第33話

今日は12月27日、ママの誕生日

今まで、ママと2人の時は経済的な理由もあったし、

ケーキを立て続けに食べるのも飽きるので、

クリスマスと誕生日を一緒に祝っていた。


でも今年からカズくんが別々にお祝いしたいという事なので、

誕生日は誕生日でお祝いする事になった。


「ハッピーバースディ!ママ!」

「これは私からのプレゼント!」

「え?何?」

「手編みの手袋だ!」

「そう、赤ちゃんの服を編んでて、ママのも内緒で作ってました!」

「ありがとう!超、嬉しい!」

「これは俺からでなんと、3つあります!」

「1つ目はこちら!」

「花束ぁ!」

「男から花束貰ったの2回目だけど、まさか1回目も2回目もカズくんとは!」

「初めてもらったの高校生の時だよね。」

「そうだね。」

「その時も誕生日だった!」

「花束かかえて電車乗って帰るの、超恥ずかしかった!」

「たしかに、それは恥ずかしい。」

「でもね。他の高校生の女の子がうらやましそうに、ひそひそ話てるの聞こえて、ちょっと気持ち良かった!」

「性格わる!」

「2つ目はこちら!」

「梅酒だぁ!なんか、すっごい高そう!」

「3つ目はこちら!」

箱を出す。

「なにこれ?」

「冷たっ!」

箱を開ける。

「ケーキだ!しかもこれ、アイスケーキだ!」

「この間、クリスマスケーキ食べたばかりだから、アイスにしてみた。」

「やばっ!すっごい豪華!」

「みんなで食べよう!」


「このケーキ、すっごい美味しい!」

ママはすごく喜んだ。

良かった。


今日はママの誕生日なので、ママと一緒に寝る事にした。

ベッドで寝転がりながら話をしたかった。

「ねぇ。ママはカズくんのどこが好きになって、付き合ったの?」

「うーんとね。かっこよかったからかな。」

「そんなかっこいい?」

「あっ。それ、カズくんには言わない方が良いよ。」

「昔ね。クラスの女子が、クラスの男子のランク付けしたんだって。」

「その時のランクが、カズくんは“中の下“で20人中15位だったんだって。」

「めちゃくちゃ、へこんでた。」

「顔じゃなかったよ。バイク乗ってたし。」

「当時はね。バイク持ってるなんて、学校に1人か2人しかいない時代でね。」

「カズくんはバイトして、1人で免許取って、バイク買ったんだって。」

「すごい偉いなぁって思った。」

「すごくボロかったけど、親に頼らず自分で買ったんだから、偉いと思った。」

「それとね。夢があった。」

「ゲームを作りたいって言ってたな。」

「ファミコンゲームがすごく好きで、将来はゲーム作りたいって言ってた。」

「夢があってカッコいい!って思って好きになったかな。」

「私は両親とも教師だったし、子供のころから大学行って、先生になるって思ってた。」

「私にとって、先生は夢じゃなくて、レールだった。」

「カズくんは、バイクが好きで、ゲームが好きで、漫画が好きで、

 好きな事を仕事にしたいと思ってて、私に無い物をいっぱい持ってて

 素直にカッコイイって思った。」

「美来は夢を持った男の人って、惹かれたりしない?」

「夢を持って頑張ってる人はすごいとは思うけど。」


「じゃあ。私のパパは?」

「あれは顔。」

「美来も見たでしょ。結構、顔は良い方でしょ。」

「“あれ”はひどいんじゃない?」

「結構、良いパパしてたよ。」

「わたしにとっては“あれ”なのよ。」

「だってさ、俺は俳優になる!とか言って会社辞めてさ。」

「2つぐらいオーディション落ちたら、今度はパチプロになる!とか言って。」

「パチプロって夢じゃなくない?」

「言い出したら、何言っても聞かないの!」

「なんで付き合ってたの?」

「結構優しいとこもあったんだよ。」

「パチンコに勝つと、いつもプレゼントしてくれたり。」

「それ絶対、景品じゃん。」

「負けると、“酒買ってこい!“とか言ってさ。」

「ダメな男の典型じゃん。」

「でもさ、なんか、私がいないと、この人は駄目だなって思っちゃうんだよね。」

「まさか自分の母親が、ダメンズ好きとは知らなかった。」


「そうかもね。」

「だから今のカズくんは、私の趣味とちょっと違うかな。」

「優しいとこは変わってないけどね。」

「私、12月27日生まれじゃん。」

「子供のころから、いつもクリスマスと誕生日が一緒なの。」

「だから実は、プレゼントを年に2つもらえる普通の人が、うらやましかったのね。」

「ちゃんと誕生日とクリスマスが別々の子はいいなって思ってた。」

「知らなかった。言ってくれれば、ちゃんとしたのに!」

「うん。面倒なのもあるし、ケーキを立て続けに食べると飽きるのもほんとだし。」

「まぁ。慣れてるから。」

「でもね。カズくんだけは別々に祝ってくれたんだよね。」

「言ったわけじゃないんだけど。」

「今年は2回お祝いされた感じ。」


「カズくんは優しいよね。」

「いつも美来の意見を尊重してくれるし、美来のしたいことをしてくれる。」

「美来の事を考えてくれる。」

「美来はカズくんの、そういう優しい所が好き。」


「ママはもうちょっと、ぐいぐい引っ張ってくれる人の方が好きかなぁ。」

「自分勝手なダメンズが好きなわけだ。」

「ダメンズはもう懲りたよ。」

「でも、母性本能がうずいちゃうんだよなぁ。」

「やっぱり、ダメンズ好きなんじゃん。」


美来には言えないけど、たぶんそれは私のせいだ。

カズくんはもっと自分勝手な人だった。

最後に大喧嘩した時、つい、別れ際に

「カズくんはいつも自分勝手だよ!」

「私の気持ちなんて、ちっとも考えてない!」

「もう、大っ嫌いだ!」

って言ったのが最後の言葉。

カズくんはたぶん、それを直そうとした。

結果的に、それを美来が好きだというなら。

それは運命なのかもしれないね。


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