第48話
「高いねぇ。」美来が言う。
「高いねぇ。」私が言う。
カズくんへのお返しのプレゼントを買いに時計売り場へ来た。
「ママ見てよ!桁が違うわ!100万円だって!」
「私の時計が100個買えるわ!」
「男物の腕時計って高いんだね。」
「ねぇ。これどうかな?」
「いいの?結構するよ。」
「いつもご飯作ってくれるし。」
「家賃も払ってくれてるし。」
「いいんじゃない。」
「そう?」
「似合うかな。」
「似合うと思う。」
ちょっと高い腕時計をプレゼント用に買った。
「昔ね、高校の時、カズくんタバコ吸ってたんだ。」
「高校生で?」
「そんな時代だったんだよ。」
「そんでね。ライターをプレゼントしたの。」
「そしたらね。渡したその日に無くしたんだよ!」
「24時間も持たずに無くしたんだよ。」
「信じられる?」
「信じられない!それはひどい!」
「でしょ。しかもさぁ。」
「1か月ぐらい私の前でタバコ吸わなくなって、たばこ辞めたとか嘘ついてさ。」
「でも、隠れて吸ってんの匂いでわかっちゃうんだよ。」
「馬鹿だよね。」
「「無くしたの?」って言ったら、やっと「ごめん」って」
「嘘つかないで素直に謝ればいいのに。」
「そうだね。」
カズくんが帰ってきた。
「飲みに行こうか。」
バーについて1杯目。
カズくんは1杯目から甘いやつ。
私はレモン、ママはライムのロングにした。
最初はサッパリしたの飲みたいよね。
「うん!さっぱりしていて美味しい!」
「ママ!ほんとにすごいのはここからなんだよ。」
「ほうほう。」
「うわっ、カクテルっぽい!」
最初の私と同じ反応してる。
「美味しいいぃ!」
「でしょ。別もんでしょ。」
「すっごい!いっぱい飲んじゃいそう!」
「わかるぅ。」
「そうだ、カズくん、ネックレスのお返し。プレゼントだよ。」
ママがプレゼントを渡す。
「私と美来で選んだんだよ。」
「なんだろう。」
「うわっ。高そうな腕時計!」
「カズくん。今度は、絶対1日で無くさないでね。」
「ごめん。」
「無くした場所、ずっと何度も何度も回って、警察に行ったり、探したんだ。でも見つからなくて。」
「本当にごめん。」
「もういいよ。ごめん、ごめん。」
「ちょっとした冗談だったんだけど。まだ覚えていてくれたんならいいよ。」
「物は無くなっちゃけど、一生の思い出に残ったって事だもんね。」
「そうだね。」
ちょっとうれしくてテンション上がった。
ネックレスを貰うのなんて何十年ぶりだからかな。
「ママ」
「バーテンダーさん、マルガリータ下さい。」
「ママ。それ強いやつ。」
「いっぱい飲んだね。ママ。」
「こんなに酔っぱらったママは初めて見た。」
駅から自宅まで歩くと20分くらい。
ママが気持ち悪い。っていうのでタクシーはやめた。
結局、カズくんがおんぶして運ぶことになった。
「重くない?大丈夫?」
「全然。香織は軽いよ。」
「は、って何?私は重いって事?」
「身長差があるじゃん。」
「まぁ。こうやって3人で歩くのも久しぶりだしいいね。」
私は寝たふりをしてる。
気持ち悪かったのは本当だけど、涼んでたら良くなってきた。
でもおんぶされたまま、寝たふりしてる。
カズくんにおんぶされたのは、28年位ぶりかな。
2回くらいおんぶをしてもらったことがある。
カズくんの背中あったかいなぁ。
うれしかったんだ。プレゼント。
ホントに。
カズくんから27年ぶりにもらった一生残るプレゼント。
昔は私の恋人。
私の初体験の相手。
私が初めて、強く愛した人。
今は娘の旦那だ。
ゆきちゃんのパパだ。
私の義理の息子にもなるのか。
どんな立場、どんな呼び方になってもカズくんはカズくんだ。
私の好きだった人。
今更、どうしようとかも思わないし、
娘ともめたくないから変な気は起きないし、起こさない。
今は一緒にいて、ご飯を食べる。話すだけでいい。
顔を見るだけでもいい。
それだけで安心する。
それが今の私の幸せだ。
カズくんは美来を愛してる。わかる。
でも私の事も大切にしてくれてる。わかる。
何も言わないし、何もしない。
でもわかるんだよ。
私には。
伝わっちゃうんだ。
「会いたかった、ずっと会いたかった。」って気持ちが伝わる。
「大切だ。一緒にいたい。」って気持ちが伝わるんだ。
「もう離さない。離れたくない。」って気持ちが伝わってきちゃうんだ。
心は繋がってる。
私も同じ気持ちだから。
絶対に言わない。
わかる素振りも絶対しない。
でも思っちゃうんだ。
一緒にいたい。離れたくないって。
一緒にいるだけで私は幸せだ。
ほんとうに、あったかくて、気持ちいい。
美来。ごめんね。ごめん。
家に帰るまで、ちょっとの間だけ。
カズくんの”ぬくもり”をわけて。
私は今でもこの人が好きなんだ。
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