第14話 ハロウィン

一方、渋谷ハロウィンの人ごみに溶け込む者たちがいた。

「すごい人だな……パレードでもこんなに集まらんぞ」

「そうだな……」

「しかも摩天楼といってもいいほどの建物……本当にすごいな」

彼らは教国のスパイである。

なぜ日本にいるのか……話は数日前にさかのぼる。

***

~数日前・教国王城~

「なに?ニホンという国が国交開設を求めている?」

「はい。どうやら数か月前から来ていたそうですが、外務局の馬鹿が追い出していたそうで」

「う~む……たしか、帝国を倒した新興国だったか?」

「その通りです」

「なるほど……よし、一度スパイを派遣しろ。我が国より技術が高かったら友好的に接し、

その恩恵を最大限受ける。低かった場合は……わかっているな?」

「わかりました。すぐにスパイを派遣します」

***

~渋谷スクランブル交差点~

というわけである。

なぜ密入国できたのかなぞではあるが、まあいいだろう。

「さて、軍事基地はどっちだ?」

「この国では軍をジエイタイと呼ぶらしい。怪しまれないためにもその呼び方がいいな」

「確かにそうだ。で、ジエイタイの基地はどっちなんだ?」

「あてずっぽうに探すより、人に聞いたほうが早い。あの人とかいいんじゃないか?」

スパイの一人が指さしたのは木村だった。

***

「あの~すいません」

「え、あ、なんですか?」

「あの~ジエイタイの基地ってどこですか?」

「え?自衛隊の基地……ですか?」

「はい」

「それなら向こうに横須賀基地が……よかったら案内しましょうか?」

「えっいいんですか!?お願いします!」

***

~横須賀基地前~

「ここです」

「はえ~大きな船ですね」

「ああ、あれは『しなの』っていう船です」

「やけに平べったいですけど、いったい何に使うんですか?」

「あそこにF-35Bがあるでしょう?あれを飛ばすんですよ」

「F-35B?」

「あー……翼竜みたいなものだと思ってください」

「なるほど……ありがとうございました。それでは!」

それだけ言うと、二人は闇の中に消えていった。

「いったい何だったんだ……」

木村は歩きながらスマホを取り出すと、電話を掛けた。

「もしもし私だけど。うん。そうそう……え?ああ、うん」

電話しながら歩く彼女を、先ほどの二人が路地裏から見ていた。

「板に向かって話している……?」

「魔導通信機みたいなものだろ。多分」

「そっか……でもあんな薄っぺらい魔導通信機があるか?」

「さあ……でもただの板に話しかけるわけないだろう」

「それもそうだな。しかし平民が魔導通信機を持っているのか……」

「貴族なのかもしれんぞ?」

「なわけないだろ……陸軍の基地も探すぞ」

「わかった」

***

~練馬駐屯地~

「ここか。陸軍基地は」

「これは……なんだ?」

一人が指さしたのは74式戦車。

読者の方々ならわかるだろうが、練馬駐屯地には74式はない。

なぜ、74式戦車が止まっているのだろうか……

「戦車ってやつじゃないか?中央帝国で見た」

中央帝国。中央文明圏の列強国で、世界最大の国家だ。

「あれか……しかし大きいぞ?」

「中央帝国より大きな戦車を持っている国……とにかく魔写をとるぞ」

「わかった」

魔写。写真みたいなもので、教国でもこれをとるための魔道具、

魔写機を持っているものは少ない。この二人は今回の任務のため特別に与えられたのだ。

「よし、とったぞ」

「摩天楼の写真も撮ったか?」

「ああ。摩天楼もでかい船もばっちり」

「よし、帰るぞ」

***

「目標は教国に帰るようです」

「そうか。作戦終了」

隊員が構えていたライフルを下す。

そう、スパイが簡単に密入国できたのも、木村が軽々しく説明したのも、

練馬駐屯地に74式戦車があるのも、

すべて教国に日本の力を見せつけるための作戦だったのだ。

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