第19話
結婚式は
新郎であるカズくんと、私の年の差に驚いている人もいるようだ。
それは予想通りだ。
新婦である私が登場する。
ママに手を引かれ、入場する。
ヴァージンロードの赤いじゅうたんを、ゆっくりと歩く。
「どうだ!きれいだろ!」
「あぁ。とっても綺麗だよ。」
神父さんが誓いのフレーズを話す。
二人で誓いをたてる。
「では誓いの、口付けを。」
軽く、口づけをする。
3秒ぐらい、しないといけないらしい。
恥ずかしいなぁ。
結婚式が終わり、披露宴会場に移動する。
下の階で披露宴が出来るように式場を選んだ。
問題は、ここからだ。
新婦からのご挨拶がございます。
「皆様、この度は私たちの結婚式にお越し頂き、ありがとうございます。」
「ここにお集まり頂いた皆様は私の大切な親戚の方と友人たちです。」
「私の親戚の方々はすでにご存じなので」
「私の友人たちには、この場をお借りして、本当の事を話したいと思います。」
「みんなも驚かれたと思いますが、カズくんと私は25歳年が離れています。」
「カズくんはママと同じ45歳です。」
「カズくんと会ったのは偶然です。」
「でも、私は、この人の顔を知っていました。」
「昔、ママのアルバムの写真で見たからです。」
少し、間が空いてしまった。
「ママとカズくんは、昔、16歳から20歳まで交際していました。」
「最初は興味本位でした。」
「でも、出会って、話をして。」
「時間が経つごとに、私はカズくんを、好きになっていきました。」
「最初に結婚してほしいと伝えたのも私です。」
「でも、その後、ちゃんとプロポーズをしてくれました。」
覚悟を決める!
「ママは私を女手1つで育ててくれました。」
「とっても感謝しています。とってもとっても大好きです。」
「そして、ママがいたから、カズくんに出会えました。」
「私は今のカズくんが、優しいカズくんが大好きです。」
「ママとカズくんが、昔、出会って、付き合ったから。」
「今のカズくんがいると思います。」
「そしてママとカズくんが別れたから。」
「私が生まれて、カズくんに出会うことが出来ました。」
「私はママとカズくんが大好きです。」
「ずっと一緒にいたいと言いました。」
「そして私たち3人は家族になりました。」
「カズくんと出会って、いっぱいの愛情をもらいました。」
「本当のパパにも出会うことが出来ました。」
「妹の紀香ちゃん、弟の優紀くんにも出会うことが出来ました。」
「どこかで誰かの出会いが足りなければ、今の私の幸せはありません。」
「知らない人からしたら私たち3人は変な家族かもしれません。」
「でも、私たちは、誰かに恥じるような事はしていません。」
「だから胸を張って、みんなに紹介したいんです。」
「これが私の大切な家族だよって」
「だから、私たちの事を見守ってください。」
「よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をした。
会場は静まり返った。
パチパチとまばらに拍手は起きた。
しかし、あまりの出来事に困惑しているようだ。
やっぱり、正直に話さない方が良かったのかな。
やっぱり、受け入れられない事なのかな。
「ここで新郎からのサプライズがあります!」
「えっ?」
頭が真っ白で、思考が追い付かない。
カズくんが立ち上がる。
「花婿さんから、花嫁さんへ歌のプレゼントです!」
「曲は嵐さんの”カイト”です。」
曲が始まる。
私の目をじっと見つめる。
「え?」
歌い始めた!
私の目を、じっと見ながら、歌っている。
間奏の合間、手が差し出される。
私は手を乗せる。
歌詞を全部覚えているの?
カズくんは私の目を見たまま、目を離さない。
私もカズくんの目を離せない。
カズくんは笑った。
そうだ、誰に何を言われたっていい。
どんな目で見られたってかまわない。
私は、この人を信じよう。
私は、この人の、この目だけを見ていれば良いんだ!
