第34話
「カズくん!出産の予兆が出てきた!」
「どんなの!」
「おしっこ、いっぱい出る!」
「いや、マジで!こんなに出るか?ってくらい出るんだけど。」
「お腹痛かったりする?」
「それはまだだけど、なんかお腹張ってる。」
「おりものみたいなのも出たし、なんか来る気がする!」
「じゃあ、病院行ってみてもらおう!」
「カズくん!事前に用意しといた着替えセット持ってきて!」
「わかった!」
診察を受け、数日中にも破水しそうなので入院することになった。
この病院では夜、一緒に泊まる事が出来ない。
陣痛が始まってきた。
「痛いよぉ」
今はまだ生理痛のひどいやつだ。
もっと痛くなるんだろうなぁ。
夜は始まらないで、カズくんと一緒に産んであげたいの。
「ね。ゆきえ。頑張って。」
お腹に手をあててお願いした。
朝一にカズくんがお見舞いに来てくれた。
「良かった。まだ間に合った。」
「ゆきえ。パパが来たよ。」
「頑張って出てこようね。」
「カズくん、陣痛がマジで痛い。背中と腰さすって。」
「わかった。」
「1時間に1回ぐらいバットでぐりぐり、
「泣くかもしれんから、手を握ってて。」
「あと、汗とミネラルウォーターね。」
一応練習はした。
練習はしょせん練習だ、こんな痛いの想像してない!
「美来。大丈夫?」
「ママも来てくれたの?」
「うん、学校は早退させてもらった。」
「香織、なんか気を紛らわすような事を話すと良いらしいよ。」
「えー。」
「カズくんのたまたまが割れて、3つになった!」
「ひゃひゃ、いたい!いたい!笑わすな!余計痛い!」
「怖い事言うなよ。」
「下ネタ禁止!」
「カズくんはそっちの手。私はこっちの手を握る。」
「わかった。」
「美来!頑張って!」
「ぎゃぁあ!死ぬぅ!カズくん!美来、死ぬぅ!」
「大丈夫!頑張って!」
「私だって、痛かったよ!死なないよ!」
「ほら、頭出て来ましたよ!」
「カズくん見る?」
「いやいや、怖くて、そっちは見れない!」
「手を握ってるよ。」
「頑張って!美来!」
「産まれましたよ!」
「元気な女の子ですよ!」
「よかったぁ。やっと会えたね。ゆきえ。」
「カズくん。」
カズくんの名前を呼んだら一気にこみあげてきた。
「カズく~ん。怖かったよぉ」
「もう、死んじゃうかと思ったよぉ」
「産まれて良かったよぉ。」
「うれしいよぉ。」
「カズくんがいてくれてよかったよぉ。」
いろんな思いがこみ上げてくる。
涙が止まらない。
嬉しいやら痛いやら、安心やら心がぐちゃぐちゃだ。
片手は涙を拭いてぐしゃぐしゃしてる。
でも、もう一つの手はカズくんと繋がってる。
この手を絶対離さない!
「ゆきえ。」
「産まれてくれてありがとう。」
「私がママの美来。」
「彼がパパのカズくんだよ。」
カズくんはママの元カレで、25歳も年上で、
1億円で子供産んでくれとか言ってきたんだよ。
セックスが上手で、
私をいっぱい気持ち良くしてくれた。
私を大切にしてくれて、
ママの事も大切にしてくれて、
私とママの夢をいっぱい叶えてくれた。
私とママにいっぱい幸せをくれた人。
家族の愛情、恋人の愛情、親子の愛情を全部教えてくれた。
私の大切な、大切な旦那様、
ゆきえのパパだよ。
「私はとっても好きになれる優しいカズくんに出会えた。」
「ゆきえ。
「あなたにも良い出会いが、きっとありますように。」
「良い人に出会って、幸せになれるように、ママは願うよ。」
カズくんの手を握る手をきゅっ。と強くした。
カズくんは両手で包んで返してくれた。
2時間ほど経過観察をして問題が無いようなので、赤ちゃんは私のところに戻された。
この病院では母子に問題が無ければ初日から同室で過ごさせてくれる。
赤ちゃんを抱っこするのは初めてだ。
「ママ、どうやって抱っこしたらいいの?」
今は部屋にママとカズくんと私とゆきえの4人だ。
助産婦さんは退出してくれている。
口コミでも家族の時間を大切にしてくれる病院だと書いてあったから選んだ。
「赤ちゃんの首が座ってないから、左腕で首を支えて、もう片方の手を赤ちゃんの股を通してお尻を支えるの。」
「こうやって、ラグビーボールを抱え込むような感じ。」
「ねぇ。
「もう出るの?」
「わかんない。」
「でもこうやって抱っこしてると、お乳を上げたくなるの。」
「不思議だよね。」
「おっぱいを探してるのかな?」
「目も見えないのに、ほんと不思議だね。」
「はい、おっぱいですよ。」
「赤ちゃんの顔が乳首の正面に来るようにするの。」
「あ。咥えた!」
「痛い!」
「大丈夫?」
「ゆきえちゃん。カズくんみたいに、もっと優しく吸おうね。」
「なんだ俺みたいって。」
「吸ってる!」
「ごめんね。まだ出ないかも。」
「いいんじゃない。こうしたコミュニケーションで出るようになるよ。」
しばらくしてると
「あ!ちょっとだけど出た!」
「カズくん、おっぱい出たよ!」
「ほんと!すごいね。」
「もっと出るようになったら、カズくんにも吸わせてあげるね。」
「美味しいの?」
「わたしのミルクが美味しくないっての!」
「カズくんのミルクだって、すっごい苦いんだからね!」
「俺のはミルクじゃないもん。」
「私がいるとこでそういう話はしないの!」
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