第35話

これから5日間は入院の予定だ。

明日は赤ちゃんの入浴の仕方を教えてもらう予定。

明後日は検査。

4日目は休養で5日目の午前中に退院予定だ。

2日目には、昨日よりもおっぱいが出た。

3日目には、もうちょっとおっぱいが出るようになった。

おっぱいをあげたいと思うと不思議と出てくる。

赤ちゃんが飲みたいと吸い付くと自然に出てくる。

不思議だなぁ。

カズくんは毎日病院にお見舞いに来てくれる。

ママは仕事で今日はいない。


「美来は退院したら何がしたい?」

「ビール飲みたい!」

「残念。母乳にアルコールが入っちゃうから3か月は飲んじゃダメだって。」

「ノンアルコールにしとこうね。」

「じゃあ、セックス!」

「それは1か月後の検診を受けるまでダメだってさ。」

「えーー。じゃあ美味しいもの食べさせて。」

「何がいい?」

「カルボナーラとカズくんの作ったグラタンがいい!」

「いいよ。」

「フーフーして「あーん」してくれる?」

「いいよ。いっぱい食べて栄養付けようね。」

「そうだね。ゆきえにいっぱいミルクあげないとね。」


最初の1か月は大変だとママから聞いていたけど本当だった。

赤ちゃんは1時間おきにおっぱいをあげないといけないし。

眠る暇もない。

抱っこし続けて肩が痛い。

「カズく~ん。肩痛いぃ。揉んでぇ。」

「はいよ。」

「あぁ。きもちいい。ありがとう。」

ママがカズくんって呼んでたから私もカズくんと呼んだ。

でも、もし“和弘くん”や”かずひろさん“と呼んでいたら、こんなに甘えられただろうか。

こんなに仲良くなれなかったかもしれない。

もしかしたら結婚する事も無かったかもしれない。

「呼び方って不思議。」

「何か言った?」

「カズくんはカズくんだ!」

「なにそれ。」



産まれて1週間がたった。

たった1週間。

やっと1週間。

1週間でどれだけ寝れた?

眠い。死ぬほど眠い。

赤ちゃんは、とにかく泣く。

まあ、泣くしかできないんだから仕方ないけどさ。

1時間おきに泣く。

おしめかおっぱいかわからないから見てみる。

「また泣いちゃった。」

「はい。こんどはどっち?」

「おしめじゃなきゃ、おっぱいか?」

「おっぱいね。はいどうぞ。」

おっぱいが痛い。

あれ。

出ない。

吸われてるけど全然でない。

あれ?

枯れた?

「カズくんおっぱい出して!」

「無理だよ!」

「ミルク作ってくるから。」


「ママー。助けて!おっぱい出して!」

「ゆきえちゃんにあげるおっぱいが出ないの!」

「もう乳首痛いの!」

「おっぱい出してあげて!」

「出ないよ!多分。」

「美来のおっぱい出なくなっちゃった。」

「おっぱいちっちゃいと、やっぱり少ないのかな?」

「そんな事ないっていうよ。」

「多分、精神的な物じゃないかな。」

「明日は私が面倒見てあげるから、1日寝な。」

「助かるよ。少しで良いから寝させて。」


リビングでママにゆきえちゃんを預けたらそのまま寝てしまった。

起きたらベッドだった。

横でカズくんも寝てる。

5時間ぐらい寝てたのか。

カズくんが運んでくれたんだな。

起こさないように、そっとくっつく。

カズくんのにおい。

はぁ。落ち着く。

もうちょっとだけ、寝よ。


「ママー。ありがとう。少し寝れて回復した。」

「ママ、おっぱい出た?」

「やっぱ出ないよ。」

「だよね。出たら2人で飲ませられて、良かったんだけどな。」

「ママも美来の生まれたときは大変だった?」

「そりぁ大変だったよ。」

「私もお母さんに泣きついた。」

「勝手に産むって産んだのに。」

「いっぱい助けてくれたよ。」

「だって赤ちゃんはかわいいもんね。」

「このちっちゃい手。掌触ると指を握るしぐさ。ぷにぷにしたほっぺ。」

「美来も今は大変だけど、だからこそ、今を大切にしなさい。」

「今しかこのかわいい姿は見れないんだから。」

「そうだね。頑張るよ。」

「ありがとう。ママ。寝かせてくれて。」

「明日も見てあげるから。休みながら、おっぱいあげな。」

「ゆきちゃん。お待たせ。ママですよぉ。」

「あれ?今笑ったんじゃない?」

「そう?」

「笑ったよ。ママの事もうわかるの?」

あーー。鳥肌立つほどかわいい。

「今ならおっぱい出そう。」

「おっぱい飲む?」



生後3週間。やっぱり来た!

ゆきえにも来た!

泣きのピークだ!

「カズくん、ゆきちゃんが泣き止まないよ。」

やっぱり赤ちゃんにはみんな来るのか。

「ゆきちゃん。どうしたのかな?」

「カズくん。具合悪く無いか見てくれる?」

「うん。おしめじゃないのはさっき見たし。かぶれもない。熱は無いし。」

「やっぱおっぱいじゃないの?」

「でも飲まないんだもん。」

「ミルクで試してみようか?」

「今回は30分ぐらいで寝てくれてよかった。」


「なんで何でもないのに泣くのかな?」

「知らないけど。3週目に泣きのピークが来るって書いてあったよ。」

「いつまで?」

「3か月から長い子だと6か月だって。」

「半年ぃ?」

「この状態があと半年続くの?死ぬ。」


「美来の体の方はどう?」

「まだ痛い?」

「腰、さすろうか?」

「うん。お願い。後陣痛こうじんつうもちょっとあるし。」

「何より赤ちゃんをだっこするので、腰痛い。」

「じゃぁ。横になって。」

「シャツまくるよ。」

「カズくんの手。あったけぇ。腰にしみるぅ。」

「ババくさいなぁ。」

「ババァとか言うな。」

「カズくんの温かい手で”さすさす”されると、癒されるわ。」

「そう?なら良かった。」

「ママはおっぱいあげるの大変だもんね。」

「おしめと沐浴もくよくは俺がやってあげるから。」

「出来る事は協力するから、一緒にがんばろ。」

「うん。美来も頑張るよ。」

「もうちょっと、お尻の方もやって。」

「はいはい。」

「あと、カルボナーラ食べたい。」

「はいよ。」

「いっぱい食べて、おっぱい出す。」


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