第31話
「ママ!乳首が!黒くなったぁ!」
「ピンク色で好きだったのに!」
「そりゃ、妊娠5か月にもなれば、黒くなるでしょう。」
「これ戻る?戻るの?」
「ママの乳首は綺麗だもんね。私も戻るよね。」
「そういうこと言わないの。」
「大丈夫よ。数か月か1年くらいで戻るよ。」
「カズくんに嫌われない?」
「大丈夫だよ。お母さんになる準備なんだ。きっと喜ぶよ。」
「本当?」
「そういえば安産のお守り、まだ買ってきてないね。」
「お参りに行こうか。」
もう5か月になってお腹もかなり大きくなった。
足元も見えにくい。
危ないのでタクシーで神社まで行って、
お参りしてすぐに帰ってくるつもり。
もうすぐ、カズくんと出会って1年になる。
大騒ぎの1年だった気がする。
カズくんは、今日は仕事で出かけている。
参道をママと手を握って歩く。
「まだ性別はわからないの?」
「今度の診察で超音波エコーやって、わかるかもしれないって。」
「そう。」
「名前は考えたの?」
「まだ。」
「どうしたの?不機嫌ね。」
「カズくん、ネーミングセンス全くなかった。」
「女の子だったら7が3つで「ななな」が良いとか言い出した!」
「“な“が1個多い!」
「漢字は?」
「漢数字の七がみっつで七七七だって。」
「縁起が良いって。」
「ありえなくない?」
「“なな”ならまだ許せるけど。“ななな”は無いわ。」
「確かに無いわ。」
「学校でいじめられるわ。そんな名前。」
「私は香の文字を入れたい!」
「ママの匂いがとっても好き!」
「いい匂いのする子になってほしい。」
「なんかちょっとわかるけど、女にしかわからなくない?」
「そうかな?男でも女でも、いい匂いする子はモテると思うけど。」
「モテる子供が欲しいの?」
「その方が幸せじゃない?」
「私は、モテる事が幸せとは思わないな。」
「良い人に出会えれば、モテなくても幸せだと思うよ。」
「そう言われれば、そうかも知れない。」
「私も願ったよ。」
「美しい未来がこの子にありますように。」
「きっと幸せになれますようにって」
「名前の通り、美来は今、とっても幸せだよ。」
「じゃあ、美来も願いなさい。」
「この子がどんな幸せになって欲しいかを。」
ママはお腹に手をあてて話してくれた。
「ママ!カズくんと病院行ってきた!」
「検査で女の子じゃないかって。」
「女の子かぁ。楽しみね。」
「カズくんはまた肩身が狭くなっちゃうかもね。」
「これで女の子に絞って名前を考えられるね。」
「ママ!聞いてよ!」
「カズくん2人目は三が3つで“みみみ”が良いとか言い出したんだよ。」
「“み”が1個多いって!」
「しかも、三三三だよ!縦書きにしたら訳が分からないよ!」
「ほんと、センスないねぇ。」
「美来が考えてあげないとね。」
1年前の私に、この姿を見せてあげたい。
やりたい事も、やるべき事も見つからない。
ママがいて幸せなはずなのに、勝手に不幸な気がして。
ふてくされて。
カズくんと出会わなかったら、
きっと、自分は馬鹿なことして、
ママを悲しませてしまっていたかもしれない。
本当に良かった。
出会えたのが、カズくんで本当に良かった。
食事のテーブルにはシチューが運ばれている。
今日はシチューだ。
野菜もいっぱい入れてくれてる。
カズくんのシチューは美味しい。
「ママ!カズくん!名前考えたの!」
「幸せに会うで“幸会”“ゆきえ”ってどうかな?」
「美来はカズくんに出会えた。」
「カズくんはママに出会えた。」
「ママもカズくんに再会できた。」
「3人が出会えて、今の幸せがあると思うの!」
「だからこの子にも、良い出会いがありますように。」
「幸せな出会いがありますようにって願いたいの!どう?」
「いいんじゃないかな。」
「俺もすごく良い名前だと思う。」
「“ゆきえ”、“ゆきちゃん”か。」
「呼びやすくて良いかもね。」
「でも、“ななな“も良い名前だと思うけど。」
「「それは無い!!」」
私たちは本当に、似たもの親子だ。
「じゃあ、今日はもう1本開けちゃお!」
「ずるい!私も飲みたい!」
「あなたはノンアルコールビールだ。」
「カズくん、おめでとう」
ママがカズくんにビールをコップの半分くらい注いだ。
「では、ゆきえちゃんの為に!」
「「「カンパーイ!!!」」」
はやく、元気で生まれて来い!「ゆきえ!」
みんなが願って、待ってるぞ!
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