第23話

「カズくん、カズくん!見てみて!」

「ほら!妊娠した!」

「あっ、おしっこかけたんだった。」

ギュッと抱きしめられた。

「一緒に病院いってみよ。」

「うん。」


「はい。おめでとうございます。」

「妊娠6週目になりますね。」

「ちゃんと生理周期をメモされていたのはとても助かります。」


「先生、これから私はどんな生活をすればいいですか?」


「そうですね。」

「タバコは吸われますか?」

「いえ。」

「家族で吸われる方はいらっしゃいますか?」

「いえ。いません。」

「なら大丈夫ですね。」

「妊娠中はご自分が吸われるだけでなく、受動喫煙もよくありませんのでお気を付けください。」


「アルコールは飲まれますか?」

「はい、ビールは毎日飲んでます。」

「アルコールは胎児に悪影響が起きやすく、低体重や奇形が起こる場合もありますので出産まで控えて下さい。」

「カズく~ん。」

涙目で訴える。

「ノンアルコールビールでも駄目なんでしょうか?」

「ノンアルコールビールはアルコール1%未満の物を言います。」

「1%未満でもアルコールが含まれますので、過度に飲まれると変わらなくなりますので少量にしてください。」

「わかりました。」

「食べ物ですが、生肉や生魚は食べないようにしてください。」

「寄生虫や菌に感染すると赤ちゃんに悪影響がおこることがあります。」

「はい。」

「先生、セックスは出来るんですか?」

「セックス自体は大丈夫ですよ。」

「でも子宮内に、ばい菌が入らないように注意して、コンドームも使うようにしてください。」

「そういえば、カズくんとゴム使ったことないね。」

「言わんでいい。」


「では次回の来院までに、市役所で母子手帳の手続きをして来てください。」

「はい。」


「カズくん!」

「ゴム買ってきたよ!一番薄いやつ!」

「今日、これ使ってみようよ。」

「大きな声で言わないの。」


「美来が付けてあげるから教えて。」

「袋から出して、表裏があるから見てみて。」

「ちょこんとしたやつがある方が表ね。」

「それを乗せて、あとはゴムを転がすように伸ばしていけば大丈夫。」

「できた!すごい!」

いつも以上に、丁寧だ。

気を遣ってくれるのが、とっても嬉しい。

優しい。

「なんか初体験みたい。」

やさしくキスされる。

いっぱいキスされる。

ちょっと擦れて痛くなってきた。

もう30分以上しているのではないだろうか。

「カズくん、ちょっと痛くなってきちゃった。」

「ごめん。」

「ゴム付けてたから、イけなかった?」

「悪い。そうみたい。」

「じゃあ、こっちでしてあげるね。」

良かった。

感じないわけじゃなかった。

顔を持ち上げられる。

引き寄せてキスされる。

もっとしてあげたくなっちゃう。


「カズくんに初体験あげたかったなぁ。」

頭を撫でられる。

「私は最低な初体験だったから。」

「どうかしたの?」

「嫌なら話さなくてもいいけど。」

「もう今更だからいいけど。」

「普通に付き合って、普通に流れでしたんだけど。」

「あんまり痛く無かった。」

「気持ち良くもなかったけど。」

「美来は初体験の時、血が出なかったんだよね。」

「そしたら、“処女じゃなかったの?”って言われたの!」

「ひどくない?処女だって、血が出ない子だっているのに。」

「なんで自分で、“処女だよ”って言わなきゃいけないのさ。」

「ちゃんとする前に、初めてだって言ったのに。」

「家帰って、お風呂入って、体洗ってたら、血が出てきてさ。」

「なんで今更、出てくんだよ!って思って泣いちゃった。」


抱きしめてくれた。

「カズくんはあったかいなぁ。」

「美来。」

「カズくん。ずっと一緒にいて。」

「ああ。ずっと一緒にいよう。」


初体験の元カレを久々に思い出した。

楽しい思い出も、あったはずなんだけどなぁ。

悪い印象の方が強くなっちゃったな。

お前と別れた美来は、今はとっても幸せなんだからな。

ざまぁみろ!


「俺は今、美来がいるから十分だよ。」

「香織がいてくれたから、今の俺がいると思ってる。」

「美来に何人彼氏がいたかは知らないけど」

「二人だよ、たった二人しかいないよ。」

「じゃあ、その二人に感謝しておくよ。」

「二人のおかげで今の美来がいて、今の美来が大好きです。」

うれしい。真顔で言われると照れる。

「大切にします。」

「だから、どうか安らかに眠ってください。」

昔の彼氏たちは抹殺されたらしい。


「それって、やきもち?」

「しらない。」

「カズくん!大好き!」

おでこにキスされる。

もう一度プロポーズされたみたいでうれしい。

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