第41話

今日は8月最終土曜日、街の花火大会の日だ。

この日は毎年、ママと花火を見に行った、思い出深い花火大会だ。

「じゃぁん!浴衣だよぉ。」

「ゆきちゃんの分もあるの、ほら!超かわいいでしょ!」

「ほんとだぁ!」

「赤ちゃん用の浴衣もあるんだね。」

「調節できるから来年も使えるよ。」

「今日は花火見た後、くるくるやって欲しい。」

「お代官様、お戯れをぉってやつ。」

「それオッサンが言うセリフだから。」

「興味ない?」

「無いわけないだろう。」


「花火綺麗だったねぇ。」

「ねぇ。くるくるやってみて。」

「もうちょっと、浴衣プレイを楽しませてよ。」

「浴衣プレイって何?」

後ろからギュッと抱きしめられる。

「浴衣と言えばさぁ。」

「これでしょ。」

浴衣の襟に部分から手を入れられる。

もう片方の手は裾を広げてさする。

「こんな隙だらけのかっこで良く歩けるよね。」

「そうだね。着物って隙だらけだよね。」

後ろからキスされる。

なんか強引にされる感じもゾクゾクする。

「そろそろ、くるくる回ろうか。」

「へぇ?」

「倒れないでね。」

帯をゆっくり引っ張られる。

くるくるくる。

ははっ。面白い。

意識がもうろうとしてるせいだろうか。

ちょっとフラついたところをお姫様抱っこされた!

「お姫様抱っこだぁ。」

「うれしい?」

「うれしい!」

ベッドまであるいてそのまま連れていかれる。

「怖いよぉ。」

わざとらしく抱きついた。

「今、下すからね。」

やさしくベッドにおろされる。

イチャイチャするのが好き。

首に巻き付けた腕は離さない。

「もっとイチャイチャして。」

「はぁい。」

この人といると、すごく楽しい!



