積乱雲が覆う。
「何だこれ……レーダーの不調か?」
職員はそうつぶやくと、窓の外を見る。
さっきまで快晴だった空は、どんより曇り空になっていた。
「う~ん……いったい何が……」
次の瞬間、震度計が震度5強をさした。
それと同時に機械という機械が不思議な数値を表示し始める。
「うわぁっ!」
職員の座っていた椅子が倒れ、彼は急いで机の下に潜り込んだ。
しばらくすると、ひときわ大きな揺れと共に地震が収まった。
「収まった……?震源地は……え?いや、見間違えか?」
彼は目をこすって震源地の表示されている画面をもう一度見る。
「震源地は……震源地は……日本全土ぉ!?と、とりあえず報告に……」
職員は立ち上がり、報告へ向かおうとする。
ふと外を見ると、二つの月が浮かんでいた。
「な、なんだあれ……」
***
~静岡県御殿場市・駒門駐屯地~
「いてて……」
地震で転んだ警務隊の一人が立ち上がり、周りを見る。
もろくなっていたフェンスが壊れている以外は、特に被害はなかったようだ。
「とりあえず報告をしにいかないと……ん?」
彼もまた、二つの月を発見した。
***
時間を現代に戻し、首相官邸。
「緊急閣議を開始する!大臣を集めてくれ!」
「わかりました」
日本国第115代内閣総理大臣、川田小次郎は官房長官にそう言ってから会議室に向かう。
そして、閣僚が集まったところで話を始めた。
「まず、今起こっている現象について説明してくれないか?」
総理の言葉を受け、柳達也国土交通大臣が報告を始めた。
「気象庁からの報告では、昨日の午後12時21分に日本全国で積乱雲が発生。消失後、二つの月が出現しました。秘匿は難しいかと。あと、海外に居たはずの船舶が戻ってきています」
「そうか……まあそうだよな」
柳国交大臣が報告を終わると、続けて早川健文部科学大臣が話し始めた。
「国立天文台から、星が星図と一致しないと報告を受けています。民間にも星図はありますから、これもばれるのは時間の問題でしょう」
「星の位置が変わるなんてことあり得るのかね?」
「私は聞いたことがありませんね……」
「私もです……」
「じゃあなんでそんなことになったんだろうねぇ……」
総理は腕を組んで考え込む。
「とりあえず、何か報告のある人は報告を」
「はい」
総理の言葉を聞き、美川かおり防衛大臣が報告を始める。
「東南アジアへ支援のため向かっていたはずの第八護衛隊群がいつの間にか横須賀に帰港していました。おそらく、日本国籍の物がすべて国内に戻ってきているのかと」
「なるほど……つまり、なにが起きたんだ?」
「もしかしたらの話ですが、日本は『特異的空間転移災害』に巻き込まれたのかもしれません」
「特異的空間転移災害……?」
「数年前、東南アジアに位置した小島、ニルアス島が消失した事件のことを覚えていますか?」
「ニルアス島……?」
ニアルス島。
東南アジアに位置し、地球温暖化により沈没が危惧されていた地図にも載っていないほどの小さな島だ。
その島が突如として消えてしまった。
まるで最初から存在しなかったかのように。
当時ニュースでも取り上げられていたのだが、そのニュースを取り上げていたのはその多くが地方ケーブル局であり、
川田総理もネットニュースでチラリと見たくらいのものである。
「まさか、あの事件が?」
「はい。あの事件では島を中心に小規模の地震が発生しました。プレートの端でもないのに。そして、地震発生直後に消失……不思議じゃないですか?」
「たしかにな。地震発生直後に消失というのは地殻変動とかであるかもしれないが、地震発生の原因がないのに地震が発生するのは……」
「ですが、数万トンレベルの土地が移動したと考えれば、この地震も納得できるでしょう?」
「ああ……もしかして、この災害もソレだと?」
「はい」
「その災害が『特異的空間転移災害』……と」
「はい」
「それはわかった。つまり……日本は違う場所に転移したと」
「はい」
「月が二つということは、地球ではない」
「はい。少なくとも違う惑星、もしくは異世界です」
「なんで任期満了直前にこんな面倒なことが起きるんだぁー!」
川田総理は頭を抱えて叫んだ。
「総理!落ち着いてください!」
「はぁ、はぁ、はぁ……備蓄燃料は」
「7か月分しか……」
「備蓄食料は」
「こちらも7か月分ほどです。首都直下地震に備えていてよかったですね」
「そうか……とにかく、節約だ。配給制にするしかない。日本……ひいては国民のためだ。燃料も自衛隊に多く回せ」
「わかりました」
「何とか油田、もしくは国家を見付けるんだ。頑張ってくれよ、自衛隊」
文明崩壊まであと7か月……
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