第9話 嵐の海

~「しなの」艦橋~

「今回の任務ってなんだっけ?」

「え?周辺国に嵐の海と呼ばれてる海域の調査ですよ」

「そうだったな。しかし嵐が止まない海か……」

「前方に巨大積乱雲!」

話の途中で士官の報告が入ってくる。

太田が気象レーダーをのぞき込むと、スクリーンの上部が真っ白に染まっていた。

「ついに来たか……総員配置!」

第八護衛隊群は嵐の海に突入した。

***

「ずいぶん揺れるな……」

「ですね。視界も悪いですし」

全長300mを越える「しなの」が転覆しそうなほどの嵐。

窓に着いたワイパーが高速で動いているが、ほとんど外が見えない状況だ。

その時、大波と共に船が跳ねる。

「うわっと……基準排水量7万トンを超える船が跳ねるっていったい……」

「まあ、いくら7万トンを超えると言っても船ですから」

「そっか……」

「0-8-0、何か見えます!」

報告が入り、木村が双眼鏡を手に取る。

「何だあれ……島か?」

「なんか人工島っぽいですね」

「タワークレーンも見える……もしかして、転移後行方不明になった海上農園じゃないか?」

海上農園。

2030年に計画、建築され始め、2036年には完成が予定されていたが、建設途中で転移が発生した事で、

約5000名の作業員と補給のため接舷していた護衛艦「あかぎ」が共に行方不明になった。

『CIC艦橋、レーダーに感!これは……護衛艦「あかぎ」です!』

「『あかぎ』だと!?やはりあれは海上農園か……交信は?」

『駄目です!通信機器使用不能!』

「この嵐のせいか……?」

「『あかぎ』視認!」

その報告を聞き、木村が双眼鏡を覗く。

「……ボロボロだな……接舷しろ!」

「了解!」

「しなの」は「あかぎ」に接舷する。

「立検隊、『あかぎ』に向かえ!」

「了解!」

護衛艦付き立入検査隊は護衛艦「あかぎ」に乗り移った。

立検隊の隊員は

・石本沙桜三等海曹

・井上琴菜三等海曹

・高橋正樹三等海曹

・佐藤英一郎三等海曹

・三宅努三等海曹

・中村信之三等海曹

・岡田正弘三等海曹

・黒野明三等海佐

以上の八名だ。

***

~護衛艦「あかぎ」前甲板~

「ぼろぼろだな……そこら中傷だらけだ」

「銃痕ではありませんね……これは、切り傷?」

「ああ、刃物みたいなもので切られたようだな」

「隊長!主砲にこれが刺さってました」

隊員が棒状のものを持ってくる。

「これは……矢?」

それは矢だった。

「なんでこんなものが……?」

「まあ、それは後にしましょう」

「そうだな。よし、艦内に突入!」

隊員が扉を開けようとするが、微動だにしない。

「曲がってるみたいです」

「よし、C4を使う。離れろ」

隊員は距離を取る。

「3、2、1!」

起爆スイッチを押すと、扉が吹き飛んだ。

「突入!!」

立検隊は艦内に走り込んだ。

***

~護衛艦「あかぎ」通路~

「艦内もボロボロだな……これは、バリケードか?」

通路の至る所にバリケードが築かれている。

「これは、戦闘の痕跡でしょうか?」

「どうだろう……とにかく、上に行くぞ」

「了解」

***

~護衛艦「あかぎ」艦橋~

「やっぱり艦橋も滅茶苦茶か」

艦橋は窓が割れ、計器類に矢や剣が突き刺さっていた。

「舵輪も壊れてるし、気象レーダーも……ダメか」

「CICに行ってみましょう」

「ああ」

***

~護衛艦「あかぎ」CIC~

「ここら辺はバリケードが多いな……」

「まあCICはイージス艦の最重要区画ですから」

「扉にも矢が大量に刺さってるな……」

隊員が無理やり扉を開く。

「ここは他の場所とくらべて綺麗だな」

「ですね」

「隊員はいないか。一体どこに行ったんだ?」

「防犯カメラは動くみたいです。データが残ってるかも」

「よし、USBメモリにダウンロードして持って帰ろう」

「了解」

隊員たちはデータのダウンロードを始めた。

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