第26話

「カズくん!おかえり!」

「浮気しなかった?」

「してないよ。」

キスしてくれる。

「カズくん聞いて!ママの記憶が無いの?」

「はぁ?」

詳しい話を部屋で話した。

「それでママとカズくんの、何か思い出の品とかないかな?」

「それは香織が望んでるの?」

「わからない。もし思い出の品があるならママに聞いてみる。」

「美来は香織に思い出してほしいと思ってるの?」

「美来は思い出してほしい。つらい思い出だけなんて悲しいよ。」


「わかった。ふたりで香織に聞いてみようか。」

「美来はママ想いの良い子だね。」

頭を撫でてくれる。


リビングで3人でテーブルに座る。

カズくんは古い、四角い缶を持ってきた。

今はママに見えないように膝の上に置いている。

「香織、確認したいんだけど、昔の事を思い出したい?」

「思い出すと辛くなっちゃうかもしれないよ。」

「・・・・」

「私は・・・」

「思い出したい!」

「昔、カズくんを好きだった時の自分の思い出を取り戻したい。」

「美来は本当に、良いの?」


「ママは私の事を裏切ったことなんて1度も無い!」

「ママは私を裏切らない!だから大丈夫!」

「それに、美来は今のカズくんを、信じてる!」

「だからママに思い出してほしい!」

「だって4年も付き合ったんでしょ。」

「絶対、良い思い出があるはずだもん!」

「ママの大切な思い出を取り戻して!」


「わかった。」

「でも、俺が持っているのは、それほど大したものではないよ。」

「思い出のカケラみたいなものだけど、良い?」

カズくんは四角い缶をテーブルに置いて大切そうに開いた。


中に入っていたのはレストランの紙ナプキンだ。

文字が書いてある。

「手紙だ!」

25年も前の、しかも紙ナプキンに書かれた手紙。

「ちゃんと、文字が残ってる!」

「ママから、カズくんへのラブレターだ!」


「これ、高校の時のだ。」

ママは1枚ずつ大切そうに手に取り、読んでいる。

「ママ。カズくん。美来も読んでいい?」

「俺は良いけど。」

「私もいいよ。」



「カズくんと私はバイト先で知り合ったから、違う高校だったの。」

「カズくんが学校終わって、私の家の近くのファミレスに来てくれたの。」

「私は父親が厳しくて門限が8時だったから、会える時間が少なくて。」

「ファミレスで2時間くらい話をしてた。」

「会える時間が短いから、宿題って言って手紙交換したね。」

ママが泣いてるの、初めて見た!


“元気だった?”

“ちゃんと顔覚えてた?”

“私には6日ってけっこう長かったな。”

“やっぱり週1回はさびしい。”

“夏休みまではしょうがないかな。”

“はやく夏休みになればいっぱい遊べるのに。”

“3か月のプレゼントはやくあげなきゃ。”

“返事書こうね。”

“かおりchanより”


「付き合って3か月くらいなんだね。」


“プレゼントいっしょに決めてくれるっていうし、”

“ケーキの本も借りたからさ。”

“もしケーキじゃなくてもゆるしてね。”

“なんか作るからさ。”

“よろぴく。”

“かおりchanより。”


「馬鹿なこと書いてる。」


「これがその後の1年記念の時のケーキを作ってきてくれた時のカード。」


“かずくん大好き”

“もうすぐ1年がんばろうね”

“かおり”


「当日に会えないから数日前に1年記念した。」


“かずくんへ”

“かずくんがうわきしなければぜったい、いどうはないから。”

“これはほんとやくそくできる。”

“だからきあいでがんばろう。”

“1.5じゃなくてよかった。”

“だいすきだよ。”


「これが1年半にもらった手紙」

「なんでこんなに“ひらがな”ばっかなの、私!」

「いどうってなに?」

「彼氏を乗り換えの移動はしないって意味。」

「なんかね。俺が浮気してんじゃないかって疑ってたみたい。」

「香織以外の人を好きになんて、ならなかったのに。」

「しょうがないじゃない。不安だったんだもの!」


“かずくんへ”

“今日こなかったらどうしてやろうかと思ったけど”

“来たからよかったぁ!”

“後楽園もはやく行きたい。”

“ディズニーランドも行きたい。”

“いっぱいつれてってね。”

“だいすき!”

“かおchanより”


「これは高校卒業してからだね。」

「俺は卒業してすぐ就職しちゃったから。」

「なんか仕事でもあったのかもね。」


“やっほー”

“がんばって仕事してますか?”

“もしかしてずっと電話しなかったのおこってる?”

“でもやっぱり夜電話する勇気はないよ。”

“こわいもん。”

“ごめんね”

“はやく日曜日にならないかな。“

“はやくかおみたいな。“

“火曜日からみてないから、はやくかおみたい。“


「当時は携帯とか無くて家電しかないし、子機も無かったから、夜は電話しにくかったね。」

「長話すると親がうるさかったね。」

入り込めない。

二人だけの思い出。

ここに私はいない。

ちょっとくやしい。


「これが19歳の誕生日にもらったカード」


“19才おめでと。”

“これからもなかよししてね。”

“かおり”

“かずくん、大好き!”


こんな子供っぽいママ、想像つかない。

当たり前か17から19ぐらいだから今の私より若いんだし。

子供っぽいけど、カズくんを好きな気持ちが溢れてる。

知ってたけど。

本当に好きだったんだ。


「懐かしかった。」

「ちょっと思い出したよ。カズくんを好きだった時の気持ち。」

「カズくんと出会ったこと、今なら後悔してない。」

「カズくん、ありがとう。」

「よかった。」


「っていうかさぁ。」

「こんなの25年も持っているから引きずっちゃうんだよ。」

「え?」

「これは私が没収する!」

「えーーーーー!」

「それは無いよ、俺がもらった物じゃん!」

「私が書いたやつだ。私の物だ!」

「美来もなんか言ってよ。ひどいって!」

「いーや、これはママが正しい!」

「え?なんで?」

「だってさ、こんな若くてかわいい奥さんがいて、しかも妊娠してるんだよ。」

「昔の彼女のラブレターを、後生大事に持ってるってどうなのよ!」

「あーーっ、それは美来が正しい!」

「えーーー。」

「大体さぁ、美来とママだからいいけどさぁ。」

「缶にラブレター25年も保管しとくとか、普通の人ならドン引きだからね!」

「えーーー。」

「こういうのって大事に取っておくもんじゃないの?」

「これは私が墓まで持ってく!」

「私の宝物だ!」

「そんなぁ。ひどいよぉ。俺の思い出を返してよ。」

これはママの勝ちだ。

カズくんは私が後で慰めてあげよう。


ママに手紙を没収されて、カズくんは落ち込んでいる。

しょうがないなぁ。

「はい。カズくん。」

「ラブレター!」

「今、書いてあげたんだぞ!」


“カズくんへ”

“1週間会えなかったの、ずっと寂しかったんだぞ!”

“もっと奥さんを大切にしてください。”

“一緒に赤ちゃんの名前考えてね。”

“一緒に赤ちゃんの服買いに行こうね”

“ずっと一緒にいようね”

“今度からは美来がいっぱい手紙書いてあげるね。”

“だからもう落ち込まないでね。”


“いつもいつも優しいカズくんへ”

“大好きだよ。”


「どうだ!うれしいか?」

ぎゅっと抱きしめられる。

「嬉しいよ。美来」


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