第37話
今日は産婦人科で予防接種だ。
生後1年以内に接種しないといけないワクチンは10本ぐらいあるらしい。
カズくんが予約してくれているので私はすべて任せてる。
私はもう、ただのおっぱいマシーンとなっている。
おっぱいあげて、赤ちゃんが寝たら私も寝る。
泣いて起こされ、またおっぱい。
これだけで重労働で死にそうなのに、他のママたちは家事もしてるのか。
私には無理だ。
私は家事を放棄した。
許してくれ。カズくん。ママ。
ゆきちゃんの為だ。
最近、ゆきちゃんはガラガラがお気に入り。
カズくんが赤い方が赤ちゃんには見えやすいという情報を調べてネットで購入した。
まだ2か月では視力は0.1ぐらいらしく、良く見えないらしい。
私も目が悪い。遺伝してないと良いんだけどな。
赤いガラガラを目で追う。
やっぱり見えてるよね。
泣いてる時もガラガラで収まるときがあるので、とても助かる。
でも、何やっても、どうしても泣き止まない時がある。
とっても可愛んだけど。
疲かれるんだよなぁ。
今日はゆきちゃんが、ぐずって泣き止まないのでほんとに疲れた。
ここの所、夜泣きがひどい。
夜中寝れないのが辛い。
だるい。
気持ち悪い。
うるさい。
「カズくん、ちょっと具合悪いから少し寝てくる。」
「大丈夫?」
「大丈夫。ゆきちゃんお願い。」
子育ては力がいる。
ここ数日、だるいし、食欲出ないし。つらいな。
みんなは学校いったり、土日はデートかな。いいな。
私は今、大学を休学して子育てをしている。
来年は学校に戻って教師になる勉強をしようと思ってた。
体力持たないかも。
普通だったら大学行って、
普通にバイトして
普通にデートして。
もう、私は普通じゃないんだな。
結婚して、子供がいるママなんだ。
わかってる。わかってるし、覚悟もしてた。
体調悪いときはつらいなぁ。
鎮痛薬を飲んだら、いつの間にか寝てたらしい。
やな夢を見た。何かに追われて走ってる夢。
体が重くて足が思うように動かない夢だった。
手があったかい。
左手が両手で握られてた。
「大丈夫?うなされてたから。」
「カズくん。」
「大丈夫。変な夢見てただけ。」
「ありがとう。」
「おっぱいあげなきゃ。」
私の体は赤ちゃんにおっぱいをあげなきゃとせっつく。
いらつく。
「体調悪いときは休んでていいよ。」
イライラする。
カズくんは優しい。だからイライラする。
自分が悪いとわかるからむかつく。
「大丈夫、胸張ってるからあげなきゃ。」
私はもうママなんだ、頑張んなきゃ!
もう普通じゃないんだ。頑張んなきゃ!
ゆきちゃんは大切。だから頑張んなきゃ!
カズくんも大切、家事もやってくれてるんだ!
だから私も頑張んなきゃ!
「ママぁ。美来、もうダメかもしれん。」
「どうしたの?」
「うぐっ。」
ママに抱き着いたら、なんか涙出た。
「久しぶりだ。ママの膝枕なんて。」
「そうだね。子供のころ以来だね。」
「ママ。良い匂い。」
「そう?おんなじボディソープじゃない。」
「ううん。ママの匂いがする。」
「ゆきちゃんも、もうママの匂いわかってると思うよ。」
「そうかな。」
「美来が近づくだけで、手足をバタバタさせてるもの。」
「わかってたけど、わかったつもりで覚悟してたけど、子育て大変。」
「カズくんにもママにも手伝ってもらってるのにだよ。」
「ママみたいなママにはなれないみたい。」
「わたしだって立派じゃなかったよ。」
「つらいときもいっぱいあったよ。」
「そういう時はどうしたの?」
「ビール飲んでアイス食べた。」
「美来は偉いよ。ゆきちゃんの為にビールずっと我慢してるもんね。」
「子育て。疲れちゃったんだね。」
「うん。ちょっと。」
「でも美来もママだから頑張んないと。もう普通じゃないんだから。」
「そうだね。普通じゃないね。」
「うん。」
「違うよ。美来。」
「普通じゃない。は普通以上の幸せって事だよ。」
「ゆきちゃんにはママのあなたと、パパのカズくんがいる。」
「美来にはカズくんと私がいる。」
「普通じゃない、幸せ。」
「美来。疲れたら言いなさい。」
「弱音は全部、ママが聞いてあげる。」
「頑張らなきゃって気を張りすぎないで。少し休みなさい。」
膝の上にある私の頭をやさしく撫でてくれる。
「私、もうママだもん。」
「私は美来のママだよ。」
「美来はママが守ってあげる。」
「ママごめんない。」
「いいんだよ。ママはみんな、大変なのが普通なんだよ。」
「カズくんに嫌な態度とっちゃった。」
「そう。でも、きっと大丈夫。」
「怒ってないかな。」
「大丈夫。怒ってない。」
「もし怒ってたら、私が怒る!」
「ママが怒ったら、またアイス買ってこなくちゃ。」
「アイスはいくらあっても構わないよ。」
「そうだ、毎月、休育日を決めましょう。」
「私が休みの日曜日のどこかで、育児を忘れて遊びなさい。」
「カズくんとデートでもいいし、友達と買い物でもいいと思う。」
「ちゃんと、気晴らしをすることも大事だよ。」
「ママ。ありがとう。」
ママがいなかったらくじけてた。
私はママになら弱音をぶちまけられる。
「ママがいてくれてありがとう。」
「カズくんごめんなさい。」
「ちょっと疲れちゃって、イライラして八つ当たりした。」
「ごめんなさい。」
「もう大丈夫なの?」
「うん、ママに膝枕してもらったら、なんかスッキリした。」
「それでね。月に1回、休育日にして気晴らししてきなさいって。」
「次の日曜日、デートして欲しい。」
「どうかな?」
抱きしめられる。
「美来。そんなの良いに決まってるじゃないか。」
背中に手をまわす。
「ごめんなさい。」
「ありがとう。」
こんなに良い人たちに恵まれてるんだ。
普通の訳なかった。
普通より数段上の、幸せだった。
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