一曲すべて、目を見つめ合ったまま、
カズくんは歌い切った。
「では2曲目です!」
「え?」
司会の方が進行する。
こんな演出は聞いていない。
「2曲目はスマップさんの”世界に1つだけの花”です。」
「こちらはモニターにカラオケ用の歌詞が出ますので、
皆様もどうか、花嫁さん、花婿さんの為にご一緒に歌ってください。」
2曲目の前奏が流れる。
カズくんは、まだ私の目を見たままだ。
手は握ったままだ。
手が恋人つなぎに直される。
指と指が絡み、手に力が入る。
手が動き出す。リズムを取りながら。
歌いだした。これも目を見たままだ。
歌詞を覚えているのだろう。
すごいな。
そこまで歌は上手ではない。
でも、やさしい声が聞こえる。
カズくんの声だ。
今度はゆっくり、回りだした。
くるくると2人で回りながら、カズくんは歌い続ける。
途中から客席からの歌声も大きくなってきた。
みんなも歌ってくれている。
カズくんから目が離せないけど、
回っているので、みんなが歌っているのもわかる。
祝ってくれているのがわかる。
曲が静かに終わる。
客席から大きな拍手が起きた。
私はカズくんに抱き着いてしまった。
すごく、すごく、うれしかったから。
客席からヒューヒューとかキスしろー。と聞こえる。
カズくんが優しくキスしてくれた。
みんなが祝って、歌ってくれた。
うれしくて、うれしくて涙が出た。
ありがとう。みんな。
ありがとう。カズくん。
「皆さん、ご一緒に歌って頂いて、ありがとうございました。」
「これからも美来の友達でいてあげて下さい。
「よろしくお願いします。」
とカズくんは挨拶をして、お辞儀をした。
カズくんは司会のスタッフさんに合図を送り、
キャンドルサービスへと移る。
「では、新郎、新婦が各テーブルにキャンドルを付けて回ります。」
「皆様には、お祝いのお声をかけて頂きますようお願いします。」
私とカズくんは一緒に挨拶とキャンドルを付けて回る。
「美来!びっくりしたけど、すごく素敵な式だったよ。」
「感動したよ!おめでとう!」
「男嫌いだった美来が、一番最初に結婚するとは思わなかったよ。」
みんなが、お祝いしてくれる。
良かった。
カズくんが歌ってくれたおかげで、場が和んだようだ。
おばあちゃんを自宅に送って
私たち3人は車で自宅へ向かう。
カズくんが運転して、ママと私は後ろの席に座っている。
「みんな、あの場では祝福してくれたけど大丈夫かな。」
「大丈夫。」
「美来のまっすぐな気持ちは、伝わったと思うよ。」
ママは優しく肩を抱いてくれる。
「そうだ、カズくん!なんで歌詞見ないで歌えるの?」
「俺ね。300回くらい聞くと歌えるようになるんだよね。」
「300回って!すごすぎ。」
「そう?1日20回聞いて、たった15日だよ。」
「いや、ふつう飽きるか、諦めるから。」
「美来のためだから。」
そんな風に言われると、何も言えない。
「でも、あの目を見て歌うの、絶対!他の人にしちゃダメだからね。」
「しないよ。美来だけ。」
「そんなに良かった?」
「惚れ直しちゃった!」
「あのスタッフさんへの合図は?」
「よく気づいたね。」
「あれはね。みんなが歌ってくれなかったら、あと2曲歌って時間潰すつもりだった。」
「歌ってくれたから、キャンドルサービスを予定通りやりますって合図。」
「式を壊すって、そういう意味だったんだ。」
「ちゃんと私とママを心配して、準備してくれたんだね。」
「ありがとう。カズくん!」
「今夜の結婚初夜は、大サービスして2回しちゃう!」
「それって、俺が大変なんじゃないの?」
「まだ私がいるんだよ。」
「そういう話は家帰ってからしなさい。」
「もう無理ぃ。」
「美来が2回したいっていったんだぞぉ。」
「2回目が長すぎぃ!」
「もう30分以上経ってるよ。」
「でも痛く無いんでしょ。」
「気持ちいい!」
「でも、死んじゃうよぉ。」
「死なないってぇ。」
「頭おかしくなるよぉ。」
「今日くらいおかしくなっちゃえば?」
「耳元で話すなぁ。」
カプッ!
「耳噛むなぁ!」
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