「なかなか離乳食に慣れてくれないね。」

「やっぱりまだミルクが良いのかな。」

「成長が遅いのかな。」

「徐々に慣れるから大丈夫よ。」

「薄味にするって本にあったけど。」

「もうちょっと味濃いめにしてみようかな。」


「カズくん!ちょっと見て!」

「ゆきちゃんの歯が生えてきた!」

「ほんとだ。」

「はえ始めで機嫌が悪かったのかなぁ。」

「そうかもね。」

「しかし、ずいぶん大きくなったなぁ。もう10キロ近いんじゃない?」

「ゆき。食後の運動にゆらゆら遊びしようか。」

ゆらゆら遊びは仰向けに寝たカズくんのおなかにゆきちゃんを乗せて、右に左にゆらゆらさせて遊ぶ事で、ゆきちゃんはとても喜ぶ。


今日は紀香ちゃんが遊びに来る。

「ピンポーン」

「あっ来た。」

「紀香ちゃん。入って入って。」

「おじゃまします。お兄さん。」

「美来。聞いた?お兄さん。だって!初めて言われた。」

「紀香ちゃん、お兄さんなんて呼ぶの止めなさい。」

「せめて“おじさん”にしときなさい。」

「美来。ひどいよ。」

「美来。ゆきの事頼める?」

「紀香ちゃんは紅茶とコーヒーはどっちが良い?」

「ありがとうございます。紅茶でお願いします。」

「美来は?」

「美来も紅茶で。」

「はいよ。」

「紀香ちゃんも抱いてみる?」

「いいんですか?」

「こうやって、片手でおしりを持って、片手で背中を支えるの。」

「うぎゃぁあ」ギャン泣きされた。

「私の抱き方がいけなかったのでしょうか?」

「人見知りだと思うから気にしないで。」

「おじいさん。」

「おじいさんって。ひどい。」

「すみません。おじさんとお兄さんがごっちゃになってしまいました。」

「おじいさん。」

いじけてる。笑っちゃう。

「お姉ちゃん。やっぱりお兄さんでいいですか?」

「おじさんは呼びにくいです。」

「おじいさんで良いんじゃない?ははは。」

「赤ちゃんも人見知りするんですか?」

「6か月過ぎると家族の顔を覚えて、知らない人を見るとびっくりしちゃうらしいよ。」


「遊んであげてれば慣れて泣かないようになるよ。」

「はい。おもちゃを渡して掴む練習というか、遊んであげてみて。」

「あっ。おもちゃ掴みました。」

「落としました。」

「また、拾って渡してあげて。」

「なるほど。これが掴む練習なんですね。」

「本人は遊んでるみたいだけどね。」


「じゃあ、また今度来てね。優紀君も一緒に来てね。」

「はい。ありがとうございます。お姉ちゃん。」

「ありがとうございました。おにいさん。」

「ぷぷ。おじいさん。はは。」

「美来。ひどいよ。」


ママが帰ってきて、紀香ちゃんの“おじいさん”発言を話して2人で大爆笑した。


今日は3人でお好み焼きだ。

下ごしらえはもうカズくんが済ませてくれていて、

あとは焼くだけだ。

「カズくんはお好み焼きは蒸す派なの?。」

「お好み焼きは大好きでね。」

「いろいろ試して蒸すのが一番好き。」

丸いお椀のようなステーキカバーを2つ持ってきた。

ぜったいやる。

「ブラジャー。」

「やっぱりやった!馬鹿なの?」

「46にもなって馬鹿なの?」

二人に馬鹿にされる。

「持ってきた時点でわかったわ!」

「むしろ、それがしたくて2個買っただろう。」

「お約束じゃん。」

「くだらない買い物して!」


「くだらなくないよ。ほんとに美味しいから、食べ比べてみようよ。」

ホットプレートで2つ焼く。

1つはステーキカバーでふたをして、もう1つはそのままだ。

「お好み焼きって焼いてる時間に話が出来るからいいよね。」

「お酒も飲めるしね。」

「焼肉だと、焼くのと食べるので忙しいからね。」

何でもない話を家族で話す時間がとっても好き。


1つ余っちゃったね。

ステーキカバーを持ってカズくんはゆきえに近づいて顔をかくす。

「いない、いない、ばぁ。」

喜んでる!

「カズくん私にもやらせて。」

私もママもゆきえに近づく。

「きゃっきゃっ。」

笑ってるよ。

「いない、いない、ばぁ。」

「きゃっきゃ」

「私もやる!」

「かわいい!」


キッチンタイマーが5分経って鳴った。

「片面焼けたからひっくり返してくる。」

「あと3分ぐらいで焼けるから。それまで遊んであげて。」

「カズくんはひっくり返しにテーブルに戻って行った。」


「カズくんのお手柄だね。」

「いないいない、ばぁ。」

「さっきの寒いギャグはチャラにしてあげようか。」

「そうだね。ゆきちゃんに免じて許してあげよう。」


「ふたりとも焼きあがったよ。」

「厚みが全然違う!」

ふたしない方も全然美味しいけど、

ふたした方はふっくらしていて美味しいね。

お餅とチーズも細かく切って入れてある。

美味しい!

「もしかして、1人で焼いて、1人で食べてたの?」

「そうだよ。」

「寂しすぎるぅ。」

「これからは美来とママがいっぱい食べてあげるから、いっぱい作って!」

「今度さ、お弁当作ってもらってみんなで公園にでも行こうか?」

「良いね!ママ!ナイスアイデア!」

「カズくん、お弁当お願い。」

「いいよ。」

カズくんは私のお願いをいっぱい叶えてくれる。

ちっちゃい夢だけど、それをいっぱい叶えてくれる。

「カズくん、大好きだよ。」

「おだてても“おじいさん“発言は許しません。」

「ちがうよぉ。ほんとだよぉ。」

「大体、言ったの紀香ちゃんじゃないか。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る